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12話 元カノの後悔 その2



 上田 真司しんじが幸せな時間を過ごしている、一方。


 12月31日の夜。


 上田の元カノ……中津川なかつがわ 妹子いもこはというと。


「おそい……何してるのよ、粕二かすじくん……」


 時刻は23時半。

 妹子は彼氏である木曽川 粕二かすじとデートする予定だった。


 今日は年末ということで、初詣デートをするつもりだったのだ。


 23時に集合だったのだが……。


「もう30分も待たせるなんて! 何考えてるの! 信じられない!」


 そもそもこのデート自体、木曽川はあまり乗り気出ない様子だった。


 しかしせっかく恋人になれたのだ、年末は特別な時間を過ごしたい。


 熱心に妹子がさそい、木曽川がしぶしぶ了承して今にいたる。


「遅刻なんて……真司しんじくんは一回もしたことないのに……!」


 元彼の上田は、いつどこでデートしようと、かならず30分前には現場に到着していた。


 一度も妹子を待たせるようなことはなかったのに……。


「連絡すらいれないなんて……! まったく……!」


 妹子はしびれ切らし電話をかける。

 ほどなくして木曽川が通話に応じる。


『おう妹子。どーしたよ?』

「どうしたよ、じゃないわよ! 今何時だと思ってるの!?」


『あん? おまえ何切れてんの?』

「今日! デートでしょう!?」

『あー……そーいやそーだったわ。わり、忘れてたわ』


 ……なんだこの男は。

 ふつふつと怒りがわいてくる。


「信じられない! 恋人とのデートを忘れるなんて! どうかしてるわよ!」


『耳元でぎゃんぎゃんうっせえなぁ~……ったく』


 どうして自分が遅刻してるのに、申し訳なさそうにしてないのだろうか。


「とにかく! さっさと来なさいよね!」


『はー? 命令すんじゃねえよ、女の分際でよ』


「んなっ……!?」


 なんだその言い方は……。

 なんだその女を軽んじるような、態度は。


「あ、あなたねぇ……!」

『つーか今から行くのだりぃし、今日はパス』


「なっ! そんなこと……認めないわよ! ちゃんと来なさいよ!」


 ぶつんっ……!


