第58話 再会
翌日には筋肉痛はすっかりなくなっていた。
ただ、筋肉痛は解消しない方が筋肉がつくという話を聞いた事があるが、異世界ではどうなんだろう?
ステータスとは関係ないしな‥
イマイチ謎なこの世界のシステムだが、痛みが無くなるのはありがたい。
そして、いつものように朝ごはんに肉を食べる。
今日はなんとなく、オルトロスの肉だ。
塩焼きなら意外と美味い。
脂肪が少なく、高タンパクなのもいい感じだ。
「ちなみに、ナインも食べれるのか?
オルトロスの肉だけど、美味いよ?」
「せっかくなので、頂きますわ。
とはいえ、手がないので口に入れて欲しいですわ。
って、むががが‥
一気に入れないで欲しいですわ!
もっとゆっくり食べさせて欲しいですわ!」
「いや、おねーさんなら一口だったし、やっぱりおねーさんではないんだな‥
っていうか、人面瘡への食べさせかたなんかわかるわけないし。」
おねーさんはいない。
それでも‥
1人よりは2人で食べる方が良い。
今は少なくとも、1人の寂しさを忘れられるしね。
そして、俺たちは島の中央に向かう。
花散はまだ、あの場所にいるような気がする。
毒蜘蛛の様に誘い、引きずりこむために‥
深い森の奥に進んでいく。
モンスターどもは大した事がなく、ボスにも会わなかった。
そして、俺たちが順調に森の奥に進んでいくと‥
「ここは、多分最初に来た場所、そんな気がする。」
「最初が森、運がいいのか悪いのかは微妙ですわね。」
「忍び足のスキルで不意打ちするには良かったけどね。
ここで始まって、草と木と土を食べたっけな‥
あれからまだ20日しか経っていないが、酷く懐かしい気がする。」
「人生なんて何もしなければあっさり過ぎるけど、濃厚な経験をすれば長く感じるものですわ。
非情なイベントが多い分、記憶にたくさん残りますしね。
私らは永劫に近い何もしない退屈を過ごして来ましたから、少なくとも私はここ数日は非常に楽しませて頂きましたわよ。
まぁでも‥
本当に大変なのはこれからかもしれませんが、ふふふ。」
「覚悟はしてるつもりだけどね。
それでも、成し遂げなければならないから‥
力を貸してくれ。」
「最初からそのつもりですわ。
というか、ここでビビってたら私が殺しますわよ。
毒を食らわば皿までってことですわ。」
微妙に意味が違う気もするが、まぁ心強い事には変わりない。
次に、俺たちは最初にゴブリンを倒した場所を通り過ぎ、カワズモドキのいた湧き水の近くにたどり着く。
そこには、最近まで人がいた痕跡があった。
カワズモドキの食べ残し、座った様な跡、そしてわずかながらの死臭‥
多分、今朝まで休憩していた。
誰が?
聞くまでもなく、花散咲だろう。
「近くにいるかもしれない。
ここからは慎重に行こう。」
「了解ですわ。
ん?
この気配‥
非常に嫌な予感がしますわ‥」
「気づかれてしまったようだね。
って君は‥
あの時の子か、いやぁ久し振りだね〜
あれ?
でも、さっき女の人と喋っていなかった?
誰か他にもいるのかな。」
少し距離はあるものの、花散が近づいて来たのに俺は全く気づかなかった。
前もそうだったが、この女は存在感は半端ないのに、気配を完全に消せるんじゃないだろうか‥
「訳あって、腹に傷が出来ていてな、顔みたいに見えるんだよな。
んで、しかたがないから、腹話術をして寂しさを紛らわせているんだよ。」
「そうですわ、腹話術ですわよ。」
ナインも合わせてくれる。
「ふーん。
まぁ、それはともかく、君はすっかり殺人鬼の顔つきに変わったよね〜。
なんか、最初に出会った時からシンパを感じていたんだよ。
いい顔つきになったね。
ふふふ、いいねぇ。
食べちゃいたいくらいだよ。」
「残念ながら、もう別の人に食べられてるから無理だよ。
それに、今回は本気で殺しに来たから‥
俺と貴女のどちらが生き残るか、それを決めようぜ。
勝負だ!」
「それは残念だね。
うん、全く持って残念だよ。
君とは分かり合えると思ったからこそ、最初に見逃してあげたのになぁ‥
まぁでも仕方ないから、君を殺してその屍体とゆっくり愛し合おうじゃないか。
なあに、ゾンビになるまでの時間は大体わかってるから、安心したまえ。
ちゃんとアイテムボックスにしまって、ねっとりしっぽりと愛してあげるからね。」
そう言って、花散は近づいてくる。
手には穂先に銀の鞘を付けた槍を持っている。
「あれは、やっぱり‥
マズイですわね。
多分あの槍は聖槍ロンギヌスですわ。
とある神が気まぐれで作った、神をも殺せる無敵の槍ですわ。
神でも殺せる威力ですから、全てのモノを貫きますわよ。
それと、あの穂先を外すと、周囲のスキルと魔法を無効化、発動不可にする追加効果付きですの。
しかし、あれば本来次元の狭間に隠されているはずでは‥」
「ん?
