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久しぶりの投稿です。実際にバルセロナに行ってきました。テロがありましたが良い街です。
ナチョは保険会社で働いている三二歳。幼少の頃韓国で産まれてすぐに養子としてバルセロナの夫婦に引き取られたそうだ。そのため見た目はどうみてもアジア人で親近感が沸く。雰囲気はよくアレックスに似ているが彼より陽気な性格で南の島で育ったような大らかな感じがする。
アレックスとナチョの韓国旅行の写真を眺めながら彼らの生い立ちや出会った経緯について説明してくれた。
学生時代にインターネットサイトで出会いそれから十年以上一緒にいるらしい。仕事の関係で数年間は別々で暮らしていたが、アレックスがバルセロナ移住をきっかけに二人で家を買ったそうだ。
ゲイのカップルと同棲なんて考えたこともなかったが、アレックスもナチョも僕を歓迎してくれているように見えた。
学生の同士でするシェアハウスとは違い僕たちは大人な生活をしている、お互いにあまり干渉せず平日は仕事や勉強スポーツなど個々の趣味に時間を費やし週末はたまに食事を一緒にする。
ナチョが仕事に行っているときアレックスと二人きりになれば体の関係を持つこともあった。
そんな僕との関係をカップル同士で容認しているのかどうかは聞かなかったが、きっと知っていたのだろう。
ナチョとアレックスはお互いが離れている時はいつも近況報告メールをしている。僕とアレックスが二人きりで夕食をしたときも写真を送り自分が誰と何をしているかを共有している様子だった。
寝る前もいつも三階からスペイン語で話し声が聞こえて常に相手が何をしていたのか情報を共有している。
やはり結婚やパートナーになることは簡単じゃない、僕には到底できないと改めて思い知らされた。僕は常に新しいロマンスを探してたまにいい人が現れてもいろんな男に移り気になってしまうからだ。
アレックスとナチョの間に性の臭いが感じられなかったから彼らはもう体の関係はないと微かに思っていた、実際はどうなのかわからないが彼らが二人きりになると膝枕をしてソファーに座っていたりするところを階段の柵から見たことがあった。邪魔するのも悪いと思いそろそろと階段を降り外に出ようとすると、アレックスは飛び上がり膝枕の体勢を崩し何もしていなかったのかのように振舞っていた。
正直その時僕はナチョに嫉妬していた。やっぱり僕は一人で彼らはカップルなんだ。アレックスはナチョの物なんだと。
僕は勝手に二人から愛されていてしかもアレックスとはたまにセックスもできる都合の良い関係だと思っていたから、改めて自分にはだれも愛してくれる人がいないとわかるとまた誰か僕の相手をしてくれる人を探すのだった。
身近で僕を愛してくれそうな人はだれかと考え携帯の電源を入れる。
ゲイアプリを起動してみるが一夜限りの相手からのメッセージとhelloとholaから始まる近場にいる知らない相手からのメッセージで埋まっている。
今は知っている人に傍にいてもらいたかった。丁度その時パブロから「これからクラブにいかない?」と連絡がきて二つ返事で行くことになった。
アレックスとナチョは「どこか行くの?」と聞いてきたけど僕は「別にたいした用事じゃない」というと
彼らは顔を見合わせ、あーこれから男に会いに行くんだといった表情でニヤニヤしながら僕をみてきた。
君らががイチャイチャしている空間に居たくなかったからわざわざ僕が外にでるんだぞ、と言わんばかりの少し憤った表情で僕は家を出た。
心配してほしいからわざと気づいてもらえるようにそんなことをしてしまう自分が嫌になるが、その時はそんなことよりもなんで僕を愛してくれないんだという気持ちでいっぱいだった。
パブロはクラブの前で僕を待っていてくれて、入り口に立っている黒人のガードマンのID検査を通ると入場料を払いカウンターでエナジードリンクとウォッカを混ぜた大味なカクテルを注文した。
初めて行くそのクラブは様々な国籍の人がたくさんいたほとんどがゲイだったがちらほらと女性の姿もあり流行の音楽がミックスされている。
普段はあまりクラブにいかないため居心地は良くなかったがパブロが僕の傍で踊りながら体を寄せてきてくれたので一人じゃない気がしていつもより気分はマシだった。
ウォッカ入りのカクテルを四杯ほど飲んだ時にはほとんど意識もなく流れる音楽とパブロにただ身を任せ、思考をするのをやめた。
目が覚めた時にはベッドの上で横にはパブロが寝ており僕の手を握っていた。パブロを起こさないように手を解くと急に頭痛がし喉の渇きを覚えたので水と薬をキッチンで探す。
スペイン語で書いてあるためどれが二日酔いに効くのかわからなかったが、パッケージの絵を見て勝手に判断し規定の量を大量の水で流し込んだ。
腰周りに違和感を感じ振り返ると、パブロが後ろから抱き着き「昨日は楽しかったね」と僕の耳元でささやいた。よく覚えていないが「そうだね」と咄嗟に口からでてしまい、それを聞くとパブロは笑顔で僕をベッドに押し倒した。
学校に通い始めてからパブロと僕はよく会うようになっていたし、セックスだけじゃない時間も一緒に過ごすことが多くなっていたため、お互いシングルだった僕たちは意識するようになっていた。このまま彼氏になっていいかもなと。
気づけばパブロ以外の人とセックスをする気が起きなかったし、パブロにも他の男とあっている様子はなかった。日本とは違い告白という習慣にあまりなじみがないスペインでは自然の流れで友達からカップルに成っていくらしい。
もしかしたらこの時もう僕らはカップルなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
遅めのランチを食べながらパブロに最近はどういう男と遊んでいるのか聞くと「なんで?僕はヒロがいるから他の人とは遊んでいないよ、ヒロは他に誰か居るの?」と当たり前のように答えたので「いやいないよ」と自動的に口から言葉がでた。本当はアレックスにも好意を抱いていたが、どうせ実らない恋なのでパブロで傷心を癒そうと思っていたなどとは言えない。
携帯のランプが点滅に気づき確認をすると昨日の夜にアレックスからメッセージが届いていた。
「昨日は様子がおかしかったけれども大丈夫?家にも帰らなかったし僕達ヒロになにかしたかな?」
「もう大丈夫だから気にしないで」と勝手に指が動いた。また嘘をつく。こんなこと言うなんて相手に心配してほしいからじゃないか。やはりまだアレックスに気があるみたいだ。
「今日は仕事休みだから家に帰ったら話そうか」なんだか面倒なことになりそうなので正直に言うことにした。
「君らカップルに少し嫉妬してあの場に居ることができなかったんだ。だからちょっと友達の家に泊まっていただけだよ。今はもう大丈夫、子供みたいなことしてごめん。」
「こちらこそごめん、ヒロのことは好きだけど僕らは家族だからコミュニケーションは大事なんだ・・・。僕もヒロが誰かと寝ているんだったら嫉妬しちゃうな」
やっぱりアレックスは大人だ、僕には大人の関係を求めていることがわかったけれども僕を気にしてくれていることも理解できた。
「今日はちゃんと帰るから」
と絵文字もなしにそれだけ返すと「気をつけて」と短く返信がきた。
バルセロナの生活にも慣れすこし気が緩んだのか朝も遅刻することが多くなり、アレックスの家よりも学校に近いパブロの家に泊まることが多くなった。
それだけが理由じゃない最近はよりパブロが彼氏になってきている感じが強くなり一緒に居る時間が多く長くなっている。少しアレックスに嫉妬させたい気持ちもある。