「ちょっと! 粕二かすじくん!? ねえ!」


 木曽川に連絡を入れようとする。

 だが連絡がつかない。


「んもぉ! なんなのよぉ!」


 悔しそうに歯がみして地団駄を踏む。


「デートの存在をすっぽかしたうえにドタキャン!? 信じられない! 真司しんじくんは……真司しんじくんはそんなこと、一回もしたことないわよぉ!」


 憤る妹子を、端から見てる人たちが、クスクスとさげすんでいる。


「……トラブってるかんじ?」「……やだぁ、かわいそー」


 庶民どもが……! 馬鹿にしてるんじゃない、と内心で歯がみする妹子。


 彼女はその他大勢の一般庶民を馬鹿にしてる。


 裕福な家庭に生まれたからこそ、彼女は自分が上位の存在であると思っている。


 他者を見下している。


 ……だからこそ、周りから馬鹿にされることも、彼氏からないがしろにされることも、我慢ならないのだ。


「私……待つわよ。家に帰れるもんですか……こんな無様をさらして……!」


 兄と父に、今日は彼氏と年末デートするという話しはしている。


 またクラスメイトからも、年末の予定を聞かれ、彼氏と過ごすと答えていた。


 クラスメイトたちは年末集まって騒ぐ予定らしく、彼女も誘われたのだが、断ったのである。


「ちゃんと来なさいよ粕二かすじくん……!」


 ……だが、いくら待っても木曽川は現れなかった。


 気づけば2時間ほど経っていた。


「くしゅんっ! うう……寒いわ……」


 もうとっくに年越しは終わっている。


 ぼちぼち参拝客が少なくなってきた。


 極寒の中ひとり、来るかどうか不明瞭の彼氏を待つ妹子……。


 ここで帰る手もあったが、しかし後日クラスメイトや、家に帰れば家族達から追求は逃れられない。


 そのときにすっぽかされたなんて、恥ずかしいことは言えない。


 それに、妹子が来いと命令したのだ、木曽川は来て当然である……。


 と、そのときだった。


「きゃっはあ♡ かすくーん♡ さむぅーい♡」


「おうおう麗美ぃ~。もっとちかくによれやぁ~」


 聞き覚えのある声が近づいてきた。

 やっと木曽川が来たのだ……と思って、妹子は目をむく。


「なっ!? か、粕二かすじくん!? だ、誰よその女ぁ……!」


 木曽川の隣には、クラスメイトではない別の女がいた。


「おー、妹子。おめ、ずっと待ってたんか?」


「な……!」


 なんだその態度は……。


 デートに遅れてきただけでなく、他の女と平然と浮気して……。


 ばったり出くわしたというのに、申し訳なさそうにせず、普通に接してきた。


「かすくだぁれこのこ~?」

「ん? おれの女」


「やーだーかすくんってばぁ、浮気ですかぁ~?」


「おう、わりぃか?」


「んーん、いーよぉ♡」


 頭の悪い会話を繰り広げている……。

 だが、聞き捨てならないセリフを木曽川が言った。


「浮気……なに浮気してるのよあんたぁあああああああああ!」


 妹子の自尊心を踏みにじられ、堪忍袋の尾が切れた。


 怒りの表情を浮かべながら、木曽川のもとへ行く。


「あんたどういうことよぉ!?」

「んだよ切れるなよ……」


「デートには遅れる! ドタキャン! あげく浮気!? 信じられない! 頭おかしいんじゃあないの!?」


 切れ散らかす妹子だが、木曽川はあきれたように溜息をつく。


「人間として最低よあんたぁ……!」

「言葉を返すようだがよぉ、妹子」

「なによぉ!?」


 フッ、と木曽川が鼻で笑って、こういう。


「それ……全部おめえ、自分でやってね?」

「あ…………………………」


 がつん、とハンマーで頭を殴られたような、衝撃が走る。


「あの陰キャのオタクくんに、つい先週くらいにやったこと、そのまま返ってきてませんかぁ~?」


「あ……いや……ちが……」


「クリスマスイヴ当日にデートドタキャンして、浮気してたのぉ、どこのどいつかなぁ~?」


 木曽川の言うとおりだった。

 動揺する妹子をよそに、彼は勝ち誇ったように言う。


「おれを最低とか言ってたけどよぉ、おめえぇも同じ穴のムジナだよなぁ。最低のクズ女だよてめえよぉ」


「あ……ちが……ちがう……違う! わ、わたしは……違うわぁ!」


「ちがくねえよバーカ」


 木曽川の隣の女が、クスクスと笑う。


「えー、なぁにこの子、自分のこと棚に上げてかすくんのこと非難してたの~? うわ、ばかじゃーん。おまえが言うなだし~」


「なぁー、馬鹿女だよなぁ~」


 二人してゲラゲラと笑い、自分を馬鹿にしてくる。


 恥ずかしかった。


 こんなレベルの低いクズ男と、馬鹿そうな女に、馬鹿にされるなんて……。


 大企業の社長令嬢である自分の名誉を、激しく踏みにじられた気分になった。


「さ、最低よ! あんたなんか……もう知らないわ! 別れてやる……!」


 だが木曽川は、にぃ……と笑う。


「そんなことさせるかよ。おめえは金づるなだしよぉ」


「か、金づる?」


「あーそーさぁ」


 にやぁ……と邪悪に笑う木曽川。


「おめえウルトラめんどくせえくそ女だけどよぉ、金だけはもってっからさ。キープしてやるよ~」


「なに……よそのいいかたぁ! 馬鹿にするのもいい加減になさいよぉ!」


 とことん女である自分を馬鹿にしてくる木曽川。


「まーそー熱くなるなって。で、何だっけ? 別れる? まぁいいよ、勝手にすればぁ?」


 あっさりと別れることを了承する木曽川。

 

 だが妹子としてはもう彼と付き合う気もさらさら無いので、このまま別れようとする。


「ただしよぉ、金だけはよこせよな」


「なっ!? 金ですって!?」


「そうだよ。金。マニー。別に女に困ってないしぃ? おまえが別れたいってんならどーぞ勝手にすりゃあいいよ。ただし……」


 木曽川はスマホを取り出す。


 画面には二人でキスをしている写真が写っている。


「ネットにこの写真とスキャンダル流されたくなかったら、しばらくおめえ、おれの財布な」


「なっ!?」


 驚愕する妹子をよそに、ひひひ、と木曽川が邪悪に笑う。


「天下のTAKANAWAの社長令嬢さんが? 堂々と浮気してました! なーんてネットで知られたら、どうなるだろうなぁ~?」

 

 間違いなくスキャンダルになるだろう。

 最悪、親の会社の評判を落とす羽目となる……。


「おめえのせいで会社潰れちまうかもしれないなぁ~?」


「や、やめて……! それだけは勘弁してぇ!」


 スマホをしまうと、木曽川は勝ち誇った笑みを浮かべる。


「そんじゃあよぉ、おまえしばらくおれの奴隷な。ど・れ・い」


「……そ、んなぁ~」


 がくんと膝をつく妹子。


 木曽川は見下しながら笑う。


「別にクラスの連中に別れたって言ってもいいぜ。でもおめえ自分がオタクくん振ったってこと忘れねえようにな。そのうえでおれと別れたってなりゃ、さぞ笑いものなるだろうからなぁ!」


「てゆーかぁ、今の時点で、だいぶこっけいなんですけどぉ~?」


「まったくだ! 女の分際で偉そうにしてんじゃあねえぞカス!」


 暴言を一方的にあびせられ、妹子の自尊心はもう傷つけられまくった。


 気づけば木曽川はおらず……寒い中、ひとり妹子は、後悔していた。


「なん……で……こんな……最低男に……ひっかかっちゃったんだろ……」


 ぽたぽた……と涙がこぼれ落ちてくる。


真司しんじくんは……こんなひどいことしなかった……真司しんじくんは……やさしかった……なのに……」


 新しい彼氏に、ドタキャンして別れを一方的につきつけ、そして浮気されていた……最低の気分だ。


 上田もこんな気持ちだったのだろうか……。


「私は、なんてことを……なんてことを!」


 木曽川のくそムーヴが、あまりにクソすぎた。


 相対的に上田がマシ……というか、かなり良い彼氏だったことが浮き彫りになる。


 女を馬鹿にするような言動はなく、いつだって彼女である自分を尊重してくれた。


 確かに頼りない部分はあったけれど……優しかった。


 それなのに、外見だけで木曽川を評価して、上田を振ってしまった……。


 ああなんて、おろかだったのだろうか、自分は……。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そ、んなぁ〜 のリアクションが安っぽい 仮に彼氏から浮気された上にATM宣言された時にこんな言葉出るとは思えん もう少し別の語彙で書いて欲しかった
[良い点] 木曽川が、この手のクズキャラに珍しく、まぁまぁ賢いムーブと理論武装してる所好き。こんなめんどくさい女と付き合ってられるか!ってなるのもよく分かるし。 [気になる点] キス画像で社会的地位が…
[一言] 浮気とかすっぽかしは擁護出来ないけどここまで追い込まれる程の事かと言われたらそうでも無いと思うんじゃが……… キスだけでこんなんなるならもっとヤバい行為強要されて新しい脅しの材料にされる可能…
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