黒の誓書
「ど⋯⋯うして⋯⋯?」
「あ? お前が甘々だからに決まってんだろうが、少なくとも分かってただろ。もう選択肢なんてないんだと」
「それでも⋯⋯どうにか⋯⋯」
頭突きをされる。
「それは葛藤してるだけだ。いつものお前なら無理と100%判断する。あと、本当は分かっていたんだろ? 迎えにいけない理由。記憶の統合により俺と白華は何かを知ったと」
「それは⋯⋯」
図星だった。
前の世界では、どんな事があっても一緒だった。
だからこっちに来た時の違和感もあった⋯⋯元々、私はこちら側の人間だったと、クロノ君も白華も何か使命みたいなのがあったのではないんだろうかと。
「まぁ、実際はその通りだけどな」
「やめてくれないかな⋯⋯乙女の心を読むなんて」
「どんだけ一緒だったとおもってんだ? 読んでもねぇし分かるだけだ。まぁ⋯⋯」
頭に手を置く。
「悪りぃな。お前の家族愛だけは計算に入れきれなかった」
涙を流しながら抱きついた。
「うわぁぁぁぁん! いまひゃら、そんなことひうな!!」
分かってはいた。
育てるだけなら多分、冷酷に完全に戦闘マシーンに仕立てあげることも可能であったが、この2人はそれをせず、しっかりと家族愛というものを教えてくれてた事を。
「⋯⋯⋯⋯」
今だけは、何も言わずに抱きしめていてくれた⋯⋯本来なら絶対にしない事をしてくれている事が、この先の顛末を物語っている事がとても⋯⋯とても悲しくて、涙が止まらなかった。
「さて⋯⋯もういいか?」
「いひゃ! まだこうしてる⋯⋯」
「はぁ⋯⋯まさかここまで甘えてくるなんてな⋯⋯まぁ、もう分かってるんだな」
体がビクンと反応する。
「⋯⋯しらにゃい」
その先は聞かんとばかりにハグ強める。
「まぁ知っての通りだが、俺はもうここまでだ。最初は最悪でも黒の誓書使えば魂の保存ぐらいはできると思ってたんだろ? それすらも不可能であり、これ以上もこれ以下もなくどうにもできない」
「⋯⋯」
「まぁ、俺はただの意識でなくただの力の片鱗だった訳だ。あいつの黒の片鱗がお前を介して空白の書になった。そして誓書だったものに保存という概念は存在しない」
「⋯⋯⋯⋯」
話が進むという事は、この時間も終わりがくるという事。
先に進めるって事は、もう残された時間はないのかもしれない。
「白華の方は⋯⋯まぁ大丈夫だろう。ここで話せば楽になるかもしれないが、お前には自分でやっていくしかないからあえて説明はしないが⋯⋯まぁ、本体の方もあまり嫌いにならないでやってくれ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯それは無理」
そういって、クロノ君の顔を見ると、とても寂しそうな顔をしている。
「⋯⋯⋯⋯努力はする」
それも核心部分なんだろう。
もしかすると目的の為に魔王という立場も利用してるだけなのかもしれない。
「あぁ、最後に言っておくがごっこと言ったのはすまなかったな。少なくとも白華と俺はお前と一緒に過ごした事は誇りに思ってるし、娘のように思ってたさ」
「そんなこと⋯⋯言われなくても分かってる」
「そうか⋯⋯どちらにせよ、お前が選んだ選択肢で全てが終わろうが、おれは常に枝葉と一緒にいる」
こくんと頷く。
「だから⋯⋯もう泣くな。かわいい顔が台無しだ」
そういって止まらない涙を拭ってくれていた。
「これで最後、餞別ではないがアレが渡してくれたものをお前にやるよ」
そういって強く抱きしめてくれたから、私も全力で強く返す。
最後にじゃあなーーそう言われて夢が終わる。
真っ暗な世界はヒビが入り、白い世界に入る。
【そっちの話は終わったんじゃな】
「うん。エコーにも迷惑かけちゃったね」
【そうじゃな、でもそんな事は気にする事はないんじゃよ】
「うん」
【それよりも、全てと引き換えに〜の返事がNOっていったのはビックリしたよ。普通そこってYESでしょ?】
