首都シェラザード
今回長編のプロローグみたいなものです。
4月12日修正済み
冒険者登録をして数日が過ぎた頃、夕飯を食べながら女将さんと話をしていた。
「つい、心地よかったので馴染んでましたが、そろそろ出発しようかとおもいます」
「そうかい。さみしくなるけど、いつでも戻ってきなよ。どっちにしろ森の迷宮に入る時が来るかもしれないし遠慮なくおいで」
「はい。その時は遠慮なくお邪魔しますね。あとユーミルのあとに続く町はどういう所なんです?」
「道なりでいえば、ユーミルの次の街は地上界の首都『シェラザード』だよ。首都を起点に色んな町があるから、首都には必ずお世話になるはずだよ」
少し考えるように女将の表情が変わる。
「メルちゃん、前の世界ではなかったと思うから聞くんだけど、奴隷ってどういうものだと思ってる?」
「奴隷ですか? 前の世界でも古い時代にはいましたけど、その認識からでよければ、いい様に使える道具のような存在です」
「あぁ、やっぱりどこいってもそうだよね。けどね、地上界の首都のみなんだけど、奴隷も人権があるのよ。正確には奴隷区で働いて100旧貨集めて納金したら一般人に戻れるってことだけどね」
「そうなんですか?」
「初代勇者が王様と約束したのよ。それをキッカケに首都では王城、城下町とは別に奴隷区という町があるの。奴隷区の領主も王様と共同となって管理してるからよく会合するのよ」
「珍しい⋯⋯というか素晴らしい発想ですけど、そのシステムで不具合はおきないんですか?」
「それがねぇ⋯⋯、最近は首都の周りでも奴隷達の出入りが激しいのよ。そのせいか、やっぱり中には盗みをする者もいたりとか不正な事をしてるんじゃないかと噂が大きくなりはじめてるのよ」
「王様と領主は共同でっていいましたよね? いくらか誤魔化せるとは思いますが、たぶん領主以外に、別のグループが生まれてるんじゃないかな?」
「管理体制はしっかりしてるからねぇ。あくまで噂だからなんともいえないんだしね。ただひったくりなどには気をつけておくれよ」
「そうですね、頭に入れておきます。では今日はもう寝ます。おやすみなさい、女将さん」
部屋に戻ると誓書を開き、いつも通り調整や手に入れたものなどの確認をする。
(エコーおきてる?)
【なーに?】
(この間の話で出てきた特殊ジョブなんだけど、そういうの増えてるって事は、元の世界に似た街もあるのかな?」
【ないとは言い切れないけど、今の村や町を見る限りではないだろうね】
(漫画家と聞いた時にふとおもったのよね。前の世界で知っている漫画をこの世界で描いたりしたらそれだけでお金持ちになったりするんだし、やる人もいるのかなと)
【あ〜、この誓書の中にもある漫画とかの事ね。まぁそれはないんじゃないかな? 完成した作品を他の人がそのまま描いても同じ世界観にはならないと思うよ。それ以前に紙などは貴重品だからね。描いたとしても印刷もできないし、普及すらままならないと思う】
(それもそうなんだけど、ジョブの説明などで使われた漫画があるということは、それから追求していくじゃない?」
【そこは正解だね。ただ地上では圧倒的に技術LVが追いついてないからないよ。まだ調べきれてないけど、地下の世界は技術の国だから地下世界に行けば何か分かるかもしれないね】
(地下世界か、その情報も首都までいけば手に入るかな? エコーはその情報どうやって手に入れてるの?)
【ギルド内の書物や冒険者の頭からちょっとずつだよ。ただ、メルがキチンと見ないと書に記されてないから、いまの話はウチの憶測だよ」
(なるほど、情報提供ありがとね)
【お・おう、気にすんなよ。⋯改められると照れるから、もう寝る。おやすみ】
(おやすみなさい)
ーーユーミルの町ギルド内部ーー
首都の話を聞くとやはり女将さんと同じぐらいの情報で、付け加えるとしたら王様と領主が会合の時は、必ず姫様と領主の娘も仲良く話しているとの事。
首都までいく事を知ると、ギルド長が馬車を用意してくれた。
断ろうとしたけど、ちっこい犬もいるんだから負担かけさしてはいけないとの事。
馬車を引いてくれる人が、「おれが!」「おれが!」と名乗り出てくれた人が、とても多くて最終的にジャンケンが行われ、更にというかやっぱり全員が筋肉関係であった。
「よろしくお願いします」
「勿体なきお言葉、貴女でしたら馬がいなくて背負っていきますゆえ⋯⋯何卒⋯」
アホみたいな事をいうので無視しておいたが、道中の馬車は驚く程に安定して走っている。
「こう見えても騎乗スキルのLVは高いですよ。だからお嬢様、私が馬になる事も可能ですよ」
ははは と、爽やかにスマイルしてくる。
ゴミを見るように見つめても、変な感じに悦んでるし、最初の頃のエコーみたいに駄目らしい。
【一緒にすな。私のほうがプリティーだよ!】
(1番プリティーなのはフェリル君だよねぇ)
雑談しながら街へと進んで行く。
首都の近くまでいくと、沢山の田んぼや畑が見える。
