02
イザベルは目が覚めたその時、一体自身の身に何が起こったか分からなかった。
つい先ほどだ。
先ほどまで自分はあの熱い火にその身を焼かれていた
あの火の熱さも焦げる匂いも鮮明に思い出せる。
それなのに。
しかし、目が覚めたイザベルは自室の机に向かっていた。
周囲を見渡してみると、机には書類が積み重なっており、今まさにそれを処理している最中のようだと思われる。
一体、何が起きたのだ?
熱くない、熱くないのだ
熱くない、痛くない!私は今、まさに生きているのだ!
イザベルは何か起きたのか一瞬考えが飛んだが、急に堪えきれない笑いが込み上げてきた。
「…ふっ、…ふふふっ、あはははっ!」
何が起きたか分からないが私は再び生きる事に成功したのだ!
今度は!
今度こそは絶対に絶対に失敗しない!
さあ、そうと分かればすぐにでもマルシャン家に仕える使用人達全て解雇しよう。
あの者達が私を裏切りさえしなければ、私があの様な結末を迎えることはなかった
あの者達が聖女ではなく、私を…
この私を信じてさえいれば、私は決して死ぬことはなかったのだ
***
憎い、憎い憎い憎い憎い
心中を憎悪の炎が駆け巡る
あの火あぶりにされる瞬間は今も鮮明に思い出せるのだ
熱い、苦しい、死にたくない
ー誰か、誰でもいい、助けてー
***
―さあ、早くしなければ―
使用人を呼ぶ呼び鈴を鳴らす。
「公爵様、お呼びでしょうか」
ドアを開け、恭しく入ってきたのは使用人達を束ねる年老いた執事長であった。
なんと都合のいい!
余計な手間をかけずに済む。
「執事長よ、お前を含む、マルシャン家に仕える使用人達全てを今日、この今をもって全員解雇する」
ああ、迷いのない自分の言葉はとても心地よい
しかし、初めて見たな
日頃余裕たっぷりな執事長であるこの男の驚愕した表情
私は一生忘れられないだろうな