ハロウィン記念作品『極点仮装大戦:SHIBUYA』 〜〜SIDE 風来坊〜〜
〜〜シブヤ・公園通り〜〜
多くの人々で賑わう公園通り。
現在この地では、一人の風変わりな青年と、犬耳少女を連れた巫女装束の少女の三人が静かに交錯と狂乱を繰り広げようとしていた。
自身の方に向かってくる少女達に対して、軽薄ともいえる笑顔を浮かべながら青年が話かける。
「今日は年に一度のハロウィンイベント!死者も仮装に紛れて、みんな楽しく過ごすとっておきのイベントときたもんだ!……そんな場所に、退魔師が呼ばれてもないのに怪異退治だのとしゃしゃり出るのは野暮ってもんだろ?今までお前さんに金を払って依頼してきた連中に対して、不誠実だと俺っちは思うがな?」
オーバーなリアクションで、少女を煽る青年。
対する16歳くらいの年頃と思われる退魔師の少女は気丈にポニーテールを揺らすと、傍らにいる彼女よりも2つくらい年下に見える犬耳少女を引き寄せて、青年を強く睨んだ。
彼女の名前は鳥居 もも。
その界隈においては退魔少女:とりももという異名で呼ばれる駆け出しの退魔師見習いであるーー!!
彼女はある日突然、退魔術の師匠にして優れたパン職人でもある近藤 バタ彦から、不思議な力を持つ謎の犬耳少女:千鶴を託される。
だが、バタ彦はももに千鶴を託してすぐに、謎の失踪を遂げたのだ。
それ以来ももは千鶴を連れて、消えた師匠の行方を探す毎日を過ごしていたのだ。
そんなこれまでの苦難に満ちた日々を思い出しながら、ももが青年にキツい口調で言い返すーー!!
「お生憎様ね。私は駆け出しの退魔師だから依頼はロクに来ないし、来たとしても基本失敗しているから、お金のやり取りはしていないわ!……貴方が思っているよりも、退魔業界は自由が利く環境なの。だから私達は、予定や制約などに縛られる事なく、師匠を探すために自分達の意思で戦う事が出来る……!!」
それはただ単に使えないと判断されて、業界から干されているだけなのではないだろうか。
だが、それを微塵も感じさせない強い意思を秘めた眼差しと態度を前に、飄々としていそうな青年はつい反射的に「お、おぅ……!!」とだけ返す。
ももはそんな彼の態度に若干満足したのか腕組みまでしながらドヤ顔を決め、それに賛同するかのように千鶴が「アンッ♡」と本物の犬のような嬉しそうな鳴き声を上げた。
だが、すぐに表情を引き締めると、ももは全てを射ぬくような視線で青年を見つめる。
「……正直に言うと、このシブヤに集まった死霊達をいくら討伐したところで、師匠を探すための手がかりは見つからない、とどこかで諦めもしていた。……だけど、貴方と出会って気が変わったわ。貴方という存在はここで何とかしなくちゃいけない、って……!!」
そう自分に言い聞かせるように呟きながら、ももは静かに退魔の呪符を手にする。
「貴方と戦ったところで師匠の情報は何も手に入らないだろうし、場合によってはこのハロウィンイベントそのものが中止になるかもしれない。……それでも!人々の平穏を守るべき退魔師として、貴方のような混沌をもたらす存在を見過ごす訳にはいかないと、私の本能が叫んでいるッ!!」
刹那、ももの呪符に聖浄なる霊気が宿り、術式が発動し始める。
彼女が使用する退魔の術式は、味噌汁と一緒に食べても美味しく堪能出来るパンを模したモノであり、この術の効果によって闇に蠢く"魔"の者達へと快適な朝の日差しを届け、調伏する事が可能となるのだ。
現在もも達が対峙している青年は、怪異といった存在ではないれっきとした人間だろうが、それでも手を抜いて勝てるような相手ではない。
最初から本気で術を仕掛け、この得体の知れない青年を爽やかな朝の日差しで包み込むしかない、と思われたのだが……。
「その術式……あぁ、お前さんがあのバタ彦の愛弟子とやらか!……となると、そちらの犬耳の嬢ちゃんが千鶴か?」
思いがけない相手から、予期せぬ名前を聞いて動揺するもも。
それに対して青年は、「その呪符に組み込まれた呪符を使用するって事は……俺っちに毎朝、朝食を作りたいって言う遠回しなプロポーズなのか?」などと、ももを茶化していた。
「ッ!?ふざけないで!!……貴方、師匠の事を知っているの!?」
「あぁ……本当はお前さん達でもう少し遊んでも良かったんだが、俺っちも気が変わった。……それに実力はまだまだとはいえ、相手の本質を見抜く直感も実に見事の一言に尽きる!!」
ゆえに、と青年が呟く。
「オメェらを相手に手を抜くのは、まさに礼を欠くってもんだ!……この旅の風来坊:十四代目:旅埜 博徒様が、本気でお前さん達の相手をしてやらぁ!!」
意気揚々と名乗りを上げる博徒に、ももが答える。
「私の名前は退魔少女:とりもも!!……必ず、貴方を倒して師匠の手掛かりを聞き出してみせる!!」
「カカッ!未熟ながらも、なかなかそそる事を言うじゃないの!……面白い、存分にかかってきなァッ!!」
「言われなくてもッ!!」
己の"享楽"のために、何事かを企てシブヤのハロウィンイベントに降り立った謎の風来坊:旅埜 博徒。
そんな博徒の企みを阻止し、このハロウィンイベントを中止させる事になってでも集まった人々の平穏を守るため、そして、失踪した師であるバタ彦の手掛かりを見つけるという"使命"を胸に抱く鳥居 もも。
互いに決して相容れない信条を持つ二人は、既に語るべき事は終えたと言わんばかりに、闘争に身を投じる道を選択する。
「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」
裂帛の気合いと共に、二人の本気がぶつかりあう!!ーーかと思われた、そのときである!!
『はーい、そこの人達!むやみに立ち止まったり、危険な行為をするのはやめてくださいねー!』
声のした方を見れば、シブヤを巡回していた検非違使が拡声器を使って、ももと博徒を注意してきたようだった。
周りを見渡せば、他のイベント参加者達も自分達の事を迷惑そうにしており、ももの味方である千鶴もまるで検非違使に同調するかのように「アンッ!」とキツめの鳴き声を上げていた。
「……」
「……」
無性に気まずくなり、これ以上やりづらくなった博徒とももはどちらから言うでもなく、無言のままで互いの横を通りすぎていく。
「……」
「……」
「アンッ♡」
楽しげな犬耳少女の声が、辺りに響き渡る。
多くの謎だけを残しながら、
ーーこうして、シブヤ・公園通りの戦いは終結を迎えた……。
〜〜end〜〜