この槍かい?
なんかね、数日前にセーフティゾーンに揺らぎがあってね。
そこで、手に入れたんだよ。
すごい斬れ味でね。
エルフとかオーガをサクサクって殺せるんだよ。
やっぱりこの世界は素晴らしいよ!
敵モンスターが大分人型に近づいてきて、殺し放題なんだなら。
ハハハ
そして、君みたいな凄い殺人鬼とも殺し逢える。
素晴らしい!
素晴らし過ぎて、逝っちゃいそうだよ!」
うーむ、最初からヤバイ人だとは思ったが‥
人としてもヤバイが、武器もヤバイらしい。
と言うか‥
魔法とスキルが使えない時点で俺もかなりヤバイ。
俺は、花散が鞘を抜く前に魔法攻撃を試みる。
辺り一面が炎に包まれるが‥
花散の周囲4mくらいは全て魔法が消えている。
間に合わなかったようだ。
短刀では、槍の間合いで戦うのが厳しい。
ただ、聖剣もスキルが無効化されればただの重い剣だ。
はっきり言って、役に立たない。
少なくとも、この開けた場所では槍と対峙するのは難しい。
俺は炎を煙幕代わりにして、踵を返し逃げる。
花散は‥
炎をあっさりと無効化して追ってきている!
森に入る。
冷静に考えて、魔法が効かないだけで戦力は半減する。
また、槍相手に刀で戦うには、三段以上の技量が必要だと言う。
花散は、おねーさん程ではないが、多分俺よりも手練れだと思う。
つまり‥
まともにやっても勝ち目はない。
恐らく、降伏しておねーさんの屍体を渡せば生き残る事は可能だと思う。
時間をかければ隙を突いて倒せるだろう。
だが、そんなことでは守護獣は倒せないと思う。
例え不利でも、倒さなければならない。
であれば、どうするか?
不意打ちか、卑怯な手しかない。
つくづく、主人公っぽくねーよな俺って。
だがしかし、おねーさんが主人公なら俺は卑怯なモブで良い。
さっさと主人公を復活させて楽しないとなぁ。
森をある程度駆け抜けてから、振り返ると‥
槍の射程距離内に、花散がいた!
咄嗟に木を盾にしてかわすが、木を貫通して突きが来る。
幸い頭を反らすことでギリギリでかわせたが、本当にギリギリだった。
俺は、木々を回り込み、槍をかわしながら鎧に仕込んでおいたナイフを3連投で投げる!
腕を掠る程度だが、当たった。
どうやら短刀特性は、スキル無効化に影響しないらしい。
すると、花散は攻撃をやめ、語り出した。
「この痛み‥
素晴らしい!
素晴らしいよ君!
痛みなんていつの頃か忘れていたよ、こんな楽しい気分は久し振りだ!
さあ、もっと斬り合おう!」
うん、なんか怖いよこの女。
花散は、興奮し過ぎたのか股の辺りが目視出来るほど濡れている。
‥濡れている原因は考えないようにしよう。
俺は一旦距離を置き、再びナイフを花散に投擲するも‥
今度は全てかわされる。
やはり、フェイントが必要か‥
「基本的にはレベルとステータスは貴方の方が上のはずですわ。
技量では完全に負けてますけどね。
差し詰め、柔よく剛を制すと言ったところですわね。」
「それならさ、剛よく柔を断てばいいってことか‥
なるほど、物量で攻めればチャンスはあるかもしれない‥
考えろ、何か必ず手はあるはず」
そして、俺は‥
強い力は強い代償を要求する。
俺と花散の差なんて、本当に僅かだ。
だが、俺には戦うしかない。
愛するおねーさんのために‥
次回 第59話 花は散れども




