第7話 騎士団
「ぐぅうう、べ、ベンとやら!! 貴様、なにをしたぁ!!!」
「ちょっと俺の能力である【ベン・E】を発動させたに過ぎんよ。俺の能力【ベン・E】は対象に強制的に排泄を促す能力だ」
「ぐぅ、ぐぅううう!! な、なんだァ、その糞な能力はぁ! ふぐぉおお!!??? そ、そんな能力如きで帝国を落とせる訳がぁ!! ぐぅうう!!!!」
「本当にそう思うか? 糞な能力としか思わないか? これが単なる“遊び”に過ぎない能力だと本当にそう思うか?」
「だ、だだだだってぇ!! たかだか排泄を促すくらいでぇ、世界を奪えると本気で思っているならぁ! お前はただの狂人だぞぉおおおお、おっ、おっ、おっ! んぐぅ!?」
徐々に便意を堪え切れなくなってきた副リーダーは元の瀟洒であった姿勢なんてモノは消え去り、内股気味に情けない格好へと変貌していく。
今現在、彼の周囲に部下が居たとすれば、きっとリーダーと同じ末路を辿っていた事だろう。
「くくく、良い格好になってきたな」
「う、うるさいぞぉおおお!!! あっ、やばっ、お前、このままじゃただではおかっ、あっ、ちょっと、本当にヤバい……ヤバいよぉ……」
「第一にこの能力を前に魔法障壁は意味をなさない。貴様もそれなりの遣い手であるならば常時魔法障壁くらい展開している筈だ。それが何故発動していないか。否、発動していたとしても無意味であるからだ」
「あっ、あっ、あっ……な、なん……だとぉ……」
確かに実力者である副リーダーは特に意識せずとも、上級魔法の不意打ちを防ぐ程度には常時魔法障壁を展開している。
にも関わらず、能力の発動を許している。男の言う言葉は真実に違いない。
「更にこの能力は物理的な壁などを言った障害物をも貫通できる。つまり対象の位置さえ判明していれば、いつでもどこでも相手を能力の対象とする事ができる。これがどういう事か分かるか?」
「……むりぃいいいい、あ、相手には防ぐ手段がない?」
「そうだ。更に厳密にはこの能力は魔力を依代には発動していない。つまり魔力感知などの手段では引っかからない。ゲリラ作戦においてこれ程有用な能力は他にないと言う事だ」
「ま、ままま待ってゴロゴロってもう腹が限界……」
「おっと、そろそろ限界か。解放してやろう」
男がそっと手を掲げると副リーダーの感じていた破壊的な便意は収まった。
その瞬間に副リーダーは斬りかかろうと態勢を整えるが、それより早く右手が副リーダーの身体に向けられる。
「立て直しの速さはさすがと言いたいところだが……次は容赦はしない。今度こそ自らの漏らしたう○この中で溺れてもらう事になるぞ」
「…………」
その言葉に観念した副リーダーは持っていた剣を鞘へと仕舞う。
「懸命だ。この俺の能力は実践してみせた通り、戦闘にも大いに役立つ。それどころか敵組織の指揮系統を崩壊させる事も容易い。有能な指揮官をう○こに堕とせば事足りるからな」
「…………確かに」
それもまた、リーダーが失墜した事から正しい。
「し、しかし……そのような被人道的な行いが神に許される筈が……ッ」
「神! 神と来たか!!」
男は高らかに笑いを室内に響かせる。
「神とやらはお前の便意を救ってくれたか!? 腹を壊している最中のお前に何かをしてくれたか!? 腹を下した際に祈る対象を神と呼ぶなら、薬を神とでも呼ぶが良いさ」
「そ、そう言えば近頃、きな臭い革命軍の組織態勢に大幅な変更があったと噂に聞いた事が……まさか」
「ふふ……その組織とやらは我々の組織、その配下に下った」
「なんと……」
半年前からだろうか、帝国軍や革命軍、貴族や大商人に至るまでが「とある失態」とやらで権威を失墜する……なんて話をよく聞く。大方、ちょっとした悪事が外に漏れ出した事によるものかと思っていたが……。
「俺からの要求はただ一つ。我々の組織、その参加に加われ。なに、損はさせないさ」
「……断れば?」
「腹がとことん緩くなるだろうなぁ。一体誰の前で糞を垂らせばお前は首を縦に振る?」
「…………」
あまりに恐ろしい脅迫であった。先に彼の能力を体験したからこそ分かる。あの強烈な便意に抗う事はきっと難しい。愛する妻や子の前、あるいは尊敬している師の前、身を預ける同士の前……いや、この男がその気になれば、きっと死ぬまで糞を垂らす羽目になるだろう。副リーダーは要求を飲まざるを得なくなった。
「近い内に使いを送る。その支持に従い、帝国の打倒を目指せ」
男はスッと暗闇の中に消えた。
「ちょ、ちょっと待て! お前の組織名は……一体!?」
暗闇の中に声を投げかける。すると、どこからともなく声が響いてくる。
「我らの組織名はそう――――ク○の騎士団だ! さぁ、我が御旗に集うのだ!!」
そう言って殺到と消える男。
「お、恐ろしい…………」
男が消えた後、副リーダーは独りごちる。人間の生理機能に訴える能力。これ程までに強力な力がかつてあっただろうか。体験しなければ分からない怖さがそこにはあった。
「だが、それだけに出来るかも知れない。彼になら誰にすらなし得なかった帝国の打倒を」
その後、副リーダー率いる革命軍はク○の騎士団の参加に加わる事となった。