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スープの旨味をとるため、鍋を混ぜながらルディは改めて厨房の中を見やる。
さすが公爵家だ。
王宮の食堂と大差ない設備、調味料、食材すべてが整っていた。
広い厨房の中で自分一人だけだが、それが反って自分がそこにいるという事を感じさせた。
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ルディは料理を作るのが大好きだった。
幼い頃自分の料理を食べた母や父の嬉しそうな顔が忘れられない。
その思い一心でルディはずっと料理人を目指し腕を磨き、厨房に立ち、料理を作る事を幸せとしていた。
ルディは奴隷になる前は王宮の食堂のコックだった。
偶然、王弟にその腕を認められたルディはとんとん拍子でその地位を駆けのぼる。
しかし、王宮とは実力だけで勝ち上がれるほど簡単な世界ではなかった。
平民の出身で、運よく王弟に認められ王宮の食堂に勤めることとなったルディはどう考えても嫉妬の対象になるのは至極当然の結果だった。
そんな時だ。
起こるべきして起きたことだろう。
―晩餐会でルディが作った料理に毒が含まれていたのだと―
平民で碌な後ろ盾もなく、嫉妬の対象であったルディの言葉を信じる者も庇う者もいなかった。
そんなルディが奴隷になるまではあまりに早かった。
それすらもすべて図られていたのだろう。
奴隷となってからは、ルディは王家に毒を盛った大罪人とし厨房に立たせる者等いなかった。
やりたくもない、向いてもいない力仕事ばかり任せられ、罰を与えられるだけの日々。
与えられる食事も食べられたものではなかった。
どこに行っても王族に毒をもった大罪人として扱われる
虐げられることよりも、自分のすべてであった料理を奪われる日々
死んですらしまいたかったが、奴隷となってからはそれすら禁じられる地獄の日々
もうすべて、すべて諦めようと思った。思っていたはずだった。
そんな時ふと現れた新たな主人。
今まで数えきれないほど言い続けてきた自身の身の潔白を。
それを奴隷商館での、あのたった一言で俺を信じたのだというのだ。
そして今俺はあんなにも渇望したはずの、厨房に立っている。
ご主人様は出した料理も何一つ戸惑うことなく口に含む。
今のご主人様は俺に料理を作らせてくれる
俺の料理を食べてくれる
何よりも、何よりも
俺の料理をうまいと言ってくれる!
しかし、ご主人様はなぜか俺たちが裏切ることをひどく恐れている。
一体なぜなのか。
それは今の俺たちに図り知ることはできない。
他の2人は分からないが、俺は俺だけは。
俺を信じてくれたご主人様を絶対に裏切るはずないのに