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奪う

「先生、奥様からお電話です」

大学の事務員らしき人がドアを開けて桐生を呼び出した。

桐生は「ちょっと行ってくる」と言って出て行った。


研究室には広瀬とアカコの二人きりである。


これはまたとない機会。


例の写本を奪うのは今しかない。アカコは意を決心して広瀬を見つめる。まずは広瀬をなんとかしてこの部屋から追い出したい。それとも、広瀬にお願いして写本を盗むために協力してもらおうか。


「アカコさん、なぜ桐生先生の研究にそんなに執着するんです?」

アカコの視線に気づいた広瀬が問う。

「だって、私の物だから……」

そう、アカコが書いたもの。それを世間の人に読ませるのも読ませないのもアカコが決めること。


広瀬は大きくため息をついた。

「やはりアカコさんを大学に連れてきたのは間違いだった。こんなことなら映画にでもしとけばよかった」

この人はアカコの切実さをわかってくれない。本当のことを言っても信じてくれないのだから、仕方ない。

広瀬を協力者にするのは難しい。やはり、追い出そう。


「広瀬さん、私、なんだか眩暈がするわ」

そう言ってアカコは大げさに倒れこむフリをした。

「あ、アカコさん!大丈夫ですか!」

広瀬が咄嗟にアカコの身体を受け止める。広瀬に抱きかかえられてアカコは一瞬胸が高鳴ったが、冷静さを欠かずに作戦を遂行する。

「苦しいわ、誰か呼んできて」

一世一代の演技である。広瀬は研究室の椅子にアカコを座らせると慌てて出て行った。



「よし」


アカコの思うままだ。桐生の机の上を見る。書きかけの論文らしきものが置いてある。そしてその隣には

『とはずがたり』

と表紙に書かれた冊子があった。これが写本に違いない。アカコは手に取って中を見る。


冒頭の部分、

「呉竹の一夜に春の立つ霞、今朝しも待ち出でがほに、花を折り――」

間違いない!アカコが書いたものだ!これが写本だ!


アカコは写本を胸に抱え、研究室を飛び出した。今のうちに、鈴木家に戻って隠さなきゃ!


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