プロローグ②~大悪魔は皆どこか狂ってる説~
またぼちぼち書いていこうかなと思います
ーーー雨宮 陽翔がトラックに轢かれる、その数刻前。
場所は、あらゆる悪しき魂の終着点、『地獄』
地獄は計8つのエリアから成る超広大な空間であり、中央に1つの大きなエリア、それを取り囲むように7つのエリアが存在している。
そして、最も悪魔の数が多く、同時に最も多くの施設が立ち並ぶ、地獄で最も活気のあるエリア、それこそが中央に存在する『ニュートラルエリア』である。
そんなニュートラルエリアのこれまた中央付近に位置する『地獄大闘技場』(ヘルズ・アリーナ)
その会場内は今現在かつてないほどの活気に包まれていたーーーーー
「さぁさぁ! 次期魔王決定戦もいよいよ大詰メ!! 残るは元・地獄の帝王ルシファーと新進気鋭の憤怒の悪魔サタンの2人のミ!! いったいどちらが勝つんだアアアアアアアアアアア!!!!」
闘技場の上階に設置された実況席で、褐色の肌に銀色の長髪を携えた幼女が興奮気味にマイクを握りしめ声高に叫んだ。
その熱い実況に呼応するように、会場の観客席に押しかけている多種多様な悪魔たちも『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』と轟くような熱い歓声を響かせる。
それを観た銀髪の幼女は嬉しそうに片足で実況机を踏みつけ身を乗り出してさらに叫んだ。
「会場が割れんばかりの大歓声、みんなどうもありがとウ!! さぁ、ルシファーもサタンも体力・魔力はともに残りわずかのはズ!! どちらが勝ってもおかしくはないこの状況!! 次に地獄を治める魔王はいったいどちらなんだアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「あいつ、さっきからうるっせぇな・・・」
興奮冷めやらない銀髪の幼女とは対照的に冷めた態度の薄い青色をした長髪を携えた少女は、実況席後方でスマホをいじりながら気だるげに言い放った。
「あいつ、自分が負けた試合をよくもまぁあんなに楽しそうに実況できるわよね・・・ ねぇ、マモン。流石にうるさいからあいつ黙らせてくれない?」
スマホから顔を離した青髪の少女は、近くの椅子でコンピューターをいじっている金髪ツインテールで低身長の少女に話しかけた。
「いやぁ~、会場は盛り上がってるみたいだし別に良いんじゃないかな。ベルゼビュートのあの実況で観客が盛り上がって投げ銭が増えるなら、地獄の財政を任されてるボクとしては嬉しい限りだし・・・ というか、ベルフェゴール、キミそんなに口悪かったっけ?何か機嫌悪くない?」
金髪ツインテールで白衣姿の少女『マモン』は青髪の少女『ベルフェゴール』に嘲笑気味に話を投げ返した。
「イラついてるだけ! アタシは元々人の多いうるさい場所が死ぬほど大っ嫌いなの! てか、本当ならこんな大会すらそもそもどーでも良かったのに、サタンのやつが『七大悪魔は全員強制参加だ!欠席は認めねぇぞ!』って毎日毎日何度も何度もうるさく迫るもんだから・・・」
ベルフェゴールはふさぎ込みながらブツブツとグチをこぼし続ける。
「そんで結局ルシファーに魔術勝負で負けて醜態晒すし、試合から退場してやっと休めると思って敗者待機ルーム入ったらなぜか実況席が併設されてて今度はベルゼビュートのクソうるさい実況聞かされ続けるし・・・ あぁ、もーやだ・・・早く家に帰ってあったかいお布団で寝たい・・・ お布団が恋しい・・・」
ついには、ぐずり始めてしまう『怠惰』を司る大悪魔ベルフェゴール。
(あ~あ、ぐずり始めちゃったか・・・ ベルフェゴールのやつ、大悪魔随一の魔術適性あるのにメンタルクソザコだからこうなると長いんだよなぁ・・・)
見かねたマモンはため息をつきながらコンピューターから手を離し、ベルフェゴールの頭に手を置いてゆっくりとなで始めた。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪だったかな。まぁ、もうすぐ試合も終わりそうだしあとちょっとの辛抱だよ。 ・・・あ~、そうだ! いつも家の布団から出ることさえ躊躇ってるベルフェゴールが頑張って大会に出たご褒美に、今回の大会で出た収益で何か買ってあげようか? ベルゼビュートのあの爆熱実況も相まってたぶん思ってた以上にお金入るからさ」
その提案を聞いたベルフェゴールは目に涙を溜めながらマモンの方を向いた。
「・・・ほんと? 欲しいもの買ってくれる?」
「あぁ、良いとも! まぁ、流石に何十万もするものは厳しいかもだけど・・・ 何が欲しいんだい?」
笑顔で話しかけるマモンの表情を見て心が安らいだのか、表情を柔らかくさせたベルフェゴールは少し考えたのちに口を開いた。
「・・・色々あって1つに絞れないからとりあえずア〇ギフで10万円ちょうだい」
「ホントにキミってそういうとこかわいくないよね」
と、2人がそんなやり取りをしていた最中、敗者待機ルームの扉がスゴい音とともに勢い良く開け放たれ、ルーム内にまた1人の少女が泣きながら駆け込んできた。
