第4話 覚醒
『……ベン。お前はそのスキル[ベン・E]を決して怒り任せに使ってはならんぞ』
いつか交わした師匠との約束事。
『何故ですか、師匠』と約束事に大して疑問をぶつけた俺に対して師匠はこう答えた。
『お前のスキルは強力過ぎるからじゃ。怒りに任せ、限度を誤ればきっと容易に人を殺してしまう』
そんな馬鹿な。俺のスキルは精々、『確実な敵の足止めに使える程度でしかない』と思ったものだが、師匠は繰り返し繰り返し俺にそう言い聞かせていた。別れ際にもそう告げた事を俺は忘れていない。
しかし――――気づいた時、俺はこの禁忌を破っていた。
「――――――――はっ」
気づいた時、俺の目の前には糞まみれになって横たわっている先ほどの二人組の姿があった。
おもむろに彼らの脈を探る。
「…………死んでいる」
そう――――二人は死んでいた。恐らく死因は限界まで糞を漏らし、水分を吐き出し続けた末の脱水症状。
普段、モンスター相手の戦闘でも、俺はここまでの効果をもたらした事はない。元々、足止めだと割りきっていたし、知らず知らずの内にリミッターを設けていたのだ。相手が便意の末に死なないように。
しかし、わかった。この俺のスキル[ベン・E]は足止めだけにしか使えない糞スキルなどでは決して無い。敵を殺す事の出来る−−−−糞スキルだ。
「くく、くくくく、…………あはははははははは」
冒険者の死体を前に雨に打たれていた俺は、悟る。
そうだ。俺にはこんなにも強い力があるじゃないか。
パーティーを追い出され、周囲には煙たがられ、終いには殺されそうにもなった。しかし、惨めな気分はもう終わりだ。
俺は俺だけで戦える。それどころか……蔑まれる対象であった筈のこのスキルは天下ですら狙えるだけの力がある。
そう、世の中をひっくり返すんだ。この糞スキルで!!
そう決意した俺は雨に打たれながら、糞スキルの使える右手を天に振り上げながらどん底からの這い上がりを誓うのだった。