第5話 失墜
そうしてベン・モーレルが決意を新たにしてから、およそ半年の刻が経過した。
そんなある日の夜の事、某酒場にて一人の男が声を張り上げていた。
「皆の者! 先のゲリラ作戦はご苦労だった!」
その男は帝国軍に仇なす幾つかある内の革命軍の一つ、そのリーダーであった。
「ハッキリ言おう、この帝国は腐っている! 国は国民から税金を吸い上げるだけ吸い上げ、果てはお仲間である貴族連中にしか金を渡さない! 貧富の差は次第に激しくなっていき、我々が金を求めるならば危険な冒険者になるしかない。しかし、冒険者には危険が常に付き纏う。更には帝国軍が出張る事が困難な程の危険な任務に従事しなければ、貴族と同等の金は手に入らない! にも関わらず貴族連中しかなれない帝国軍には然程の貢献度がなくとも大層な金を支払っていると聞く。これは明らかな差別である! こんな帝国軍の横暴を君たちは許して良いのか!?」
男の周囲からは口々に「帝国を許すな!」「俺達の命を踏み台にして奴らは酒を飲んでいるんだ!」「適正な富の分配を齎せ!」などの怒号が飛ぶ。
お立ち台に立っていた男は口々と上がる怒号を前に満足そうにしつつ、やがて手を振り上げる。
すると、瞬時に怒号が止む。まるで周囲の皆々が男の操り人形であるかのようだった。
「そうであろう! 先のゲリラ作戦では帝国の補給口の一つに壊滅的なダメージを与えた! 王都に攻め入るにはまだまだだが、これで革命に向けた勝利へと我々は近づいたのだ!」
周囲からはトキの声。
「さすがはリーダー……、これだけの人数をしっかりと纏め上げている」「革命のときは近いかもしれないな……」などと彼を称賛する声が上がる。
そんな小声で囁かれる自らへの称賛を革命軍のリーダーである男はしっかりと耳に止めながら、仲間たちへと更なる鼓舞をするべく雄叫びを上げる。
「さあ! 立ち上がれ、諸君! 夜明けは近――――――」
周囲の皆々はカリスマあるリーダーの発破に酔いしれながら、彼の言葉に合わせて声を張りあげようとしていた。
しかし、突如としてリーダーの言葉がピタリと止まる。周囲の皆々は不思議がりながらお立ち台に上がるリーダーを仰ぎ見た。
すると、件のリーダーは青筋を立て、額に脂汗をかき、ゆっくりと足は内股気味になっていく。つまり一言で言い表すならリーダーは威厳も何もない、糞ほど格好悪い姿になってピクピクと痙攣し始めていた。
「り、リーダー! どうなさったのですか!?」
「い、いや、ちょっと…………」
堪らずリーダーの信奉者らしき男が、リーダーへと疑問を呈す。しかし、リーダーはいつものカリスマ性などあって無きが如く、吹けば飛ぶような掠れ声を上げる。
かと思えば「……はぐあッ!!」などと奇声を上げ始める。そんな情けないリーダーの姿に今まで纏まっていた筈の革命軍の者達が眉を潜め、リーダーを眺める。
そしてーーーー
「あっ、あっ、……ああ、ああああああああああ!!!!! うぐぅうううう、はぁあああああああ!! もう、もう無理!!!!!!!!!」
などとまるで赤子でもあるかのようなはしたない声を上げ始めたかと思えば、下半身の至るところから茶色く臭い、平たく言えば糞をドバドバと漏らし始めた。
「うあ、うあぁあああああああ!!!!! むぅうううううううんんんん!!!!」
そんな情けない悲鳴、嗚咽、涙と共に糞尿も止まらない。
やがてリーダーは気絶し、大量に漏らした糞溜まりの中に沈んだ。
「…………さ、最低だ」
ぼそり、と呟いたのは先程までリーダーを尊敬の念で見つめていた革命軍の一人であった。
それを皮切りに次々とリーダーを罵倒する声が上がる。
彼のリーダーとしてのカリスマ性が一夜にして消え去った瞬間であった。