「選択肢間違えちゃったかな?」
【はん!! な訳ないじゃろ! 100点満点な答えじゃよ】
「そう⋯⋯なら良かった」
【夢のつづきならこの物語が終わったらしたらいい】
「できるの?」
【出来ないのかい? 君の世界はそんな小さい訳ないじゃろ? 反物質を組み込む事もするし、そもそも出来ない事を可能にするのが人間じゃろ?】
「ふふ、そうね。でも、私は龍人らしいよ?」
【それはさっきまでじゃろう? 片鱗が混ざった身体だったからな】
「なら、今は⋯⋯」
【正真正銘、純度100%の女体じゃな】
「そこはただの人でいいんじゃない?」
【いや、人の域は超えてるから、ただの人ではないし。だから私からもこの力をあげる】
「ちなみにエコーは消えないのよね?」
【当たり前じゃろうが! この最恐のヒロインを消すなんてありえぬ!!】
「そっか。安心した」
【なら、さっさといってケリをつけてきな!】
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「書に飲まれたのか⋯⋯」
再び龍人の姿になり、横たわり黒く染まったメルディスの前にいた。
「なら、せめてもの情けだ。苦しまずに殺しといてやるよ」
そういって黒剣を心臓に突き立てる。
が、見えない壁に弾かれ、足に斬り傷が入ると一旦間合いを取る。
黒く染まった身体はヒビが入り割れる。
「夢おわっちゃったな⋯⋯」
そういって生まれたままの姿になっていたメルディスは起き上がる。
「随分いい格好じゃないか」
「うん? あぁ本当だ。黒の誓書解放」
先程まで身体にくっついていた黒いモノが再び集まり1つになり書の形になる。
【天衣装備完了しました】
「エコーは?」
【現在、処理に追われています】
「そう」
「随分スッキリしたじゃないか」
「えぇ、お陰様で」
「第3ラウンドはいけそうか?」
「大丈夫ですよ」
「変わったか?」
「えぇ」
「で、それがお前の見えない壁の正体かい?」
「え? あぁ、小さい私が使ったって言ってたわね。多分違うんじゃない?」
左手で書を持ち、右手で見えざる壁に触れそのまま掴む。
「壁というより剣ね」
壁は7本の透明な剣へかわりメルディスの周りに刺さる。
掴んだ一本を手前に刺し、手を添える。
【黒の誓書 白夜の説】
かつて ここかしこに 暗き闇ども座せり。
ある者闇恐れ ある者闇により他者喰らう。
闇を打ち払えた者 それ白夜の輝きとせん。
透明な剣は真っ白な剣に色づく。
間合いを詰める事もなく、その白夜の剣を逆袈裟斬りに振るうと白き閃光がチェルノの斬り裂く。
「⋯⋯ってぇ⋯⋯白夜の鍵剣、そういう風に使うのかよ⋯⋯」
「やっぱり⋯⋯知ってるんですね。この白夜の剣は⋯⋯本来、光の屈折を利用して刀身を悟らせない事と刀身の質量に応じての長さが変わることを、そしてこの剣の持ち主がリフィ・アンサラーという事も」
コレがエコーから貰った力であり、あの絵本の主人公リフィの愛用剣であった。
「⋯⋯⋯⋯」
「あなたの黒剣もまた、この夜の称号を持つ剣の1つだったんですよね」
白夜の剣を放し、新たに透明な剣を手に取る。
【黒の誓書 闇夜の説】
光強く輝く時、闇 更に深淵へと至る。
深淵に至るまで、骨の軋みに際して、
深淵の底にある、血の呪いに際して。
骨は骨へ、血は血へ、闇は常闇へ。
⋯⋯闇は幾度も覚醒へ 。
全てを深淵へと誘わん為に⋯⋯
透明な剣は黒く深く月光を通さない闇色に染まる。
「闇夜の剣⋯⋯これが貴方の黒剣の正体ですよね。衝撃、重力無効化の武器の形状を変える剣。ねぇチェルノ・アンサラー君」
これがクロノ君にもらったモノの恩恵であり、絵本の中ではチェルノの愛用剣である黒剣であった。
「そうだな⋯⋯で、どこまで聞いたんだ?」
「いえ⋯⋯なにも教えてくれませんでしたよ。ただ自分のしたいようにしていけと言われただけです」
「⋯⋯そうか」
