100話
《ダリアSide》
里香との密会を終えたダリアは、真司のいる自宅へと帰ってくる。
1階がホームセンターで、2階にはスーパー銭湯という、ものすごい大きなマンションの最上階。
ダリアが帰宅すると、とても温かな空気が出迎えてくれる。
昔では考えられなかったことだ。
前は、家に帰っても一人だった。
冬場は特に寒さが厳しくて、家に帰るのが嫌だった。
でも今は違う。
「お兄ちゃーん。かえったよー」
家に帰れば、愛する兄がいる。
廊下を渡っていくと、リビングに兄の気配がした。
ソファに横になって、スマホをいじっていた。
ダリアは兄のとなりにちょこんと座る。
「おかえり~」
真司が起き上がって、笑顔を向けてくる。
それだけで、ダリアの心はぽかぽかと温かくなるのだ。
エアコンの影響ではない。
真司がいるおかげだろう。好きだからかな、って思う。
ころん、とダリアは真司の膝の上に乗る。
最初は気恥ずかしかったり、遠慮したりでできなかった、兄に甘える行為。
今はもう、普通にできる。
これが成長だと思うと、ちょっと切ない気持ちになる。
あきらかに真司はドキドキしていないから。
家族になれたのだと思うと、複雑なのである。
「里香と何話してきたの?」
まあ聞かれるよな、とダリアは思う。
とはいえ。
「女子の秘密のお話」
チョコレート渡す計画を明かすわけにはいかない。
里香がせっかく準備するというのだから、ネタバレ厳禁だ。
「そっかー」
真司は、それ以上言及してこない。
その距離感がとても心地よかった。
そう、真司の隣はとても居心地がいいのだ。
ずっと、こうしてたい。甘えていたい。
「ん~」
ころころ、とダリアが体を左右にゆする。
「なぁに?」
「べつにー。甘えてるだけー」
「そっかー」
兄は拒絶しない。
甘えても、兄として答えてくれる。
そんな真司のことが大好きではあるが、分はわきまえている。
それに、真司にも里香にも幸せになってほしいと本気で思っている。
邪魔はしない。
あくまでも、妹ととして、兄に甘える。それくらいなら、許してくれるよね? と思いながら、ダリアは真司にひざまくらしてもらうのだった。