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医者との対話

「気を失って目覚めたら現代の東京にいた。つまり、アカコさんは時間旅行をしたということでしょう。

 アカコさんの魂はおよそ七百年前の都から現代の東京に飛んできたのですよ。そしてアカコさんの魂は東京に住まう鈴木閼伽子さんの身体に入ってしまったのでしょう」



「時間旅行?」



「ええ、古典にある浦島太郎は御存じですか?森鴎外が訳したアメリカの小説にも似たような話がありますよ」



「私も浦島太郎と同じように気づかないうちに何百年もの時を過ごしていたと?」


「アカコさんの場合、時を過ごしていたというよりも……そうだな。何百年もの時を魂がすっ飛ばして来たのです。そして現代の鈴木閼伽子さんの身体を借りている状態なのです」


「なぜ、鈴木閼伽子さんの身体に私の魂が?」


「うーむ。では、アカコさんのいた鎌倉時代にもあった概念で説明しましょう。輪廻転生という言葉は御存じでしょう?」


「ええ、小さいころからよく聞かされて育ちました。母は信仰にあつい人でしたから」


「なら話が早い。おそらく、アカコさんと鈴木閼伽子さんは同じ輪廻の輪の中にいる者同士なのですよ。

そして玉の緒がつながっているといった方がいいかもしれない。アカコさんが牛車に轢かれ死んでしまうことを憐れんだ御仏が現代の東京に“転生”させたのでしょう」



ああ、そういうことかとアカコは納得した。あきらめにも似たような心地だった。



(石山寺の如意輪観音が私をお救い給うたのだ。)


母と共に石山寺に参篭した。そこで母はひたすらアカコの幸福を祈っていた。


その帰りに牛車に轢かれそうになり何百年も後の世の「東京」に飛ばされてきたということ。母の思いが如意輪観音に通じ、本来なら死ぬ運命だったアカコはここまで飛ばされたのだ。



「アカコさん、時間を戻すことは不可能です。ですから、現代で鈴木閼伽子として生きていくというのはどうでしょう?」


「時間を戻すのは不可能?東京から何百年前の都に飛んでいくのはできないということ?」


「そうです。それはいくら神仏に祈っても不可能な話なのですよ。お辛いでしょうが、前を向いて生きていきましょう」


「では、都の母や友人にはもう二度と会えないということ?」


医者はなんと答えればよいか困ったのであろう。黙ってしまった。


「鈴木閼伽子として現代で生きていくとして、どうやって生きていけばよいのでしょう?」


「まだ東京に来たばかりですから、少しずつ慣れていけばよいと思いますよ。学校の方は休学にしてあるとのことですから、しばらくはお家でゆっくり過ごしてはいかがです?何か趣味があるといい。例えば植物を育てたり、絵をかいたり、日記を書くのもよろしいですよ。それから、夜更かしは厳禁ですよ。しっかり眠りなさい」


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