「っというか、ほっんと! 男って身勝手ですよね。知った情報なんざペラペラ喋ればいいのに」
「いや⋯⋯まて、それは言えない事もあるんじゃないか」
「それが自分の事なら別にいいですけど、私に関係してるよね? どうせいずれ辿りつくっていってたんだし、先に教えろっての」
「まてまて⋯⋯愚痴る相手間違えてるだろ?」
「え? クロノ君が消えたら、責任は本体のチェルノ君に行くのが当然じゃない?」
「おいおい⋯⋯」
「もともと拷問する予定だったし、確か強力な再生能力持ってましたよね?」
「⋯⋯」
「クロノ君から本体を嫌わないでくれと言われました。だから嫌う事はするつもりないですが、戦闘は別物ですよね?」
「完全にブチ切れてないか?」
「いえ、キレてないですよ。ただ殺されかけたお礼はしないと」
闇夜の剣を地面に刺すと、白夜と透明な剣も全て地面に刺さり黒の誓書と黒い線で繋がれる。
【黒の誓書 真夜の章】
白き輝き 闇の深淵 全て扉へと続く。
生死 表裏 天地 破壊創造全ては真理への渇望。
個は世界であり 全は真理である。
全て交りて扉を開き、その先へと誘わん。
真理の鍵、その手に⋯⋯
黒の誓書 第零章『真夜の鍵剣』
手に持っていた誓書が7本の剣を吸収すると黒い刀身に白いラインが入った鍵とナイフが混じった形状に変わる。
「これが、私の真夜の剣です!」
そう言って自分の胸に刺す。
全身に黒い線が行き渡る。
侵食はされず、服を形成していく。
マフラーはなくなり、黒のネックウォーマーからロングベビードールみたいな服に手足は付け根辺りまで黒く染まり、白い線が模様の様にはいっており、髪はお尻の方まで伸びている。
ゆっくりと瞳を開けると、左眼はルベライトに輝いていた。
【黒の誓書の力は完全に隔離成功、左眼の龍眼を介して侵食の心配はありません】
「⋯⋯それ、寝間着か?」
「⋯⋯」
自分の姿を見る。
うん⋯⋯あれぇ⋯⋯これはなかなかヤバイ格好だ。
黒服は別にいいんだけど、なんなのショーツとブラ丸出しなんだけど。
「誓書、服装チェンジで」
【却下されました】
「返事はやいよ!!」
【正確には7本中2本しか根源がないので、質量不足です】
「⋯」
思ってたよりひどいことにテンションが下がる。
「コントはもういいか?」
「コントのつもりはなかったけど⋯⋯もう大丈夫です」
「そうかなら第3ラウンド開始しようか」
右手を掴む動作をすると、瞬時に白夜の鍵剣が現れそのまま白い閃光で攻撃する。
それを技でいなすチェルノは間合いを詰め、黒剣で攻撃をするがそれを左手で持った闇夜の鍵剣で受け止める。
「ずりぃな⋯⋯神剣クラスを2本なんて」
「先程の君ほどでもないとおもうけどね」
右手で白夜を振るうとそのまま手を離し、透明の剣に持ち替えて斬りつけ、闇夜でさらに追い討ちをかける。
闇夜のほうだけをいなし後ろに一歩下がろうとすると、他の透明な剣が足に次々に縫い付けるように刺さる。
そして右手に持っていた剣を、白夜と一緒のように間合いが離れてる状態で振るうと影から閃光が走り足をとばす。
「⋯⋯こりゃぁ、分が悪いな」
そういって、巨大な黒龍になると大きく吼える。
的が大きくなるから有利になるだけと思いの方もいるかもしれないが、物質質量の差はどう足掻いても壁があると感じてほしい。
「硬ったいなぁ! もう!」
透明剣は中がスカスカな事もあり、どんな場所から攻撃しようともその龍鱗には刺さる事もなく、その全ての攻撃は風打ちを含まれており、闇夜で無効化してもその勢いと攻撃範囲にダメージを受けてしまう。
とはいえ、誓書を解放しているこの服には決定的なダメージにもなってはいない。
「ううん⋯⋯これはラチがあかないなぁ。この黒の誓書解放状態からもう一段⋯⋯龍よりに⋯⋯」
先程の操られていたのを思い出す。
(これはアリ(・・)なのかな)
【できるよ。ただし人為的にするのだから、その使用魔力は桁がちがうけど】
(持って何分ぐらい?)
