夕日ダイブ その1
夢を見る。
暗い遺跡の通路でキャンプをしている私のパーティ。
目の前には2つの扉。
深夜ふと目を覚ますとだれもいない。
ただ⋯何かを引きずった跡が左の扉へと続いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の罪はとても重い。
操られていたと言い訳はできるし、村の仲間からは⋯
「夕日ちゃんも操られていたんだろう?」
「しょうがないよ」
「亡くなった人達は残念だけど⋯」
「全て悪いのはあの植物の化け物せいだったんだ」
「幸い冒険者達が多かったんだし、事故で死んでも仕方ないじゃないかな」
などと言われて、同情してくれるのだと分かってしまう。
だけど⋯! 私の⋯意識は確かにあったのだ。
恋人の変わり果てた姿を介護するかのように、一緒にいる時間を少しでも感じる為に、私は進んで贄を運んでいたのだ。
それを止めた⋯あの子は正しい事をしたんだろう。
だけど、解放された事による罪悪感という重しに私は耐えきれない⋯。
あぁ⋯私もあの時一緒に死んでいればよかった。
あぁ⋯あの時⋯あの遺跡に行かなければよかった。
あぁ⋯元々冒険者になんかなるんじゃなかった⋯。
未だ目を覚ます事がない大地の姉ーー 夕日は⋯深く⋯深く⋯意識は深淵に沈んでいく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの怪物騒動から1ヶ月たっても、夕日は目を覚ますことはなかった。
冒険者だった頃の筋肉は、もうすっかりとなくなり、ボーイッシュだった髪もすっかり伸びていた。
「生きてるけど、死んでるね」
夕日の身体を隅々まで調べた上で、メルディスは率直に言う。
「死んでるってどう言うことなんですか!! 目を覚ますっていったじゃないですか!」
大地が喰いかかるようにメルディスに問い詰めるがミキとヒタリによって抑えられる。
「とりあえず落ち着いたら? 喚いても何も変わらないし」
少し言う順番を考える。
「死んでるっていうのは、精神の事ね。要するに心。体はとっくに目覚めてるわ。目覚める事を拒否しているのが正解ね」
「村のみんなも目覚めるのを待ってるんですよ! 村には被害はでていないのに⋯」
「村以外の人なら誰でも死んでいいと?」
「それは⋯!」
「拒んでるって言うことは、人を殺しすぎた実感があるんでしょ。操られていたのは建前、もしかすると何かの為にあの遺跡に自分から率先して生贄を運んでいたのかもね」
メルディスだけは、遺跡で戦ったソウルイーターがどういうものかを理解していた。
「⋯⋯っ!」
正論を言われ反論もできず、ただ悲哀の表情で顔を歪める。
「ただ、まぁ精神は死んでるって言ったけど⋯脳はフル稼働して元気に動いているわ」
「それって⋯」
「現実から見れば心が死んでいるーーもしくは離れているように見えるけど、夕日に関して言える事はとっくに目覚めているのかもしれないわね」
「?? それってどう言う意味なんですか?」
「夢の中で目覚めてるってことだよ。こっちの肉体が死ぬまでは夢の中で幸せな夢か、もしくは悲劇を繰り返した悪夢をループしているんでしょう」
「それは目覚めさす事はできるんでしょうか⋯」
「一般的には本人の問題だからできない」
「そんな⋯」
「ただ、黒の誓書なら出来る」
周りがパァっと表情が明るくなる。
「だけど、危険が非常に高い。夢から覚ましたとしても記憶の欠損、もしくは記憶喪失、幼児退行か廃人になる可能性もある」
「⋯⋯」
「このまま夢をみせたまま死なせてあげるか。リスクを負ってまで彼女の精神に希望をもち目覚めさせるかは家族で決めなさい」
「ちなみに成功率は⋯?」
「幸せな夢を見ているなら低い。悪い夢でもよくて半々程度ね」
「⋯⋯そんな⋯」
「どちらにせよ明日の朝に行動するつもりだったし、その時に返事をお願いね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、宿屋にていつも通り黒の誓書を読みはじめる。
「誓書か⋯私以外で使うのは初めてだなぁ⋯」
「危険⋯なのですか? メル様が使っているシーンは少ないとはいえ危険とは思えませんが」
身の回りの整理をしながらミキが聞いてくる。
「危険⋯は、違うのかも。ただ、私以外に使う事自体がパンドラの箱なのよ。一握りの希望があるが絶望が多い。99%の絶望の中に1%の希望まではいわないけどね」
「メル様は大丈夫なのですか?」
「私はどうだろうねぇ。私自身が黒の誓書の一部なのかもしくは本体なのかもしれないからねぇ。まぁ、本体でいえば黒龍の力だろうから一部が正解だろうけど」
あっさりと告白する。
「⋯どちらにせよ私達は一生、どこまでもお供いたしますので」
スッとコーヒーを差し出す。
「あはは、冗談だよ。まぁ、全てはこの物語が終わる頃に分かるんじゃないかな」
コーヒーをすすると一息して再び誓書を読みはじめた。
(メル様にとっては⋯自分の事すら物語と認識していらっしゃるのですね)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の朝、夕日の部屋にすでに集まっていた大地達は既に決心を固めていた。
「姉ちゃんを助けてください」
ただ一言だけそう言い放ち、他に言葉はいらなかった。
「そう⋯わかりました」
メルディスもまた一言だけ返す。
黒の誓書を机に置くと瞬く間に黒く染まり短剣が三本生えてくる。
「はい、大地君に一本」
そう言って黒い短剣を渡す。
「これは⋯一体⋯」
大地は嫌な悪寒ーーむしろ聞かなくても、メルディスが持っていた短剣を寝ている夕日に突き刺した事で理解する。
「お姉さん迎えにいくんでしょ? わたしだけより大地君がいたほうが確率が少しでも上がるわ」
持つ手が震えていた。
(自分で自分を刺すの?! 無理でしょ!)
