第44話 天使憑き
久しぶりの平原だな。
意外と時刻はまだ昼前くらいだった。
もーちょっとしたらおねーさんの寝る時間か‥
草原には相変わらずオルトロスがいて、おねーさんの攻撃で瞬殺だった。
俺の方?
オルトロスは火耐性があり、火の魔法が効きにくい。
それに草原で火を使うと火事になる。
一回試したら、えらい事になったし‥
一応芭蕉扇で吹き飛ばして、残り火に水をかけて消えたから良かったが、延焼したらどうなっていたことか。
もちろん、マチェットや、風魔法でも戦えるから倒せなくはないが、おねーさんの方が効率がいいため任せている。
もっぱら魔石拾いだけだが、まぁ楽だからいいか。
草原から海に向かって歩いて行くと、おねーさんが立ち止まる。
「多分、あそこに人がいる。」
勇者か⁈
とりあえずおねーさんと相談し、話がわかる相手なら情報交換するか見逃す事にした。
あの毒野郎なら速攻焼き殺す。
草陰に隠れながらゆっくりと進む。
そこには草を敷き詰めた上で、結跏趺坐をしている男がいた。
「あの男は!」
おねーさんが思わず声を上げる。
「おねーさんの知り合い?」
「最悪最低のね、少年君、あいつは危険、気をつけてね。」
いつになく、おねーさんがマジだ。
そんな話をしていると、男に気づかれ、話しかけられた。
「そこに隠れている者たち、出てくるがよい。」
男の口調は偉そうだ。
警戒しながら俺たちは立ち上がり、男へ近づく。
男は微動だにせず、目を閉じている。
「我は神の御使なり、我が声は神の声、我が肉は神の血より生まれしもの、我に従え。」
「俺は神を信じない。
悪いがお前に従うつもりはないよ。
というか、敵対するなら殺すけど?」
「少年君、あいつは天使の受肉を目的として、大量の少年少女を攫ってピーした犯罪宗教集団、コカベルの福音神秘教のリーダー、神乃神也だよ。
実際は老若男女構わずピーしては天使を召喚すると言って内臓を引きずり出して殺していたんだけど‥
私がとある富豪の私設調査団、βファードにいた時に追っていたの。
最初はおじさまの仇である毒川悪童を追っていたんだけど、毒川のペーパーカンパニーに出資している宗教団体を見つけて、最終的にはあいつらの悪行を暴くとこまでは行ったのに‥
幹部のほとんどは見つかったけど、神乃は目前でメロン片手に逃げていったわ。
その後死んだって噂があったけど、ここであったが100年目、だね。」
「き、貴様は!
俺様の敬虔なる信徒を次々と務所送りしたあの時の化け物女か!
許すまじ、許すまじ!
貴様はこの神の御使たる我が裁いてやる!
ピー、ハラワタを引き裂いてくれる。
神の力を得た我に逆らった事、あの世で閻魔大王にでも詫びるがよい!」
うん、ダメだねこの人‥
まぁおねーさんの仇敵だし、サクッと殺すか。
ただ、フラッシュバック対策はしたいな‥
「少年君、できれば色々と問い詰めたいからすぐには殺さないでね?」
おねーさんにも何か考えがあるようだ。
そんな話をしていると、神乃は魔法を使い始めた。
「数多の星々を従えし偉大なる大天使コカベルゥ!
我が前に顕現し、かの敵を討ち滅ぼさん!
受肉せよ!
天使召喚!」
これまでの魔法とは違う気配がし、かなり大きなゲートが開くのを感じる。
強いて言うならモンスターがリポップする時の様な感じだ。
そして現れたのは、全身純白で、羽を生やした人型。
正に天使のような何かだった。
更に神乃は叫ぶ。
「天使よ!
神の御使たる我と1つになれ!
天使憑依!」
すると、天使が神乃にめり込んで行き、完全に融合した。
恐らく、天使憑依は神乃のスキルだろう。
ちなみに、天使は魔法生物のようなもので、ほとんど魔力でできている。
神乃は空に舞い上がり、上から言い放つ。
「我が天使は絶対防御を持ち、いかなる攻撃も受け付けない。
貴様らは地を這いずり、圧倒的な力の前にひれ伏すのだ!」
どうも天使は絶対防御らしい。
厄介だな‥
「おねーさん、あの天使みたいなのは多分魔法も物理攻撃も効かないと思うけど、あいつの魔力量から見て2時間くらいしたら解けると思うんだよね。
だから、攻撃を喰らわず、かつ逃げられないようにしたいんだけど、できるかな?」
「多分2時間くらいなら大丈夫かな。
とりあえず、やってみるね。」
おねーさんと神乃が対峙する。
神乃は空から滑空し、手にした槍でおねーさんに斬りかかる。
しかし、おねーさんは軽々とかわし、反撃する。
渾身のメテオストライクが神乃に炸裂する。
巨大なクレーターを作り、神乃は地面にめり込む。
しかし、何事もなかったように神乃は立ち上がり、再び空を舞う。
「フハハハハ!
