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「…それでは、行ってくる」
次の日の朝早く、イザベルは馬車に乗り込んだ。
何故か、奴隷達全員が屋敷の入り口へと集っていた。
「ご主人さま、早く帰ってきてくださいねっ!」
これからイザベルが何をしに神殿に行くかよく理解していないニコラは、純粋無垢な瞳でイザベルを見つめた。
幼いニコラが向けるその瞳は、日ごろからイザベルだけじゃなく、同じ奴隷たち全員の心を温めた。
「ニコラ、皆の言うことをよく聞くのだぞ」
イザベルの自分に向けた言葉が嬉しかったのか二コラは顔に笑みを作った。
「ナイン、これから私とラウルは屋敷に不在となるが、警備の方は頼んだ」
その言葉にナインは、何か言葉を返すことはなかったが、同意の頷きをする。
馬車に乗り込む寸前にイザベルは最後に声をかけた。
「リアム、ルディ、留守は任せたぞ」
「「はい。ご主人様お気をつけて」」
その言葉にリアムとルディ、そして双子が礼をする。
それを見ていたナインとニコルも慌てて頭を下げた。
「…ふっ。では、行ってくる」
イザベルのその言葉を聞いたラウルは、神殿へと馬車を走らせた。
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馬車の窓から過行く景色を眺めているだけで、あっという間に神殿へとついてしまった。
イザベルが馬車の戸を開けると、ラウルが近くに立ち、馬車から降りるイザベルに手を差し出す。
今日のイザベルはラウルの差し出すその手に迷うことなく、自身の手を添えた。
馬車を止めた場所から神殿の門の前へと向かうその短い時間にラウルは声をかける。
「ご主人様…」
主人のその身を気遣うつもりだったが、ラウルは言葉にしようと思っていたその後の言葉が続かなかった、
自身の言おうとしていた言葉に気づき、ラウルは即座に自身を責める
大丈夫なはずがないではないか!
最愛の主人の口からではないが、医者から聞いた祈りについての知識
それだけでもラウルは主人が感じる痛みや辛さは想像を絶するモノだと捉えることができた
『魔力過小』
それは、いつか聞いた言葉だ
それこそ今は亡き祖国の、共に戦場を駆けた親友の死の原因だった
ラウルから呼ばれその言葉の続きを待っていたが、ラウルはその後すぐに俯き、その言葉の続きを聞くことはかなわなかった。
そんな内につかの間の時間が過ぎ去り、イザベルとラウルは神殿の門の前へとたどり着く。
「…ラウル、早く屋敷へ戻りなさい」
イザベルのそんな声に、ラウルはあれからずっと下を向き、主人と過ごせる時間を無駄に過ごしてしまったことに気が付く。
「あっ…ご主人様っ」
そう言って門へと向かうイザベルの後姿にラウルは手を伸ばした
その手が掴まれることは決してない
ラウルは自身が奴隷であることを思い出し、伸ばした手を戻した
自分は奴隷なのだ。
思い上がるな、思いあがるな!
そう思い下げた手を握った。両の手の拳は力いっぱい握りしめられた。
門が閉まる
イザベルの後姿が見えなくなるその直前まで瞬きをすることなく見つめ続けた
なんだかんだ思い返したら、こちらの投稿始まってから2か月たっておりました!
日頃からこちらの小説をお読みいただき、本当にありがとうございます!