「うええええええええぇえぇぇぇぇぇぇえぇええええええええん!!!!! マモンさーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!! 助けてくださーーーーーーーーーーーーい!!!!!」
目に涙を溜めているベルフェゴールが何てことないと思えるくらい、涙で顔面全体ををぐしゃぐしゃに濡らした、短めの黒髪に青いメッシュの入った少女がマモンにすり寄ってきたのだ。
いきなりの展開に少々面食らったマモンであったが、(あぁ・・・またこの展開か・・・)と思い当たり、嗚咽で苦しそうにしている黒髪の少女を抱きしめ背中を優しく叩いてやった。
「ほらほら、リヴァイアサン、とりあえず落ち着きな。良いかい? ゆっくり、深く、息を吸って吐くんだ。大丈夫、大丈夫。ボクはキミの味方だからね・・・」
「うぅぅぅぅ・・・ママンさん・・・」
「誰がママンだ」
数分後、黒髪に青いメッシュの入った少女『リヴァイアサン』の呼吸が少しずつ落ち着いていくのを確認したマモンは改めて、優しい口調でリヴァイアサンに問いかけた。
「・・・また、アスモデウスに何か言われたのかい?」
リヴァイアサンの背中に手を置いていたマモンはその言葉を聴いた彼女の背筋がビクッと震えるのを感じ取った。
(やっぱり、か・・・)
そう確信したマモンがチラリとルーム入り口の扉の奥を見やると、真っ黒なシスター服を着た長身でスタイル抜群のピンク髪をした糸目の女が屈託のない笑顔を浮かべながら佇んでいた。
「おい、アスモデウス。いつも言っていることだけどね、もういい加減リヴァイアサンを虐めるのはやめろ! ここ数百年、キミはリヴァイアサンと顔を合わせるたびに心無い言動で彼女の心を傷つけてきた・・・ これ以上リヴァイアサンに対して酷い仕打ちを続けるようなら、ボクもそろそろ容赦しないぞ!」
『強欲』を司る大悪魔であるマモンは芽生えた苛立ちを隠そうともせず、そのピンク髪の女『アスモデウス』を睨みつけながら強い語調で言い放った。
「うふふ・・・ 嫌ですねぇ、マモンちゃん。そんな怖い顔しないでくださいよ。私もいつも言っていることですが、別に私はリヴァちゃんを虐めてなんかいませんよ? そもそも私、リヴァちゃんのこと本当に大好きなんですから!」
アスモデウスは柔らかい物腰で、並大抵の悪魔であれば睨みつけられただけで失神してしまうマモンの魔眼を真っすぐ見つめ返して笑顔で言い返した。
「それはおかしな話だね。リヴァイアサンはキミに心の底からおびえてるみたいだけど? 本当に大好きならリヴァイアサンがこんな風になる接し方はしないんじゃないかな?」
マモンは表情を崩さず、なおも強い語調でさらに言い返す。
すると、アスモデウスは一瞬フッと表情を消した後にーーーーー
「・・・・・フフッ、アハハハハハハッッ!!!!!」
今度は口を押さえてケタケタと笑い出した。
「アハハハハハハッ!! あぁ、おかしい!! いつも思っていましたけど、やっぱりあなた何も分かっていないんですね!!」
アスモデウスの豹変した態度に少しだけ恐怖を覚えたマモンはリヴァイアサンをより強く抱きしめ、自分の小さな身体でベルフェゴールを精一杯アスモデウスから隠した。
「ボクが分かってない? 何をだよ? まさか、『悪魔が仲良しこよしじゃいけない』『自らの悪性に従いあらゆる他を排斥するのが真の悪魔である』とかそんな時代遅れのお説教するつもりじゃないよね? 『地獄を平和的に統治するために悪魔はできる限り結託するべき』なんて、今ならそこら辺を歩いている子供だって知ってることだと思うけど?」
そんなマモンの言葉を聴いたアスモデウスは、笑いを噛み殺しながら首を横に振った後、口元を押さえていた指と指の隙間から白い歯を覗かせて言った。
「いえいえ、マモンちゃん。私が言いたいのはそんな堅苦しい崇高なお話ではありませんよ。もっと、もっと、基本的なことです。 私は本当にただただリヴァちゃんのことが大好きなだけなんですよ?」
『だから、だったら何で・・・』
マモンがそう問い返すより早く、アスモデウスは目を見開き声高に言った。
「リヴァちゃんは泣きじゃくってる瞬間が1番かわいいからですよぉ!!!!」
「「「はい?」」」
マモンだけでなく、その後ろで話を聴いていたベルフェゴールも、ひいてはマモンの腕の中で震えていたリヴァイアサンも、言葉の意味が理解できず聞き返した。
「えーーーーーっと・・・? それはどういう・・・?」
「えっ!? ここまで言っても分からないんですか!? 信じられない!!」
「いや、信じられないのはキミの性癖だよ。
・・・ちょっと待って。詳しく説明してもらって良いかな?」
アスモデウスは自らの興奮を鎮めるために1度咳ばらいをしてから、マモンの目を真っすぐ見つめて真剣な表情で口を開いた
「良いですか? まず前提として他人が泣いてるとこ見ると興奮するじゃないですか?」
「いや、しないけど」
「えっ?」
「えっ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「話終わっちゃったじゃん・・・」
ベルフェゴールは消えていたスマホのディスプレイをもう一度つけ直した。
反省を活かして前置きはできるだけ短くしたい