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ヤンデレママ


 俺は魔法書を買ってもらって、ウキウキ気分で帰宅した。

 玄関のドアを潜るとナナが出迎えてきた。



「おかえりなさいませ、お散歩はいかがでしたか?」


「クルトが魔法の本をねだってね、可愛くて買ってあげちゃった。」


「い、いくらでしたか?」


「そんなに高くないわよ?金貨5枚と銀貨50枚だったけど、金貨5枚におまけしてもらったの。」


「十分、大金じゃないですか!?」


「いいじゃない、クルトがこんなに可愛いんだから。偶には甘やかしてあげたくなるのよ。」


「普段から甘々じゃないですか!?これ以上甘やかしてダメ人間になったらどうするんですか?」


「大丈夫よ、クルトは天才だから。」


「いつもそう言ってセレナ様はクルト様を甘やかすじゃないですか。何ですかその言葉は魔法の言葉なんですか?」


「事実よ。それより、留守中に何かなかった?」


「ありませんよ、いつも通りです。」


「そう、それならいいの。それじゃ、私はクルトに本を読んであげなくちゃいけないから。」


「はあ...」



 毎日、このようなやり取りがされる。

 ナナも苦労してるだろうな。

 まあ、今は本を読まなければいけないから我慢してくれ。







 俺はママンの膝の上に、ちょこんと座った。

 ママンは俺が文字を読めないと思っているようだが、俺は読める。

 何故か分からないが理解できるのだ。

 見たこともない文字なのにだ。

 不思議である。


 しかし、書くことはできない。

 『薔薇ばら』という字を読めるけど、書けないみたいな感じである。

 なので、文字を覚えている最中である。

 やはり、新しい言語を覚えるのは難しい。

 現地に行って生活すれば簡単に覚えられると言うが、俺の場合は特殊だ。

 耳から聞こえて来るのは日本語なのに、書かれていることは古代文字のような字なのだ。


 結局、自分で変換していかなくてはならないので、日本で英語を覚えるのと何ら変わりないのだ。

 頭の中に英和辞書があるような状態である。

 そう考えれば、英語を学ぶより楽かもしれないとポジティブに考えている。

 それでも難しいのだが...


 とにかく、俺は本が読める。

 本来なら一人で読んでいたいのだが、ママンが楽しそうなのでそのままにしている。

 大金を出して買ってもらった手前、これ以上のわがままは人間としてどうかと思ったからである。

 ママンが楽しい、魔法と文字の勉強もできるので一石三鳥である。

 しかも、その間も魔力量増加の修行も怠らない。

 最近は修行しながら他のことができるようになった。

 そう簡単に気絶はしなくなったので他のことに意識を割く余裕が出来たのだ。



「クルト、どれから読みたい?」



 うーん、迷うな。

 どれも面白そうなんだよな。

 でも最初は『魔法の使い方講座~これであなたも宮廷魔術師~』かな。

 基本の魔法の使い方が分からないとどうにもならなそうだし。


 俺はママンに指で示した。



「これ?クルトは宮廷魔術師になりたいのかしら?ダメよ、あなたは決まった枠に収まるような人じゃないの。もっと上を目指しなさい。そうね、例えば世界を手に入れるとかね。」



 重いよ!?

 自分の子供にどれだけ可能性を感じてるのさ!

 そんな大口叩いて恥ずかしくないのかね?

 もし俺が引きこもりになったら、ママンは外を歩けなくなるよ?

 「お宅の息子さんは世界を手に入れたんですか?自宅ではなくて(笑)」なんて言われちゃうよ?

 まあ、なるつもりはないが...



「分かったらお返事は?」


「あい!」


「あぁ~可愛い!目に入れて飾りたいくらいだわ。」



 誰かこの親バカを止めて下さい。

 このままだと「クルトはお母さんと結婚するのよね?」なんて話になりそうである。



「クルトはお母さんと結婚するのよね?お母さん以外は認めないわよ。」



 なっちゃったよ。

 グレードアップしちゃったよ。

 父親から妻を奪う息子ってどんなNTRだよ。

 吐き気がするわ!



「きらい!」


「えっ...」



 ママンは石像のようにピシッと固まった。



「い、いいいま、なななななんていいいい言ったの、クルト?」



 動揺し過ぎじゃね?

 しかし、俺は心を鬼にする。



「きらい!」


「ぐはっ。」



 ママンは崩れた。

 ガラガラと音を立てて。

 これで反省をしてくれるといいんだが。



「クルトに嫌われた、クルトに嫌われた、クルトに嫌われた、クルトに嫌われた...」



 怖いよ!

 虚ろな目で俺の名前を呟かないで!

 どんだけショック受けてんだよ。



「クルトに嫌われた、もう生きてても意味ないわ、そうだクルトと一緒に...」



 やばいやばい!

 心中する気だよこの人。

 しかも俺を道連れに。

 止めなければ。

 そうだ、大好きなハンスを残しては死ねないだろう。



「はんす!」


「そうね、ハンスも一緒に三人で...」



 ダメだったー!

 道連れの人数が増えただけだったよ。

 どうすればいい?

 考えろ、俺。

 とりあえずママンの不安を取り除こう。



「まま、だいすき!」



 これでどうだ?



「そそそそそんなママ大好きだなんて、お母さんは幸せ過ぎて死んじゃうわ。いや、この幸福感に包まれたまま死にたい。」



 効果は抜群だ!

 ていうか効き過ぎじゃね?

 さっきとは打って変わって、溶けるんじゃないかというほどに表情を崩してる。

 どんだけ俺のこと好きなんだよ。


 母のコントロールは難しいと思う俺であった。





 


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