「お嬢様、ここらへんからはもう奴隷区ですよ。働いてる人が殆ど奴隷ですね」
奴隷っていうよりかは、昔の農民みたいな感じだし、パッと見る限り肌を悪くはないし、イキイキしているように見える。
街に入ると賑わっていた。
そのまま馬車でギルド前まで移動してもらいそこでお礼をいって別れる。
ーーギルド内部ーー
冒険者は新しい都市にいくとギルドにいく規則があった。
認識票を渡すと、ギルドで情報が共有し、都市での行動に冒険者の優遇などが通るようになる。
「あんたがメルディスさんか。ここでギルド長をしているラグニスだ。話は弟から聞いてるよ」
「⋯⋯はじめまして。ソックリなんですけど同一人物ではないですよね?」
「違う違う。双子だけど正確は全然違う。弟は筋肉を溺愛してるが、私は強者が好きなだけだ!」
【同類やな】
(だよね)
「弟からなかなかの強者と聞いているから、是非今度の王国の武闘大会にでないか?」
「お断りします」
「まぁ、まて。メリットも多いぞ。実力さえ認められたら騎士の称号も頂ける」
「冒険者なのに騎士ってなれるんですか? 冒険するのに王国を守る時間ないとおもうんですが?」
「騎士ってのは称号だよ。だから冒険者でもなれる。王国騎士のジョブなどはその見解で正しい。騎士になるとある程度、国と繋がりが持てる。なので王国が調査している遺跡などにも入る事も可能だし、行いに対しての報酬も多めに入るからあって損なものではないぞ」
「なるほど、少し考えておきます」
「あぁ、是非そうしてくれ。それと宿屋とかまだだろう? 弟が用意しておいてくれと言ってたから用意しておいたぞ」
「⋯⋯それは⋯ありがたいのですが、お金の方などは?」
「それも済んでる。というか、あんな弟初めて見たぞ」
まるで主人を得た執事みたいだと言った。
「バカな事していたので、説教しただけなんですが⋯⋯使わないと勿体なさそうですしありがたく使わしてもらいますね」
「あぁ、これが宿屋までの地図だ。必要な事があればギルドに聞いてくれればいいから遠慮するなよ?」
「はい、なにからなにまでありがとうございます」
「今度、説教したという話聞かせてくれ」
そう言われて、ギルドを後にする。
そのまま人通りがおおい大通りにでる。
いい匂いのするお肉の露店でフェリル君がハフハフっと尻尾を振り始めた。
「喰べたいの?」
ハフハフという返事をする。
フェリル君自体はもう喰べている気分なのかもしれない。
「味付けはしなくていいのでそのままで頂けますか?」
「あいよ!」
少し多めにお肉をサービスしてくれたので、お礼をいって宿屋に向かう。
「にしても、人がおおいね」
【騎士の称号がもらえる大会の募集があるから観戦やら賭け事やら出場者などで賑わってるんかもね】
「そっか。とりあえず宿屋にさっさと行きたいね」
【んだねぇ】
その時、丁度大柄な男性にぶつかってしまい、体勢を崩す。
「すみませっ⋯」
そう言おうとしたら、すぐさま少年がドンっとぶつかり、メルディスのお肉の袋と白い狼を手に取り人混みの中に姿を消して行った。
「あ、ちょっとまっ⋯⋯」
時すでに遅し。
大柄な人はグルではなく、この瞬間をずっと待っていた犯行だった。
「どうしようか⋯⋯フェリル君が攫われちゃったよ⋯」
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はぁはぁはぁ⋯⋯。
やった! 今回も成功した。
路地の裏道を通り、必死に後についてこれないように複雑な道を通り帰路につく。
袋の中には大量の肉が入っている。
「これで、今日の俺たちのご飯は確保できたな」
袋を持つ手とは逆の方には白い獣を持っている。
「犬⋯だよな? まぁ、こんなに綺麗ならたぶん高く売れるはず」
あの女の人には悪い事をした。
盗んだときの驚いた後に「ちょっとまっ⋯」までは聞こえたけどそれからは無我夢中で逃げた為、見てはないけど多分とても怒っているか悲しんでいるんだろう。
それでも、2人のチビ達の食料と奴隷身分から解放される為にお金が必要なんだ。
僕たちを奴隷区の縛りから解放してくれたのが奴隷区領主の娘エルバだ。
奴隷区領主アンドロスの娘エルバ。
領主アンドロスは王との共同作業でまとめ役を担って信頼も厚い。
本人は話した事はないが奴隷に不必要な躾けをした時、怒っているところを目撃しているので不正はしてないと思う。
でもその領主の娘エルバは違っていた。
その立ち位置を利用して好き勝手している。
縛りから解放も表向きであり、正確には俺たちが集めた物品(盗品)を安く買取っている。
働いて100万旧貨を時間かけて集めるより、リスクを含めても盗品の方が集まるのも早いのが事実だからそれに従うのも多い。
悪い事をしていると分かっている。
俺は地獄に落ちても構わない。
それでも一緒に解放されたチビ2人が幸せに生きるように俺が支えるしかない。
自分にそう言い聞かせ、今日も俺は帰路に着いた。
少し長い話をかいてみたかったので次から少し続きます。