第3話 襲撃
「パーティの受け入れ口が……無い……?」
新たなパーティの受け入れ先を探していた俺だったが、受付からは良い返事を貰えずに落胆してしまう。
「何故だ……? 俺は元々、Sランクのパーティに所属していた。それだけのレベルならば受け入れ先はあるんじゃ……? なんなら少しランクの低いパーティであっても一向に構わないんだが……」
「い、いえ……貴方の経歴は存じておりますが……、その、件のスキル【ベン・E】は界隈で知れ渡っておりまして……。そのイメージから手を挙げる者はいないという現状でして」
「馬鹿な!」
背中に視線を感じた俺が後ろを振り返ると、何人もの者達が視線を逸らす。
何故だ! こんなにも有用なスキルが何故、活かされない!?
「クソ、なんて事だ……」
俺は受付先であったギルドから出る。すると、そのタイミングで大粒の雨が俺へと降り注ぐ。
「前途多難だな。クソ……なんて胸糞の悪い事だ……」
そう誰ともなしに呟いた俺は、雨が降り注ぐ中をとぼとぼと歩いて行った。
※※※
「…………なんて事だ。寒い、寒すぎる……」
今は収入の途絶えた状態だ。俺は少しでもお金を節約する為、宿屋ではなく、木の下で野営をしていた。
しかし、降り注ぐ雨の中、木の下であった事が災いして、少しずつ身体に雨の雫が当たっていく。それでも気にせずに寝付こうとしたところ、気付けばほぼ全身がずぶ濡れになって体温が急速に奪われていたのだ。
本来であれば宿屋に泊まり、暖かいベッドの中で快適な睡眠を送っていただろうに……、何故俺だけがこんな事になってしまったんだ……。
そんな事を考えていた矢先、急に涙が溢れてきた。
しまった……ッ!! 水分を失ってはいざという時に脱水症状で死にかけてしまう……父のように。
俺は生きなければならないのだ! 妹の為にも!
そんな時の事だった――――
「がぁ!!!!!」
頭を何か固い鈍器のようなもので殴られてしまう。
まさか……モンスターか!? 油断した……と勘違いしたのは一瞬の事。
雨でぬかるんだ地面へと転がされた直後、殴り付けてきた相手の正体を確認する。
「へへっ、楽勝だったな」
そこに居たのは額に傷のある如何にも荒々しい冒険者然とした男性。手にはこん棒を持っていて、その一部が恐らくは俺の赤黒い血で汚れている。
「Sランク冒険者だと言うからどれほどのものかと思えば……、俺みたいなBランクの冒険者でも簡単に倒せちまったよ」
「言いましたでしょう、カモだって」
俺をこん棒で倒した冒険者の横には、揉み手をしながらにんまりと笑う線の細そうな男。
「こいつ、今日Sランクのパーティを追放された、所謂お払い箱の雑魚なんですよ。今日、ギルドで募集をかけてたから間違いないんす。ま、誰一人として募集しても集まらなかったようですけど」
「ああ、聞けば糞なスキルしか使えないんだってな。そりゃ元のパーティも追い出されて当たり前だわ。ま、こんな奴でも元はSランク冒険者、そこそこ金持ってるだろ」
俺が不意を突かれたダメージから動けない事を良いことに懐から財布を漁られ、遂には奪われてしまう。
「……お、なんだよたんまり持ってんじゃねぇか!! こんなところで野宿なんてしてるから、少しですら金持ってないかと思ったけど」
「くく、やりましたね!!」
そんな風に俺の財布を手に下卑た笑みを浮かべる二人に向かって、俺は何とか立ち上がり財布を取り替えそうと試みる。
「か、返せ……それは妹の生活を豊かにする為に使うもの……」
「ああ?」
取られた財布を取り替えそうと手を伸ばすが、その手を叩き落とされる。さらにはその制裁とばかりにこん棒での攻撃を幾度となく喰らってしまう。
「意見してんじゃねぇよ! 糞冒険者が! てめぇみたいにSランクパーティの荷物持ちしてただけの雑魚には過ぎた金だったんだよ!!」
そんな暴言と共に俺はまたぞろ地面を転がされ、泥を被る。
「……ま、生きて貰ってお偉方にチクられても困るし、そろそろ……死ぬかぁ?」
額に傷のある冒険者は懐からゆっくりとショートソードを取り出した。
このままでは俺は間違いなく殺されてしまうだろう。
――――何故、俺は我慢している?
そんな言葉が俺の脳裏をよぎる。
それは師匠の教えがあったからだ。