13
イザベルは、リアムに温室から戻った後朝食をとると告げると、リアムはそれをルディに伝えるために厨房へと向かった。
―奴隷とはこういうものなのか?―
そう考えながらも、イザベルは一つ息を吐いた後、温室へと足を進めた。
イザベルは温室に必要最低限の人間以外近づけることを禁じている。
なぜなら、この温室にはイザベルを養母と養父が眠っているからだ。
イザベルを愛してくれた2人を死してなお、彼女は守りたかった。
2人が眠る周囲には絶対に花を咲かせる。
どの季節でも花に囲まれている用に、温室への魔力の供給はこの屋敷の中でも高かった。
眠る2人の傍に久々にイザベルは来た気がした
夢であったようだが自身が嵌めれられ捕らえられてからは、ここに来ることすらできなかった。
会いたかった
いや、会いたかったは間違いだ。
イザベルは今でも会いたい。
唯一会いたくて会いたくて堪らないのは2人だけだった。
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温室を後にし、屋敷へと向かう際に馬の世話を終えたのであろうラウルと出会う。
「馬の世話は終えたのか?」
「おはようございます、ご主人様。はい、先ほど餌やりや掃除等済ませました」
そう問いかけたイザベルに、ラウルは変わらず淡々と返答する。
「お前に一つ聞きたい。…奴隷というものはこんなにも朝早くから働くものなのか?」
イザベルは、3人の中で最も年上であろうラウルに尋ねる。
「…ご主人様。奴隷というものは人間ではなく主人の道具なのです。人が道具を使うのに時間は関係ないのです。…少なくとも私は奴隷となってからはそのように生きてまいりました」
ラウルは変わらずに淡々と告げる。
奴隷を買うのが初めてのイザベルにとってはラウルの返答は驚くべきものだった。
「…私は奴隷を買うのはお前たち3人が初めてだ。私はお前たちにはかつての使用人たちと同じように働いてくれさすればよい。…決して私を裏切ることは許さないがな」
ラウルにとってはイザベルの放つ言葉の方が驚きの連続だった。
親愛なる主人に裏切られ、奴隷として落ちてからこんなに恵まれた環境はなかった。
かつて敗戦国の騎士であったラウル。
騎士として誠心誠意、自身の主に尽くしてきたはずだった。
そのはずだった。
主従だがそれを超える信頼関係を築いてきたと思っていたのに
主はいとも簡単に自分を売り払った。
それからのラウルの人生はどん底だった。
かつて騎士だったラウルの戦闘力を買われ、数多の戦場に駆り出された。
身体が血に濡れない日はなかった。力尽きるまで戦わされるのが当然のはずだった。
新たな主人に買われ、その一つ目の仕事が馬の世話だとは、ラウルを驚かせるには十分すぎた。
「これから、食堂へと行く。ラウル、お前も同行せよ」
冷たい口調だが、新しい主人である彼女の瞳はまっすぐにラウルを捉えていた。