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ソウル オブ ナイト  作者: 古狐さん
2章 『異世界』
26/50

チェルノの正体

「さて続いての試合は⋯⋯」

【ヒヨイVSチェルノ】

「これは⋯⋯残念ながら、勝負の結果が出てるんではないでしょうか? おぉっと失礼しました。万が一があるかもしれません! では試合開始です!!」


「⋯⋯胃が痛い⋯⋯」

 完全なアウェー感とプレッシャーと、なぜ自分がここまで勝ち進んだのか一気に押し寄せ精神がつぶされそうになっていた。

「しかも次の相手って⋯⋯あのキャーキャー言われてる黒ローブかぁ⋯⋯勝てる見込みねぇよ!!」


 胃がキリキリと痛む。

(あぁ、俺この試合に負けたら引退して大人しく普通にいきよう)


「⋯⋯⋯⋯」

 黒ローブが入ってくると、黄色い声援が聞こえてくる。

(すいません。すいません。こんな俺がここまで進んですいませんすいません)

 完全に卑屈化していた。


「うわぁぁぁぁ!!」

 ヒヨイが玉砕覚悟で特攻するが、先程の枝葉が壊した足場に足を引っ掛け転ぶ。


「⋯⋯」

 会場全体が静まる。

 なぜこんなのを見せられないといけないのだろうかっと。


 チェルノが近寄り、剣を振り下ろすっと咄嵯に避けて剣を持ち直す。

(しぬしぬしぬしぬ!! これって殺しちゃいけないんだっけ? けど、死なないで負けたい)

 テンパりすぎて、棄権という選択肢は消えていた。

 チェルノが踏み込み横に一閃薙ぎ払うのを、お腹を引っ込めて紙一重で避ける。

「あぶな!! っ! うわぁぁ」

 お腹を引っ込めた時に前に出した剣がチェルノの顔に刺さろうとし、余裕で避けようとすると偶然にも黒いローブの隙間に入りそのまま足場の悪さに再びコケた。

「あいたたたた!! うん? なんだこれ?」

 手には黒いローブを持っていった。

 そう、偶然が重なり、チェルノのローブはぎ取られていた。


「⋯⋯⋯⋯」

 チェルノの姿が明かされた。

 背は低く、手足は短いがヒゲがモッサリと生えていた。

 いわゆるドワーフなのである。

 この世界では、最高の鍛治職人であるドワーフは過去の話であった。

 正確にはいい鉱石がない為と人口がとにかく少ない為に技術の劣化していったが理由である。


「あの⋯⋯なんかすいませんでした」

 ヒヨイはローブをチェルノに渡すとプルプルした手で受け取る。

「審判⋯⋯すまないが棄権する」

 トボトボと歩き去っていくが、女性の声援はもうなかった。


「えぇっと、ヒヨイ選手の勝利ですね。あと、別人じゃないかと思われていますが、間違ってはいないので安心してください」



「チェルノさんの出場理由は長年かけてつくった幻影(ファントム)ローブを着て、女性にモテたかったらしいです」

 クレアが可哀想な気持ちで話し始める。

「ずっと、あの方だったのですか?」

「えぇ、そうです。出場時退場時は理由を知ってる人だけで確認していたので間違いありません。優勝は私と結婚と言われてたので、お断りしたら全力で彼の嫁候補を探してほしいとの事でした」

