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写本を隠す

 走って走って鈴木家の玄関を乱暴に開けて飛び込んだ。自称母・恒子が驚いて何やら怒鳴っている声を背中で聞きつつアカコは自分の部屋に逃げた。

 胸元には桐生の研究室から奪った写本を抱えている。

 これをどこに隠そう。誰にも気づかれないようにしなければ。いっそのこと燃やしてしまおうか。

 

 アカコはそっと写本の表紙をなでた。アカコが夢中で書いた物語。御所様(後深草院)との夢物語。これを親友の小泉殿に見せて二人できゃっきゃと盛り上がった。「続きを書いて」とせがまれた。

 この物語には楽しかった都の思い出がつまっている――。

「燃やせない。燃やしたくない」

やはり、隠しておくことにした。最適な場所はどこか?広瀬は要注意である。写本を見つけたら桐生に返してしまうだろう。

 この部屋で広瀬が絶対に触れることができない場所――。といえば、あそこしかない。


 箪笥の中段にある下着入れの奥の方に写本を隠すことにした。ここなら安心だ。自称母・恒子が洗った下着をアカコは自分で畳んでしまうのが東京に来てからの習慣になっていた(最初は戸惑ったが)。広瀬も自称父・弥太郎も自称母・恒子もこの中をみることはまずない。

 

 下着の中に埋もれさせる前に、もう一度読み返してみたくなった。自分で書いたものだからもちろん内容は覚えているのだが、今ひと時、都の思い出、御所様への憧憬に浸りたかったのだ。


 写本をめくる。

 

 物語はアカコが十四才の春から始まる。美少女アカコを御所様は手に入れようと父雅忠と謀をめぐらす。何も知らないアカコはなかば強引に御所様に処女を奪われる――。

 

 読みつつ「我ながらこんな話をよく書けたものだ」とアカコは赤面する。(ちなみに実際のアカコは今も未経験である)

 しかも、話の展開が強引で発想がぶっ飛んでいる。

 物語の中でアカコは御所様の他にも思いを抱いている男性がいて、御所様ともう一人の男性の間で女心が揺れ動くのである。

 そうとは知らずアカコに夢中な御所様は父雅忠の許可もなしにアカコを抱え上げ御所車に無理やり乗せて御所に連れ帰ってしまう。

 色々あって、なんとアカコはもう一人の男性にも抱かれてしまい後にこっそりと彼の子を御所様にばれない様に出産するのだ――。

 

「ありえない……」

思わず自分で書いたものに自分でツッコミを入れるアカコであった。なぜこんなものを書いてしまったか……。せめて、父の名を架空の名にしておけばよかったのに。


羞恥心に耐えながらも読み進めていくと、「おや」とおかしなことに気づいた。


それは、写本の中ごろの頁にさしかかったときのことである。


「私、こんな文章書いていない」

 

途中からアカコの身に覚えのない文章が続いていたのである。

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