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なんでなんでなんで!
死にたくない、死にたくない
汚い粗末な服を着せられ、一人の女が十字架に縛り付けられ今にもその身に火をつけられる寸前のところだ。
自身の潔白を主張しようにも潰された喉では、小さな息を吐きだす音しか出すことが出来ない。
その小さな音すら、周囲の罵声の声にかき消される。
「この悪女め!」
「早く殺せ!」
なんで、なぜ?
なんで自分は火にかけられているのだ?
死にたくない、だれか誰か誰か、誰かお願い助けて…
火あぶりにされる1人の女。
それを囲むように群衆はその火あぶりの様子を見て彼女を罵倒し、石を投げるものまでいた。
熱い苦しい。
熱い熱い熱い苦しいのに、息ができない。
なぜ誰も助けてくれない?私が何をしたのだ?
目に映るのはあらゆるものを焼き尽くす炎
そして自身を見てあざ笑う
聖女
そして、かつての使用人たち
ああ、ああ、
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
こいつらに陥れられた、ハメられた、騙された。
許さない。許さない許さない。絶対に許さない。
私を陥れたこいつらは絶対に許さない。
お願いお願いお願い、誰でもいい。
誰か誰か!
死にたくない死にたくない!だれか誰か誰か、誰かお願い助けて…
燃えたぎるようなその憎悪は、彼女の心を最後まで蝕み続けた
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スアレス国の公爵家の1つであるマルシャン家。
マルシャン家当主のイザベル・マルシャン。24歳の女当主である。
マルシャン家は領地を治めているわけでも王宮に仕えているわけではない。
それにかかわらず、王家に次ぐ公爵という地位を得ている所以は、マルシャン家は邪を清浄化できる力を持つ家だからだ。
その唯一無二の能力の故、領地を治めずとも、国にはびこる邪を清浄化することにより、高い地位と国から多額の金銭を受けていた。
マルシャン家当主のイザベルは今まで自身に起きていた全ての事を思い返した。
自身がいずれ悪女とされ火あぶりにされ、殺されること
聖女という女が現れ、自分を陥れること
そして今このマルシャン家に仕える使用人たちに裏切られること
そう、それは何の因果か
あの火あぶりにされた日から、2年前の自分に戻っていたのだ