【メルの膨大な魔力でも持って3分弱だけど、特性の効果で魔力の微精霊は次々に寄ってくるからソレを喰いつくすなら時間の延長はできるよ】
(なら3分で全て使い切ろう。魔力の微精霊は吸収しなくていいよ)
【それだと3分後には間違いなく倒れるよ?】
(うん。それでいいよ。本当に最後に知りたいことがこれでハッキリするから。まぁ、それまで倒したらそれまでだけどね)
左眼の龍眼が赤く歪に燃え上がる。
【黒の誓書 龍幻の章】
左眼を中心に左半身が黒い炎で作られた龍人の形に揺らめく。
血を通わすイメージの様に、服の白い模様は赤く脈だつ。
お互いの風打ちの師弟攻防は長く続くことはなかった。
お互いの風打ちをぶつけた瞬間、メルディスの左腕ーー龍化している部分が黒く大きく揺らぐと弾け、同じ威力の風打ちが追い討ちをかけた。
黒龍の腕が大きく弾かれてその巨体がバランスを崩す。
追い討ちをかける様に、メルディスが仕掛けるのを食い止めようとするが、再び揺らぎが弾けそのまま巨体が地面に沈むと萎んでいく。
「鍵剣を器用を使ってるな⋯⋯おれ達でもそんなのは考えたことはない」
「それはどういたしまして、人型に戻る判断が早すぎませんか? それが戦闘の経験の差ですかね?」
「そりゃどうも」
質量法則では巨大の方が有利だが、龍化する事によって差を縮め、まだ勝てない部分を7本の内、中身が詰まってる2本をフォローに回した。
計3発の風打ちを一度に打てる事により、チェルノに打ち勝てたが、チェルノは経験の差で人型に直ぐにもどった。
黒剣なら衝撃などは無力化できる事もあり、何よりメルディスが左側しか打てない為、攻撃パターンが読みやすく対応可能と判断した。
お互いの剣での戦闘は、力面ではメルディスが圧倒するも、剣の技では圧倒的にチェルノが高くどちらも攻めきれずにいた。
最後の攻防が続く中、終わりは突然にくる。
左手で3発分の風打ちを打ち右手の黒剣で受け止められ、右手は空の剣で攻撃をするが、空の剣はチェルノの一撃で砕け、そのまま黒剣はメルディスの右肩に刺さる。
それを見計らい、チェルノの右肩を残り4本の空の剣を斬り飛ばし、最後の1発の風打ちがチェルノをふっ飛ばす。
吹っ飛ばされたチェルノは左手で衝撃を殺し体勢を整えようとするが、メルディスの剣が胴を薙ぎ払う瞬間であり、防御するにも右手はまだなく、あからさまな詰み状態に少し笑みを溢し目を瞑る。
【3分経過】
剣は彼にあたる前に消滅し、メルディスの意識が瞬時にシャットダウンした。
倒れかけたメルディスを左手で受け止める。
「⋯⋯してやられた訳か⋯⋯」
今すぐ目を覚ます事は100%ないだろう。
明らかにしてやったりみたいな満足そうな顔をしている。
「しかもタイム制限ありか⋯⋯周りの魔力の素がこれだけ集まってるんだ⋯⋯」
普段より再生速度も回復力も早いのが納得できるほど、高密度にメルディスの周囲にはマナが充満していた。
メルディスの黒の誓書に手を当てる。
「起きてるんだろ? たしかエコーか」
誓書から2頭身の小さなエコーが姿を表す。
【な・なんだ! やんのかこのヤロー! 誓書を吸収するつもりならこのエコー様のビックバンチョップが炸裂するぜ!】
シャドーボクシングをして威嚇する。
「いや、その片鱗はもう俺のじゃない。完全にコレに定着したものだ。種は与えたが育ったのは器のおかげだな」
【じゃぁ、なんじゃい! なんの用じゃい」
「いや、リフィに似てると聞いたが、全然似てないなとおもってな」
【当たり前じゃろ! 私より可愛いやつがいるものか】
「いや、腐ってるのはお前の方だからな。まぁいい、とりあえずある程度、こいつが気づきはじめてるから、最後に置き土産を残しておきたいから手伝ってくれるか?」
【嫌にきまってるじゃろ? 敵の手伝いをする気はない!】
「○○××◇□♯£としても?」
【詳しく聞かせてもらおう⋯⋯か!】
置き土産を残し、黒猫(ファル君)を呼び、白犬(フェリル君)を連れて来させて、メルディスを乗せる
「次会うとき、必ず俺を殺してくれな」
メルディスの頭に手をのせ、そう一言だけ残して去っていった。
その激闘の夜から、次の日。
「なっ!! なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!」
ニワトリの声すらもかき消され、目覚めの声は街中の民の声になった。
昨日の戦闘跡は、大自然に溢れかえっており、森林地帯となっていた。
国はギルドを介して、すぐに調査依頼をだす。
報酬も良いことから、たくさんの冒険者達が探索しようとするが、入り口はない事からあらゆる場所から入ろうとするが、その5分後には元の場所に帰されていた。
まるで誰かを待っているかのように、静かに森林地帯は佇んでいた。
クレアが目を覚ます。
「ふぁ〜ぁ、昨日は闘技会で疲れましたわ。さて今日も頑張っていきましょう⋯⋯か」
隣にいるメルディスをみて言葉がつまる。
黒い猫耳に猫のツケ鼻にヒゲ、黒いモフモフしたブラとショーツ、手足には猫に手袋と靴を履いて丸まる様に寝ていた。
「え⋯⋯ええええぇ映像結晶を⋯⋯早く⋯⋯」
そう思い、立ち上がろうとするとパサっと紙みたいな物が数枚落ちる。
それはとてつもなく鮮明で本物の様にメルディスが色んな格好の猫姿で写っていた。
「な⋯⋯なんですの! これは!! ま・まさか神様の贈り物なのでしょうか!!」
その紙の正体は、前の世界では『写真』と言われるものであり、それから彼女が目覚めたのは3日後であった。
あと1話で一章終わる予定です(´・ω・`)