いかなる攻撃も効かないと言ったであろう。
諦めよ!
諦めて、我が刃を受けるがよい。」
確かに防御は無敵のようだ。
こっそり魔力が通るか試したが、完全に受け付けなかった。
時間切れを狙うしかないか‥
幸い、スピード、攻撃力は大した事はない。
いやもちろん、おねーさんに比べればの話で、オークやキラーエイプ位の能力はあると思う。
オークジェネラルほどではないが。
つまり、かわし続けるのはさほど難しくないだろう。
むしろ、逃がさない方法を考えないと。
多分力で抑えつけても、逃げられるだろう。
絶対防御は逃げるという点においてかなり有利だし。
これで能力が高ければ無敵だが、俺たちの方が強いのは幸いだったな‥
全身凍らせて閉じ込めるか?
若干狙いが難しいな。
いや待て、魔力が通らなかったよな?
そもそも魔法生物ということは、存在自体が魔法の可能性が高い。
そうじゃないと、説明がつきにくい。
まぁ何でもありっちゃあ、ありな世界でいうのもなんだけど。
魔法ならマジカルシールドが使えるか?
確かあれは体表を纏うタイプだっけ‥
ならば、エルフの魔石の魔力障壁なら?
俺はおねーさんの前に出て、魔力障壁で神乃の攻撃を受ける!
「少年君!」
「大丈夫おねーさん、相手は魔法だから俺に任せて!」
やはり、予想通り武器も含め全て魔法らしい。
魔力障壁に対して、一切傷つけることはできない。
「くっ、小賢しい真似を!
とはいえ、貴様も我にダメージを与える事はできまい。
神から与えられし無限の魔力を持つ私の攻撃を受け続ける事なぞできんわ!
醜い足掻きは止めて、さっさと死ぬがよい。」
うーん、俺の見立てでは神乃のMPは最大30位じゃないか?
しかも、天使憑依は4-5分にMP1を消費しているように見えるが‥
まぁエーテルとか持ってると厄介なんだけど。
ちなみに、魔力障壁はMP1 で10分は持つ。
しかも、10分あれば自動回復するからほぼ無限に出し続けられる。
もちろん、神乃は魔力を見れないからわからなくて当然なんだが‥
ふふふ、滑稽だな。
吠える神乃を哀れな目でみながら、俺は魔力障壁を変形させ、神乃を包む。
「なぬ!
動けないではないか!
小僧、無礼な!
さっさと解け!」
「おねーさん、あのバカが解けとか言ってるけど、どうする?
ちなみにあのバカのMPは15位しか残ってないから1時間待てば魔法の天使は消えるよ?」
「というか‥
少年君を小僧とか言ったのが許せない!
バンシーに値する?
あれ?
バンジーだっけ、地盤死だっけ‥
忘れたけど、10000回殺さないとねぇ。」
「やめろ!
そんなことをすれば100000人いる我が信徒に殺されるぞ?
今なら許してやる。
さっさと解けよ。
なぁ頼む、謝るから、この通り!」
「謝るなら頭を下げて謝れよ?」
「いや身動きが取れないのだ!
だからせめて、ちょっと緩めてくれ!」
「嫌だね、頭も下げないやつの言うことなんて聞かないよ〜
ぷーくくく」
「少年君の嫌がらせ面白いねぇ。
あはは〜」
おねーさんも一緒に煽ってくれている。
「くそう、なんたる屈辱!
許さん!
許さん!
許さんぞ!」
そうして神乃は50分くらい喚いていたが、残りMPが2位になると、大人しくなり、独り言を言い始めた。
「一はゼロ、ゼロは一、全ては我に帰結するのだ、神の力は絶対、負けるはずがない、負けるはずがない、うがー!」
そして、MPがなくなると天使が消え、神乃はうなだれて‥
落下した。
さあ、始めよう。
相手は悪質な国家反逆罪の最低野郎だ。
拷問や虐殺の上、終身刑を言い渡してやるぜ!
次回 第45話 断罪