「ん? 自分で自分を刺すの厳しい? なら痛みをないように私がしようか?」
「は・はい! お願いしま⋯⋯」
最後までいう事もなく、頭にはメルディスが持っていた短剣が一瞬で投げられており頭から生えていた。
(はや⋯すぎ⋯)
つっこむ間も無く力無く倒れ、身体の感覚が徐々に薄れていくなか、大地が持っていた短剣を拾い上げ、自分の胸に刺していた。
【黒の誓書 人の章】
桐龍院 夕日 (♀)
年齢24才
LV36
その後も夕日のプロフィールが黒の誓書に書き込まれていく。
【解析完了】
【3名の同期を実行開始】
真っ暗な空間を落ちていく感覚だけがある。
「ってか、これどこまで落ちていくのー!」
結構なスピードを感じるが終わりが見えない地面が更に恐怖を増す。
「落ち着いついたら?」
「あぁ、良かった! これどこまでって! なんていう格好してるんですか!」
一緒に落ちていくメルディスの姿は一糸もまとわない姿である。
「なんていう格好っていうか、お互い様なんだけどね」
そういって自分の姿もそうなっている事に気づく。
「あれ、俺の息子がない! そういえば⋯」
目の前の女性も胸も下も大事な部分がなく只の肌色だけである。
「しょうもない事言わないでほしいんだけど⋯いまは夕日さんの深層に入ってる途中だよ」
よく見ると画面のようなものが、足元から真上に向かって流れていた事に気づく。
「どういう認識になるかはわからないけど⋯最初、どういう状況か様子を見るから、真相を話さないでね。話した場合のデメリットは速攻で意識外に飛ばされる。その場合は、もうお手上げになるから気をつけてね」
足下が真っ白に輝き、その眩しさに目を閉じそのまま光に飲み込まれる。
次、目を開けた時には森の中にいた。
「ここは⋯僕の村の近くだ」
「うん。根本はやはりココだろうからね」
森の中を歩いていくと、現実とは違い装置が解除されておらず、自分の知っている道順が通用する。
「なるほどね。あれだけの投影機で完全に迷いの森にしてたのね。私達の世界じゃミラーハウスの方が合ってるかな」
懐かしい気持ちで雑談をしながら歩いていくと村の入り口に着く。
「さて、悪夢か瑞夢どちらが出るのかな」
そういって村の中に一歩進むと、家から煙などは出ているが外には誰も出ておらずシーン静まり返っている。
「静かですね⋯」
「そうだね。ただ人の気配もあるし⋯、とりあえず自分の家に帰ってみる?」
「はい。ひとまず帰ってみましょう」
大地の家に向かうと、慌ただしく動く白い服を着た人影を確認する。
「服装からみると医者かな?」
メルディスが歩くに対して大地は足を止めた。
「どうしたの? あの人知ってるの?」
「昔、怪我をするとお世話になった婆ちゃんです⋯」
「で、なんで青ざめてるの?」
「僕が村を出る少し前に亡くなってます⋯」
「そう⋯なら、コレも含めてなのね」
家の中から赤ちゃんの鳴き声がすると、大地が決心したように家に向かって走る。
家の中に夕日がいた。
周りが見守る中、額に汗を滲ませ、息を整えつつ、布団の中で自分の赤ちゃんを目に涙を浮かばせながら愛しそうに抱きしめていた。
「ね⋯姉ちゃん」
夕日が大地に気づく。
「遅い。やっと帰ってきた。これでやっと家族が揃ったのね」
優しく微笑むと、
「大地も祝福してくれる? 私達の赤ちゃんを⋯」
「あ⋯あぁ⋯」
この瞬間に瑞夢ルートである事が確定し、婚約者との結婚、さらには子も授かり順風満帆、とても幸せそうな姉を立ちつくし眺める事しかできなかったのである。
瑞夢:悪夢の反対語。
夕日ちゃんの人物像はボーイッシュに決定しました(´・ω・`;)
こうやってちょっとずつ人物像もまとめていきたいと思いますorz




