夕日ダイブ その2
「これは⋯どうしたらいいんですかね⋯?」
ひとまず出産騒動で家が忙しい為、宿屋の一室を借りた。
「どうしたらいいとは? もう決めてきたんでしょ?」
「でも! あんな幸せそうな姉ちゃんをみると⋯」
「じゃあ、連れて帰るのをやめて最後まで見届ける?」
「できるんですか?」
「できるよ。正直、あと数日で終了するからね」
「⋯え? そんなに早いんですか!」
メルディスの左眼が紅く染まる。
「危険が高いといったよね。誓書を普通に使えるとでも? 2人分に意識を共有してるのよ。脳の加速度も一気に増幅してるの」
「それは⋯」
「で、どうする今すぐ意識を切ろうか? そうすれば現実では、数週間は生きれるかもしれないよ」
「⋯⋯ッ!」
(答えなんて出せるはずがないじゃないか!!)
(いくら考えても答えが見つからない、姉ちゃんの幸せを見届けて別れるのか、それともこの幸せを⋯あれ?)
「メルディスさん⋯聞いてもいいですか?」
「うん? どうしたの?」
「もしかして⋯もし姉ちゃんを連れて帰る選択肢をしたなら⋯い⋯今のこの状況を、こ⋯壊すとかじゃないですよね?」
「あぁ、一応正解には辿りついていたのね。壊すじゃないよ。徹底的に蹂躙するの」
「蹂躙って⋯そんなこと⋯」
いつもと同じく大げさに言ってるだけと信じるが、ため息をついたメルディスの口が更にひらく。
「何言ってるの? 見敵必殺だよ。今回ばかりは、私達は完全悪に染まるしかない。この村を壊滅するように仕向けて夕日をあの遺跡に行かせるしかない」
「そんな⋯、そんなの⋯どっちにしろ地獄じゃないか⋯」
「そうだよ。ただ現実では死んでもこの世界では夕日さんと私達以外は死なない。私達3人は精神が死ぬだけだから現実で目を覚ます事はないだろうけどね」
「⋯⋯」
「勘違いしないでね。逃げ道を探して逃げてもその先は後悔という地獄しかないのよ。そしてこれは夢なの。いくら理想の夢を見ても夢は夢、夢はいずれ覚めるべきものだよ」
「わかりました⋯。でも、少しだけ時間を下さい⋯」
「えぇ、いいよ。明日いっぱいは好きに動いていいよ」
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村に来た時、静かだったのは村のみんなが料理に没頭していたからだと夜に分かった。
大量の料理が村の広場に広げられ、全員が夕日姉ちゃんとウェインさんと赤ちゃんを祝っていた。
とても嬉しそうな夕日姉ちゃんを見るたびに心が痛む。
「大地もこっちにおいで」
夕日が気づいたのか大地に声をかける。
「そうだそうだ。久々に帰って来たからって遠慮すんな!」
「家族が増えたからって戸惑う必要ないよ。あんたも夕日の家族なんだから!」
村人に押されるように前に出される。
「ね⋯姉ちゃん」
「ん〜? ほら、大地も抱っこしてごらん」
そういって赤ちゃんをゆっくりと渡される。
「暖かい⋯」
「当たり前でしょ。一生懸命生きているんだから⋯って、泣いているの?」
「え? あぁ⋯」
自然と涙が出ていた。
これから起こる事を考えてなのか、この赤ちゃんの温もりが偽物と思えなかったのかは分からなかったが⋯。
「次は大地の番でしょ?」
「え?」
「だって、あんな可愛い子連れて帰ってきたんだし。どこで捕まえたのよ」
恐る恐る後ろに振り向く。
「初めまして、大地君とお付き合いさせていただいていますメルディスと申します」
深々とお辞儀をする。
「あらぁ〜! 本当なの!」
村人達が話に喰いつくと大地を引っ張っていき、酒の肴にして盛り上がる。
「初めて来ましたけど、いい村ですね」
「そうでしょう! 自慢の村よ」
「大地君から聞いたんですが、ココに勇者の遺跡があるんですか?」
「うん? 遺跡? ん〜、どうなのかしら? ウェインは知ってる?」
