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13話 初詣と豪邸での新年会



 冬コミから数日後、2021年1月1日。


 ぼくはこの日、朝から里花りかと会う約束をしていた。


 最寄り駅近くの、大きな神社の入り口にて。


「あ、しんちゃーん」

里花りか!」


 白いコートにマフラー、茶色のタイツとブーツを着た美少女……。


 松本 里花りかがやってきた。


「ごめん、待たせちゃった?」

「ううん、今来たとこだよ」


 じとー、と里花りかがぼくを見てくる。

「なぁに?」

「今……10分前なんですけど。何分前から居たの?」


「え? 30分前かな」


 はぁ……と里花りかが溜息をつく。


「え、なに?」

「こんな寒い中30分も待ってなくっていいのに」


「えー、でも遅れたら相手に申し訳ないじゃんか」

「まー……うん。それもそうかもね」


 ふふ、と里花りかが笑うと、ぼくに頭を下げる。


「あけましておめでとう、しんちゃん」

「うん! 今年もよろしくね、里花りか!」


 ぼくらは並んで神社の中へと向かう。


 もちろんというか、なんというか、ナチュラルに手をつないでいた。


 ほら、人混みがいるから……ね、と。


「わぁ人いっぱいねぇ……くしゅんっ」

「大丈夫?」


「うん! 平気平気っ」


 でも里花りかはやっぱり寒そうだ。


 厚着はしてるけど……心配だなぁ。


「はいこれ、カイロ。使って」


 ぼくはポケットに入れていたカイロを里花りかに渡す。


「いいの?」

「うん、もう一個あるし」

「そか。ありがとっ。ふふっ、しんちゃんは優しいなぁ~」


「君ほどじゃないよ」

「あらそーう? ふふっ♡」


 ぼくらは長い列に並んでいる。

 けれど……。


「今年やるデジマスの映画楽しみよねっ」

「うん! 天空無限闘技場編! 最高のエピソードだもんね!」


「わかる! レイがもー渋くてかっこいいのよね!」


 ぼくらはアニメの話で盛り上がる。


 だからぜーんぜん長い列に並ぶのも苦ではなかった。


 気づいたら、賽銭箱の前にいた。

 里花りかが財布をとりだして、ふとぼくに聞いてくる。


「5円玉ある?」

「あ、ないや」


「じゃああたしの使って」

「ありがとっ」


 ぼくらはお金を賽銭箱に入れて、お参りをする。


 今年はいい年になりますように……。


 そして里花りかと、仲良く出来ますように……。


 ぼくらは参拝を終え、賽銭箱の前から離れる。


「なんてお参りしたの?」


 ぼくが尋ねると、かぁ……と里花りかが顔を赤くする。


「わ、笑わない?」

「うん。もちろん」


「しんちゃんと、その、あの……もっと仲良くなれますようにって」


 立ち止まって、照れたように里花りかが髪の毛を触る。


「ほ、ほら! ニセコイ! ニセコイしなきゃだから、さ。クラスの連中に、復讐するためには、仲いいとこ見せなきゃでしょ!」


「あ、そっかぁ~……」


 ちょっぴり残念。

 復讐とか関係なく、仲良くしてくれたら、最高だったんだけどなぁ。


「な、なんでそんな残念そうなのよ。もうっ」


 とはいいつつも、ふにゃふにゃと里花が口元を緩ませていた。


「くしゅん」

「甘酒でも飲んでこっか」

「いいわねっ!」


 ぼくは近くの屋台で甘酒を買って、里花にプレゼントする。


「あんがと♡」

「いえいえ」


 ぼくらは二人で神社内のベンチに座り、甘酒を飲む。


 じんわりと、体の奥から温かくなる。


「あの、里花?」

「なによ」


「人混みから外れてるのに、なんで手をつないだままなの?」


 里花は右手を、ぼくは左手を重ねている。


「か、勘違いしないでよね! これはその……手が冷たいだけだから! あんたを利用して、手を温めてるだけなんだからね!」


 ぷいっ、とそっぽをむく里花。


 そ、そっかぁ……暖めてくれてるんだ。


「ありがとぉ~」

「……言葉通り受け止めすぎなのよ、まったく」


 甘酒を飲み終わった後、ぼくらは神社の中を歩く。


「せっかくだし屋台で何か食べてかない? 少しおなか空いちゃった」


「え、うーん……」


 ぼくが悩んでいると、里花が首をかしげる。


「どうかしたの?」

「あ、えっと……このあと親戚の家で新年会があって」


「新年会? あら、そうなの」

「うん、そこで料理とか結構出るし、できればおなかは空かせておきたいかなって」


「うん、わかったわ」


 とても物わかりの良い子で助かった。


 妹子は結構わがままで、ぼくの言うこと何も聞いてくれなかったからね。


 ぼくらは神社の外までやってきた……。


「おーうい! 真司しんじくーん!」


「あのターミネーター風の格好は……三郎さん?」


 里花が目を細める。


 視線の先には、黒服にサングラスの大男、三郎さんがいた。


「あけおめ。どうしたの?」

「お迎えに来たんだよ! 本家の新年会っしょ、今日」


「本家?」


 はて、と里花が首をかしげる。


「まー……親戚みたいな感じ。迎えにきてくれてありがと」


 近くにリムジンが置いてあった。


「そうだ! 里花ちゃんも一緒にどう、新年会? ねえ真司しんじくん!」


