プロローグ
夜空にさびしく出でいる満月は、もう最も明るい存在ではなかった。
なぜなら、月の下には月よりもっと明るい都市があるからだ。
あちこちできらめく色とりどりの照明とスピーカーから響き渡るうるさい音楽。
都会の全ての人の心の中を満たす光は、もう、月からの光ではないみたいだ。
・・・ここに孤独に一人で立っている一人の少女を除いてはだ。
吹きつける肌寒い風に、髪が飛び散る少女。
彼女が着ている制服についている悲しみと怒りと絶望。
月明りは、それすら暖かく抱きしめて少女を慰めていた。
一瞬の時間が過ぎ、 何度かの風が吹いて、照って月をを眺めていた彼女は、動き始めた。
そして、心をひきしめたまま、もう一度前を見通した。
自分が一番望まなかった、
これからは自分が望む、いや、望まなければならない。
彼女は暗いけど明るい未来、そのに向かって走りだした…
非常に速く、誰もできない速度で。
実は追いつけないスピードというべきだ。
赤い汗が雨のように流れ出る、ものすごいスピードを耐えられない筋肉が何度も震え、彼女はすぐに疲れて倒れた。
そしてとても深い、本当に深い眠りに身を任せた。
彼女は自分の願う未来に、一生一代の最後の走りのさきに
たどり着いたのかしら、
正解は誰も知らない。
都市のすべての人たちも、その姿を見下ろしていた空も。
一つ確かなのは、そのあと空は雨という涙を流したこと。
都市のすべての人は、自分の目に傘という目隠しをしたということだ。