「遺跡かどうかは知らないけど、確か森を入って少ししたら洞穴があった気がするけど?」
「ごめんね。私達ではわからないみたい」
「いえ、ありがとうございます」
「そんな事より、メルディスさんも大地と一緒にここで暮らしましょうよ。家族が増える事はとてもいい事だし楽しいと思うの!」
「それもいいかもしれませんが、私にはやるべき事があるので、いずれという事でお願いします」
「ちぇ〜、女の子なんて油断してたらすぐにおばちゃんになるんだからね」
「えぇ、だから私は今を楽しんでいますよ」
遠巻きに気にしていた大地は、メルディスと夕日が楽しそうに喋り、赤ちゃんを抱っこしてた事に安堵した。
次の日の朝、大地が目を覚ますとメルディスの姿はなく、書置きだけが残されている。
「今日一日しっかりと家族と楽しみなさいっか⋯やっぱり別の方法を考えようと動いてくれてるのかな」
昨日の赤ちゃんを抱っこした温もりなどは、メルディスも味わっている為、考えを変えてくれるのではと期待を持つ。
その後は家族と一緒に過ごし、その日一日はあっという間に過ぎていく。
「今日は俺もココで寝ていい?」
日付が変わろうとしていた頃、甘えたいのもあるのだろう⋯つい発言してしまった。
「大地の家だからいいも悪いもないけど、メルディスさんはいいの?」
「あぁ、大丈夫だよ。そんな事で怒る人じゃないから」
「女性心わかってないなぁ。よくそんな考えで捕まえれたよね」
「別にいいだろ? あの人と俺はそういう関係でいいんだよ」
「はいはい、でも一回宿屋に帰って見て来たら? メルディスさんもいたらここに連れてきて一緒に寝たらいいよ」
「分かったよ。一回見てくる」
家を出ると、日付が変わる時間帯であり村は人気がなく、ただ静かに虫の鳴き声だけがなり響いてた。
「メルディスさんどこまでいったんだろう?」
(一回この意識の世界から出た? 出れないと言われても、あの人は出れる気がする⋯)
考えながらも宿屋に入り、自分の泊まっていた部屋に入るが誰もいない。
「にゃぁ〜」
ふと猫の声が聞こえたと思ったら、ベットの下から黒い猫が出てくる。
「迷ってきたのかな?」
そのまま猫を持ち上げて、外に出そうとすると猫は黒い液体となりバシャリと腕にかかりながら落ちる。
「い⋯今のは⋯」
腕にかかった黒い液体は拭いても消えることはなく、逆にどんどん範囲が拡がっていく。
「まさか⋯! これが⋯」
ふと時間を見ると、日付は変わっていた。
地面に落ちた黒い液体は勢いよく燃え上がる。
村のあちこちにで発火が起こり、異変に気づいた村人達が慌ただしく消化活動をしようとするが、黒い人影に刺され倒れる。
「あ⋯あぁ⋯」
1人や2人どころではない、数十人の黒い人影が次々と村人を殺していく。
「あら? まだ、こんなところにいたの」
振り返ると、そこにはメルディスがいた。
影と同化しているのか、否⋯黒猫と同化しているかのように黒い猫耳と尻尾をはやし猫人のようになっている。
「メ⋯メルディスさん、ま⋯」
音もなく人差し指で口を塞がれる。
「家族はいいの? こんなところで時間潰して」
その間も火は拡大していき、逃げ惑う人達はどんどん倒れていく。
メルディスを勢いよくどけ、家族の元に走りだす。
自分のするべき事に戸惑いながら、選択に葛藤しながら一心不乱に走った。
「さてと、役者も走りはじめた事だし地獄を始めましょうか」
倒された村人が次々と起き上がり、人影と共に村人を襲いはじめたのであった。
今まで1話で終わらしていこうと思ってたのを、最近無くしてます。
1話で終わらすのと5000-7000字でまとめていたので⋯どっちがいいのか検証中です。
ソウルオブナイトの方はそのうち大幅に書き直すのでいまはご了承ください。




