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草紙奪取計画

 次の日、恒子に連れられて精神科にアカコはやってきた。

 昨晩、突然叫んで広瀬に危害を加えようとした娘をどうにかしなければならないと恒子は決意したのだ。

 

アカコは何度も広瀬に向かって、


「なぜ、私の書いたものを知ってるの?誰が宮内庁に私の草紙を持ち込んだの?」


と問い詰めていた。アカコ以外には意味不明な話である。なぜこの娘は何百年も前の書物を自分が書いたものだと主張するのか。

 階段から落ちて頭をぶつけてからおかしくなってしまった。そしてとうとう広瀬に襲いかかるという人的被害まで出してしまったのだ。


 当のアカコにとっては何も矛盾もない主張であった。広瀬の口から出た文章、筋書きはアカコが書いたものそのものだったのだから。

 

 広瀬は「宮内省図書寮」で発見されたものだと言っていた。


 誰かがアカコの作品を勝手に東京の宮内庁に持ち込んだに違いない。

 あの草紙は小泉殿に預けたはずだ。

 まさか、小泉殿が?それとも、小泉殿の邸宅から誰かが盗み出したのだろうか?

 

 もし、小泉殿が持ち込んだのなら――?


 小泉殿が「東京」に来たということ――?


 アカコが「都」に還る糸口になる――


 

 小泉殿が身近にいたかもしれないと思うと懐かしさがこみあげてきて、なんとしても小泉殿に会いたい、「都」に帰りたいと願った。


 だから、精神科に来ている場合ではないのだ。一刻も早く、広瀬の師匠である桐生に会って詳細を聞きたいし、本当にアカコの作品なのか現物を確認せねばならない。桐生に会えば小泉殿の消息の手がかりを掴めるかもしれないし。


 そして、忘れてはならない目的がもう一つある。

 アカコの恥ずかしい作品を世間に発表することを阻止すること。


広瀬の話では、桐生先生が宮内省図書寮において発見し写本したという。まずは桐生先生の持っている写本を奪わなければならない。そして宮内省図書寮にある物も奪い返そう。元はアカコのものなのだから。何の咎があろうか。



 ――アカコが草紙奪取計画を思案している間、恒子は医者に泣きながら話していた。


「三月に階段から落ちて気絶しまして、それから言動がおかしくなってしまって。

 ……ええ、自分のことを中世の御姫様だと思い込んでいるようで。私共がいくら諭しても効果がございませんの。

 学校の方は休学にしています。最近、機嫌よく過ごしておりましたから復学させようかと主人と話していたのですが……」


医者はふむふむと頷きながら「カルテ」に何か書き込んでいる。

 

「奥様、そういう場合は否定ばかりするとかえって患者を混乱させてしまうことがあるのです。まずはお嬢様の言っていることを肯定しておやりになって、落ち着かせて様子をみてはいかがでしょう。病棟に入れるかどうかの判断はまだ尚早だと思います……

 お嬢様のお話を聞きたいので、奥様はしばらく退席願えますか?」


医者に促され恒子は診察室の外に出て行った。

 

白い部屋にアカコと若い看護婦と医者の三人だけになった。


 


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