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一閃


(さて、冗談はこのくらいにして本題に入ろうか)


(どうするんですか?)


(まず、俺の依頼主である狐野郎からお前に伝言だ)


(伝言?)


(『君にこの場を任せる。そこにいるゼイラクスを使って全てを終わらせなさい。ただし、どんな形であれ、関わった者、全員に落とし前を付けること。何もしないのは無しで。』だそうだ)


(その人、僕が一歳だって知ってるんですよね?)


(恐らくな)


(頭おかしい人なんですか?)


(いろんな意味でおかしい奴ではあるな。でなきゃ、こんなことは言わねえだろ)


(確かに...)


(ということで、俺はお前の命令通りに動く。俺に出来ることなら何でもやるから、言ってくれ)


(と言われても...)



 急展開過ぎて思考が追い付かないぞ。剣聖が来たかと思ったら味方で、俺はお前の命令を何でも聞くとか嬉しくもない提案をされ、全員に落とし前を付けなくてはいけない。もう訳分からん。ていうか、ゼイラクスさんの依頼主って誰なんだ?剣聖に依頼できるということはそれなりの地位にいる人物だろう。少し聞いてみるか。



(ゼイラクスさん、聞きたいことがあるんですけどいいですか?)


(ん、なんだ?)


(この仕事は、私的、公的どちらですか?)


(ほう、どうしてそんな事を聞くんだ?)


(ゼイラクスさんの依頼主が誰なのか特定できるかなと思いまして)


(お前、絶対に一歳児じゃねえだろ?まあいいや、答えは『どちらも』だ。これ以上は言えねえ)



 『どちらも』と言うことは剣聖、個人とどちらの立場でも付き合いがあるということだろう。俺が誘拐された理由が旗印である事、俺を助けるために剣聖という国一番の戦力が来た事を考えると答えは一つだ。

 依頼主、国王じゃね?ママンか見たこともない父親、どちらかが王族と繋がりがあるのだろう。そう考えると説明がつくな。

 やべぇよ、穏やかな人生計画が台無しだよ。王族との繋がりはまずいでしょ。厄介事の匂いしかしねえよ。

 いや、まだそうと決まった訳じゃない。聞いてみるか。



(ゼイラクスさん、依頼主って国王様だったりします?)


(そ、そんなわけねえだろ、ば、馬鹿言ってんじゃねえよ)



 はい、確定。分かりやす過ぎる。急に口笛を吹き始めて、周りのおっさん達から変な目で見られてますよ、ゼイラクスさん。

 はあ、もういいや。自分の立場については、後で考えよう。今はこの場をどういう形で治めるかだ。

 国王は俺に何を求めているかを考える。恐らく、『覚悟』であると思う。俺が、王族ないし王族の関係者として使えるかどうか・・・・・・・を試しているのだろう。もし、使えるのであれば国の発展のために利用する。使えないようであれば切り捨てる。上に立つ者として当然の選択だ。

 しかし、それを俺みたいな可愛い子供に強いるかね?ゼイラクスさんも狐野郎と言っていたし、相当食えない人物なのだろう。気を付けておこう。

 よし決めた。



(ゼイラクスさん、決めました)


(おう、どうするんだ?)


(この場に居る、僕ら以外全員、殺してください・・・・・・・


(...それでいいのか?)


(僕がこの場で見逃しても、どうせ後で処刑されるのでしょう?早いか遅いかの問題でしかありません。心配しなくても大丈夫です、この人達を殺すのは貴方ではなく僕だ。勘違いはしません)


(...分かった、俺が何をしてもその場を動くなよ)



 ゼイラクスさんは、念話でそう言い、おもむろに立ち上がった。

 その様子を、周りで酒や食事を楽しんでいたおっさん達は、剣聖が何かする気だと思い注視した。

 ゼイラクスさんは、腰を落とし、その体に一本しかない腕である右腕を、剣も何もない左の腰辺り持っていき、大きく息を吐きだした。

 俺たちが居るこの部屋にゼイラクスさんの吐き出す息の音だけが響いた。それは永遠のようにも刹那せつなのようにも感じられた。そのくらいに魅入ってしまった。剣道をやっていたので、その影響かもしれないが、ゼイラクスさんをとても美しく感じた。綺麗な刃渡りの、危険と美しさを併せ持つ一本のつるぎのようであった。

 ぼーっと見ていると、視界にキラリと光がまたたいた。いつの間にか、ゼイラクスさんは腕を振り切っていた。まるで居合切りの後のように。

 ゼイラクスさんが何をしたのか分からなかったが、ゼイラクスさんが自分の席に腰を下ろすと同時に、状況は劇的に変化した。

 血の雨が降った。そう表現する以外に言葉の見つからない光景であった。ゼイラクスさんが腰を下ろした瞬間に、ゴンゴンとボーリングの球をいくつも床に落としたような音がし、煙を感知したスプリンクラーが作動するように首の断面から一斉に血が噴き出した。

 そんな凄惨な光景なのにも関わらず、動揺することもなく俺はゼイラクスさんを見ていた。

 憧れてしまったのだ。剣を振るうだけで、こんなにも感銘を受けるとは思わなかった。それほどまでに先の一閃は俺をとりこにした。

 その様子に気付いたのだろう、ザイラクスさんは念話ではなく直接話しかけてきた。



「どうした坊主、ぼーっとこっち見て?」


「師匠、私を弟子にしてください」



 俺は生まれて初めて土下座をした。

 ゼイラクスさんは土下座を見たことが無かったのだろう。物珍しそうに聞いてきた。



「坊主、何だその恰好?」


「自分が出来る精一杯の誠意を表した頼み方です。どうか弟子に」



 ゼイラクスさんはガシガシと頭を掻き毟り、大きくため息を吐いた。



「別に断るつもりはねえよ。俺もお前のことを案外気に入ってるしな。ただ一つ聞きたいことがある。お前が剣を取りたいと思う理由は何だ?」


「そうですね、『自由』に生きたいからでしょうか?そのために力が欲しい。それにゼイラクスさんの剣が格好良かったというのもありますね」


「『自由』か...そうだな自分の思う通りに生きていくには力がいる。俺にはそれが足りなかった」


「何かあったんですか?」


「その話は気が向いたら話す、今は聞くな。それより大丈夫か?この光景は子供に良いとは言えねえぞ」


「ちょっと吐き気がしますが大丈夫です」


「お前やっぱり...そんなことよりここを出るぞ。長居してもいい事なんてねえ」


「待ってください、まだ終わってません」


「終わってない?ここにいる奴らはみんな死んでるぞ?」


「僕を攫ってきたナナがいないんです」


「そいつはどうするんだ?やっぱり殺すのか?」


「いいえ、調べたいことがあるので協力してくれますか?」


「いいぜ、俺はお前の命令を聞かなくちゃいけないからな」



 俺とゼイラクスさんは死体がゴロゴロと転がる真っ赤に染まった部屋を後にした。


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