「え!? い、良いわよ……あたしは」


 三郎さんの提案……確かに良いかも。


「一緒に来てくれない? 新年会」

「ええー!? な、なんでよ」


「本家の新年会って、人たくさんくるんだけど、いつも暇でさ。話し相手がいてくれたほうが助かるんだ」


「そ、そうなんだ……」


「お願い、里花」


 里花が悩んだ後、小さくと息をついて、頭を下げる。


「じゃあ……ご相伴に預かります」


「よーし! そうと決まれば、ささ、乗った乗った!」


 三郎さんの運転で、ぼくらは本家のお屋敷へと向かう……。


「ね、ねえ……しんちゃん。本家って、どこにあるの? ここらへん……高級住宅街だけど……?」


 窓の外を見ながら、里花が恐る恐る尋ねてくる。


「もうすぐつくよ。ほら、あれ」

「えええええええ!? 何この、超豪邸ぃいいいいいいいいいいいい!」


 大きめの屋敷がある。

 門の前にはサングラスをかけた、グラマーなお姉さんが立っていた。


 リムジンがお姉さんの横を通り過ぎて、中に入る。


 リムジンが何台も並んでいた。


「はい、到着ですぜい!」

「こ、ここ……? ここが、しんちゃんの……実家……?」


 リムジンから降りた里花が、唖然とした表情で、本家のお屋敷を見やる。


「うん。まあ正確に言うと、実家って言うか、まあ遠縁の親戚の家だけどね」


「大河ドラマのセットかと思ったわ……なんてでっかいのよ、この屋敷……」


 三郎さんに連れられ、ぼくらはお屋敷へと入っていく。


「本家のじいちゃんは?」


 前を歩く三郎さんにぼくが尋ねる。


「今お嬢と一緒に挨拶の真っ最中じゃないかな」


「じゃ、本家のじいちゃんと流ちゃんへの挨拶は、あとでかな」


 ぼくらが通されたのは、大きな和室。


「…………」


 里花が呆然と突っ立ってる。


「どうしたの?」


「いや……その……なに、この……え? パーティ会場ですかここ?」


「? 普通の客間だけど」


 体育館くらいの大きさの和室だ。


 料理がずらーっと並んでいる。


 親戚とか、知らない人たちが顔を真っ赤にして、お酒を飲んでいた。


 ぼくらは端っこの方へと向かい座る。


「相変わらずじいちゃんのお客さん多いなぁ」


「あ、あ、あのさ……しんちゃん……あれ、なんだけど」


 お客さんのひとりを、里花ちゃんが指さす。


「アレって……さ。見間違いかしら……総理大臣、じゃない?」


 ちょっと離れたところで座っているおじさんを指さす。


「うん」

「うん!? 今あんたうんっていった!?」


「え、うん。だって……ねえ。新年会だし、来るでしょ普通」


「普通じゃないわよ! どこんちの新年会に、総理大臣が出席してるのよ!」


 ほどなくすると、三郎さんが料理をたくさん抱えてやってくる。


「さあさあたーんとお食べ! 伊勢エビとってきたよ伊勢エビ!」


「わぁ! ありがと! じゃ、食べよっか」


 ぼくは里花と一緒にご飯を食べる。


 その間、里花は出席者たちをつぶさに見ていた。


「あの……さ。おかしくないここ? なんか……プロ野球選手とか、女優とか、政治家とか、めちゃくちゃ有名人いっぱい居る気がする……」


 出席してるおじさんおばさん連中を見て、呆然とつぶやく里花。


「うん」

「いやうんって! だからここなんなの!? おかしいわよ!」


「えー、そうかなぁ。昔から、本家の新年会はこんな感じだったよ」


「てゆーか! 本家ってなに!?」


 そこからかぁー……


「えっと、ぼくんちちょっと特殊で……。ここが開田って、そこそこ大きな家なの。そこの分家に洗馬せばとか上田とかがあって、ぼくは分家の子ってわけ」


 愕然とした表情を浮かべる里花。


「ん? どうしたの?」

「き、聞き間違えかしら……開田かいだ? 今、開田っていったの?」


「うん」

「そ、それさ……旧財閥の一つの【開田かいだ】グループじゃないの? 日本有数の大企業の?」


「え、うーん……。旧財閥とか、日本有数とかは知らないけど、開田グループは本家のじいちゃんの会社の名前だったよ確か」


 里花が、開いた口がふさがらないみたいな感じで驚いてる。


「しんちゃん……あんた、めちゃくちゃ金持ちなのね……やっぱり」


 やっぱり?


「まーでもほら、凄いのは本家の開田と、あと洗馬の家で、上田は分家の中でも地味なほうだし、金持ちってほどじゃないよ」


 ぼくんちなんて普通普通。


 しかし里花は大きく溜息をついて、こういう。


「いや、あのタワーマンションに住んでる時点で、それはないから……」


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹子は良くも悪くも明け透けに物言うタイプだったから、真司と妹子のカップルは成立してんだろうなぁ。そう考えると二人は案外悪く無い組み合わせだったのかもしれない。
[一言] それだけ圧倒的な経済力の差があるなら主人公に悪意持ってたクラスメイト達の親の首飛ばして(失業させて)家庭を破滅させるくらいのざまぁはしてほしいかな 許すんならクラスメイト達が土下座で命乞いし…
[一言] 開田の人間かーーーーーーい!
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