第2話 妹
仕方なく身支度を整え、パーティと泊まっていた宿を後にしようとする最中、後ろから追いかけてくる足音が聞こえた。
「お兄様!」
「……ランか」
そこには俺とパーティメンバーを共にしていた妹の姿があった。
「すいません、お兄様。最後まで反対していたのですが……、結果的にお兄様を追い出すような形になってしまい……」
「気にするな、ラン。お前一人が反対意見を出していたところで総意は変わらなかっただろうさ。お前がこうして見送りに来てくれただけでも満足だ」
「こうなれば私もお供致します。共にもう一度始めからやり直して――――」
「いや、良い。お前はあのパーティに残れ」
「何故ですか!? 私はお兄様と一緒に居たいのです!」
「あのパーティは俺が居なくとも十分にやって行けるだろう。確かに強敵を確実に足止め出来る俺のスキルは有用だ。しかし、居なかったところで稼ぎは良い筈。下手に俺なんかに付いて来るよりも、あちらに居た方がずっと良い生活が送れる筈だ」
「しかし……、私にはお兄様以外の身寄りは……もう……」
ランは嘆きの声を上げる。
俺には生来からの悪癖がある。
それは消化の働きが悪いのか、人より何十倍も便意が近いという事。
幸い妹のランにそのような症状は見られないものの、どうやら父も同じであったようだ。
そんな中、父がうっかり人前で便を漏らしたところ、その様子を母に見られた。その次の日には母は家を出て行ってしまった。俺達は見捨てられてしまったのだ。その後、父は冒険に出ている間の脱水症状で社会的な死を遂げている。
俺も同じように非業の最期を遂げる事を覚悟していたが、結果的にはそうならなかった。
師匠に出会った事により、この呪いとも思える便意をスキル【ベン・E】へと昇華させられたからだ。
相手に自らの感じる感覚を共有させ、遂には押し付けるに至る。それが例え便意であっても――――これこそが俺のスキル[ベン・E]の正体だ。
だから俺の腹は二十四時間下っていると言って良い。しかし、この地獄の苦しみも、最後に残った兄妹である妹の生活を豊かにする為ならばとここまでやって来れたのだ。
しかし、俺はパーティを追い出されてしまった。妹を傍で見守っていたいのは山々だが……、妹の生活を豊かにする為には俺はもう行かないといけない。
「ラン、俺は大丈夫だ。お前に早く今よりも楽な暮らしを送らせてやる為にも俺は行く。それまで元気でな」
「お兄様……」
こうして俺は最愛の妹を残し、一人旅立った。