「⋯⋯そうなのですね」

「あれ? 枝葉ちゃんがいなくなってますわ」

「枝葉様なら、たった今退出されましたよ」

 一緒に観戦していた枝葉は、試合が終わるとすぐさま退出していた。



「ちょっといい?」

 トボトボ歩いていくチェルノに声がかかる。

「ん? あぁ、えぇっとメルディスさんでしたか? いぇ、いまは枝葉さんですか」

「名前は言いやすい方でどうぞ。そのマントって貴方がつくったの?」

「えぇ、そうですが」

「その材料ってここらで取れるの?」

「さぁ? このマントの素材はある人から渡された物ですので⋯⋯」

「そのある人はどんな人だった?」

「申し訳ないですが、お答えできません。正直私も覚えてはないのです。なんせ酒場であった人なので⋯⋯すみません、もう行かないと」

「お礼はしますので、そのローブ譲って頂くことはできませんか?」

「あぁ、お礼なんていいですよ。ほしいのなら差し上げます」

「いえ、そちらのお希望な額をおっしゃってください」

「本当に大丈夫ですので、ただ、もし次会える時があれば、その時にお願いを聞いていただけると助かります」

「分かりました。これが終わったら全力で探しますので、お願いを決めておいてくださいね」

「ははは⋯⋯その時はお願いします」



「⋯⋯ただいま」

「お帰りなさい枝葉ちゃ⋯⋯!!」

 帰ってきたのは、片目がなくなり、片手も皮だけでかろうじて繋がっている状態で、全身がズタボロで見る限り瀕死の状態であった。

「コケちゃった(てへぺろ)」

 腕は勿論上がっていないそれどころか皮が伸び今にも切れそうなぐらいブランブランとなっている。

「ブクブクブク」

 クレアは気絶していた。


「うわ! 気絶してる!!」

「枝葉様、やり過ぎです」

「ミキとヒタリは驚かないんだね」

「それは⋯⋯もう、そんなに元気声ですし、そこまで苦戦する以前にその前に逃げてると思われますので」

「ここまできたら歩く事すらないだろうけどね⋯⋯なかなか実用的ねコレ。あとで調べるからバラすかどうかは迷うわ⋯⋯」

 そういってローブを脱いだ。



「弟の容態は?」

「それが⋯⋯眠っています⋯⋯」

「そうか⋯⋯起きるのか?」

「それは⋯⋯わかりません。体中のマナはあるんですが、活動は微弱にしか活動しておりませんので⋯⋯」

「そうか⋯⋯またくる」

 ラグルスの容態は、この世界でいう仮死状態であった。

 完全防御をしていた為、死ななかっただけであったのかもしれないし、彼女はこの状態になると読んでいたのかもしれない。

 ラグニスは弟を羨ましいとさえ思った。

 本気で挑んだ結果であれば後悔は必要がない。

 そう思っていたからである。


【ラグニスVSマーリン】

「さて、本戦第2回戦もこれで最後です。両者とも悔いのないよう頑張ってください」



「弟の方はいいのか?」

「あぁ、問題ないな。そんなことよりこっちに集中しようじゃないか」

「やる気満々じゃないか。枝葉さんに弟の敵討ちでもしようとしてるのかい?」

「いや、その逆だよ。羨ましい気すらするよ。全力を最高の技で答えてくれたのだ。逆に感謝したいぐらいだよ!」

「そうかい⋯⋯」

「さて、王子様は俺の全力まで引き出してくれそうかな!?」

「期待は裏切らない様にするさ」

 速攻で風の刃をいくつも放つ。

 切れ味は鋭く鉄すらも斬る刃は、ラグニスの手甲によって弾かれていく。

「じゃぁ、これはどうかな?」

 風の刃をいくつも展開し360度全方位時間差含めて解き放つ。

 10数秒に及ぶ風の刃の攻撃でラグニスの周りは土埃で見えなくなっていた。


「おぉっと!? さすがにこれは防ぎきれなかったのでしょうか!」


 土埃が晴れる前に、白い煙の塊がマーリンの方に突進して行き、攻撃をする。

「驚いたよ。無傷なんだね?」

