第6話 変態との邂逅
後ろから声をかけられるまで全く気づかなかった。
それだけ目の前の屍体のインパクトが強かったということだろうか?
それとも、新手のスキルの影響だろうか‥
振り向くと、5メートルくらい先に一人の女性がいた。
1メートルくらいの長い棒に、小さな斧が付いた武器を持っている。ハルバードというやつだろうか?
つまり、俺以外の勇者だ。
警戒して構えると、彼女は話しかけてきた。
「そんなに警戒しなくても、僕は君の敵ではないよ?僕の名前は花散 咲、咲くんだか散るんだかわからない変な名前だよ。君の名前は?」
俺はとっさに返答にどもる。
別に警戒しているからだけではない。
単に女性と話すのが苦手なだけだ。
あれは小学生低学年の時、幼馴染の女の子を遊びに誘った時、きもちわるいからヤダ、と断わられた事が原因だ。
理由はわからない。単に気分が悪かっただけかもしれない。だだ、拒絶されたことがショックで女の子と話すのが怖くなった。
別にそれ以外に何かあったわけではない。
今思えば、後ろに屍体がいるこの状況を考えれば全く大したことはないのだが、幼少期のトラウマは今も俺の心をえぐり続けている。
ちなみに、女性が苦手と言っても、男が好きっていうわけではない。
これは、絶対だ!
俺が黙っていると、女は困った顔をして語りかけてくる。
「ひょっとして、言葉が通じていない?外国の方なのかい?困ったな、僕は英語とか苦手なんだよ。どうしようかな。」
どうしようと言いたいのはこちらの方だ。
しかし、敵だと思われるのはマズイ。
武器の特性上、正面からの戦闘は避けたい。
意を決して返答する
「俺はサイトウだ」
緊張しながらこれだけは言えた。
言い訳するわけではないが、相手が女性だからとか勇者だからと言うだけでなく、この女よく見ると凄い美人なのだ。
陶磁器の様な白い肌、すらっとしたスタイル、でも手足は引き締まっている。
胸も大きく、顔立ちははっきりしている。
モデルか女優かと思うくらいの美人だ。
声も綺麗だ。鈴の音のようだ。
しかも、貧相な皮の鎧でさえ洗練された着こなしを感じるくらいだ。
ただ‥なんとなくだが猛獣のような威圧感がある。
正直、ゴブリンの10倍は怖い。
女は更に聞いてくる。
「良かった、話が通じるようだね。さっきも言ったけど、僕は君と戦う気はないよ。
なんと言うか、分かり合える気がするんだ。だから、話し合いをしよう。」
分かり合える?
何を⁈
「なっ、何が目的だ?」
俺は聞いた。
「僕の目的かい?それはもちろん、そこの彼女さ」
意味がわからない。
この屍体を調べたいのか?
それとも何かがあるのか?
女は続ける。
「実はさ、僕は死んでる人しか愛せないんだよね。だから、その子を迎えに来たんだ。
でも、もう君とすでに愛し合っているなら、つまり三角関係と言う事になるのかな?
それはそれで、素敵な関係
うん、ちょっと楽しくなってきたよ。」
女は笑顔で言った。
変態だ、それも重度の。
いわゆる、死体愛好家、ネクロフィリアと言うやつだろう。
屍体を愛する?
まともな感性ではないのだろう。
と言うか俺は仲間じゃない。
「違う。俺は調べに来ただけだ」
「なんだ、それならば‥
その子を僕にくれないかな?
代わりに何か欲しい物はあるかい?
んー、あげれるのは薬草くらいしかないんだよね。
食べる物僕も持ってないし、と言うか水しか飲んでないんだよね〜
ん、ひょっとして君はそっち系か?
彼女を食べる予定なのかい?
それは困るな。
せめて骨だけは残してくれないかな?
そうだ、いっそのこと僕の腕と交換でどうかい?
新鮮な方が美味しいかもしれないぜ?」
意味を理解するのに時間がかかった。
どうやら屍体を食べると思われたらしい。
「違う、調べただけだ。食料はある。人は食べない。草も土も食べれる」
俺は返答する。
「そうかい、土を食べるとか君もなかなかだね。それで、どうしたら譲ってくれるのかな?僕に出来ることなら何でもするよ?」
何でも、一瞬卑猥な考えも思いつくが、やめておく。
正直嫌な予感しかしない。
「じゃあ、お前のスキルと魔法を教えてくれ。」
とりあえず、情報を聞くことにした。
「なんだ、そんな事でいいのかい?
僕のスキルは回転斬りだよ。
ハルバードを活かした攻撃系スキルさ、
魔法は闇魔法で周りを暗くするだけなんだよね〜
攻撃力が全くない、使えないスキルだよ。
しかし、彼女の対価がこんなことで良いのかい?」
女は使えないと言っているが、組み合わせればかなりの脅威だ。
暗闇を広げて回転斬りで襲えば回避はかなり難しい。
ただ、森の中よりも、広い場所ならもっと有効なんだが‥
正直、これ以上関わるのも危険な気がするし。
情報だけでも十分としよう。
「わかった、十分だ。ここから離れるからもう少し下がってくれ」
「オーケーオーケー、それじゃまた会えるといいね。君のことは気に入ったしね。
次はそうだね、君が死んだら迎えに行くから楽しみにしておいてね。」
不穏な別れ言葉を残し、女は離れて行く。
ある程度離れるのを確認したら、脇目も振らず俺は逃げ出した。
もう2度と会わないことを祈ろう。
しばらく進んだあと、休憩する。
多分追ってはこないだろう。
さて、次はどこへ行こうか‥
ん?
囲まれた。
ゴブリンが三匹
俺だって、これまでに5匹のゴブリンを倒している。
三匹くらい余裕だろう。
棍棒、弓、ナイフの三匹、単体なら余裕だった相手だ、棍棒は当たると痛いが他はどうってことない。
いつも通り、長剣に超振動のスキルを発動させて構える。
このスキル、威力は高いが、発動までが長いくその間剣が使えないので連続使用出来ない。
まずは棍棒野郎の左腕を切り捨てる。
その隙に脇腹に弓が当てられる。
皮の鎧を着ているから刺さらない。
鬱陶しいので魔法で牽制する。
ウインドカッター
一陣の風が吹き、カマイタチが弓野郎の首に当たる。
致命傷だ、当分動けないだろう。
棍棒野郎の攻撃を受け流し、切り返す。
ナイフ野郎が時々切ってくるがかすり傷だ。
関係ないだろう。
棍棒野郎をかなり切ったその時、急に力が抜けてきた。
なぜだ?
死ぬような攻撃を受けていないのに‥
理由もわからぬまま、俺の意識はなくなっていった。
また、例のフラッシュバックか‥
ただ、今回は精神的なダメージが少ない。
手に汗をかいたくらいか‥
多分、死ぬ時の苦痛が少ないせいではないだろうか?
さて、今回の死に方も考察してみよう。
今回の勇者は大きなダメージを追ってはいない。
ただ、シーフ型のゴブリンにかすり傷を沢山付けられていた。
これはやはり‥
HP がなくなったと考えた方がいいだろう。
つまり、致命傷で動けなくても死なないの逆バージョンだ。
手数にも注意が必要
つまり複数相手はかなり危険だ。
あと、ほかの勇者もそろそろシステムに気づいてきただろう。
更に戦略を考えなければ‥
今必要なのは状況の整理、そして情報の解析、魔法の制御、やる事は山積みだ‥
次回 第7話 2日目の終わり。