来訪者
クルト達が散歩で家を留守にしている間に、玄関のドアをノックする者の姿があった。
留守番をしていたナナは応対するべく、駆け足で玄関に向かった。
「どちら様でしょ...申し訳ありません。」
ナナは来訪者の顔を見るなり跪こうとしたが、その来訪者によって止められた。
「かしこまらなくていいよ、ここにはお忍びで来てるからね。」
「ですが...」
「いいんだよ、ここには君と僕の二人しかいない。僕だって普通に接してもらいたい時もあるのさ。」
「かしこまりました...」
納得していない様子で、ナナは来訪者の提案を了承した。
「最近、彼女の調子はどうかな?」
「別段、何か起きることもなく幸せそうに日常を送っておられます。」
「それは良かった。僕の弟が彼女に迷惑をかけていることをずっと気にしてたんだ。」
「セレナ様は迷惑とも思っておられません。毎日、クルト様と楽しそうに過ごしておられます。」
「そういえば生まれたんだったね。僕からすれば甥っ子か、僕の子供たちと同い年だったね。」
「はい、この前お誕生日を迎えて一歳になられました。」
「出来ればこの目で見てみたいけど、留守みたいだね。」
「そういえば、今日のご来訪の目的は何なのでしょうか?」
今更ながらにナナは目的を聞いた。
「彼女の様子を見に来たというのもあるんだけど、一番の目的は警告に来たんだ。」
「警告ですか?」
「そう、どこから漏れたのか君たちの存在を嗅ぎ付けた輩がいてね。君たちを利用して良からぬことを考える可能性があることを伝えに来たんだ。」
「それを何故、貴方様自ら?」
「人を使うとそこから漏れるかもしれないでしょ?一番安全な策がこの方法だったってわけ。」
「私には書類の処理に飽きて、脱走してきたようにしか思えないのですが?」
「そ、そんなわけないよ、僕は君たちが心配で心配で...」
「言い訳がましいですよ。」
「というわけで僕はこれから部屋に戻って書類たちと戯れてくるから、さっきの話を伝えておいてね。」
来訪者は脱兎の如くその場を離脱した。
ナナは溜め息をつきつつ口を開く。
「甘いですよ、私がその情報を伝える訳ないじゃないですか国王様。私の目的を達成できなくなってしまう。」
ナナの呟きは誰にも聞こえなかった。
脱兎の如く離脱した来訪者改めて国王は森の中を歩いていた。
「これでやめてくれるといいんだけど無理だよね。うーん、僕からも手を打っておいた方がいいか。」
鼻歌を歌いながら、拾った棒切れを振り回し国王は呟いた。
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