「まぁ、あれぐらいの攻撃ではビクともしないさ」

 ラグニスのラッシュ攻撃は避け風で受け止め器用に避けていく。

「避けるの上手いじゃないか! てっきり接近は使えんLVかと思ったがいやはや」

「そりゃどうも。こんな事もできるぜ。風打ち【弾】」

「むぉっ!」

 ラッシュ攻撃の中断を余儀なく中断させられる。

 拳が弾かれてわずかな隙間が生まれると、すぐさま、その身体に再び風打ちを打つ。

「まぁ、あれぐらいは見れば出来るさ」



「風打ちではないけどね」

 枝葉が様子を見ながらいう。

「そうなのですか?」

 クレアは枝葉にベッタリとくっついていた。

 先ほど気絶させられたお詫びらしい。

「うん。あれはただの風の魔法の応用ね。風打ちはそもそも体内の魔力の素を魔法に変換する前の瞬間でキャンセルするもんだもん。だから属性はないよ」

「でも、似てるならそれは一緒ではないんでしょうか?」

「そういう見解もあるけど、言うなればあの風打ちはマーリンさん専用かな。魔力量が多いからできるようなものだし。今の放った魔力で普通の魔法使いなら魔力枯渇状態になる人も多いかも」

「そうなのですね」



「ふぅ、まぁまぁやるな」

 やはり無傷でラグニスが立つ。

「何かやってるっぽいな。それがあんたの能力なのかい?」

「能力というものでもないんだが⋯⋯まぁ、面白かった事だし見せてやろうか」

 身体中に力を入れて気合をためる。

「ハァッ!!」

 マッスルポージングをとると、キラキラとした汗飛び散る。

 おもわず後ろに引く。

「安心しろ。汗ではない。これが私のたった1つの能力だ」

 よく見ると会場中がキラキラしていた。

(なんだこれ?)

「さて、いくぞ。安心しろこれで終わらしてもいいが加減はしてやろう」

 先程までと同じラッシュ攻撃がくる。

 避けて躱すが、どうしても捌ききれない攻撃は風の魔法で弾くつもりだったが、風の魔法は発動する事がなく、そのまま腹に入った。

「ガァッ!!」

 殴られた腹部に激痛が走る。

「クソッ! そういう事かよ⋯⋯」

 ゆっくりと立ち上がる。

「そういう事だ。私の前では魔法などをつかう攻撃は一切通じない。それを無効化する結界もはれるというわけだ」

(これは相性最悪だな⋯⋯)

「魔法剣でも魔法の効果が無ければ只の剣だからな、この手甲で折ればそれで終わりだからな。だから私の前では己の肉体以外はつかえないというわけだ」

「⋯⋯だから絶刀か。こりゃぁ勝ち目ないな⋯⋯」

「そうかならば棄権するがいい。弱き者と戦う気はないからな」


「勝ち目ないからって、誰が棄権するかよ!!!」

 魔力を全開まで解放する。

 魔力が発生できない結界の中で、マーリンは確かに魔法を放ち、空に浮かんだ。

「なんと⋯⋯これは驚いた。我が人生で初だ。この中で魔力を使えた奴は」

 心を躍らせる。

「ならば来い!! こちらも全力で相手をしてやろう!」

 言葉はもう必要もない。


 マーリンは一段と高く舞い上がり、急降下してラグニスに向かった。

 高速まで達すると魔力が底をついたのか落下しているように見えるが更に速度増す。

(勝負だ!!)

 ぶつかる瞬間に持っていた最後の魔力を全て使いマーリン専用の風打ちを放ち、お互いが衝突した衝撃で観客の方にまで力強い風が土埃が舞った。


「ゴホッゴホ⋯⋯勝敗は、どうなったんでしょうか?」

 晴れるとラグニスが立っていた。

 その闘技場の端っこにマーリンは起き上がることもなく倒れていた。

「見事。なかなか面白い試合であった」


 すぐに救護班がマーリンの元へ駆けつけ治療に当たる。

 風打ちを最後に放ったのが良かったらしく、精神枯渇状態(マインドダウン)だけであった。

 風に愛される男だからこそ、風に助けられて無事だったのであり、一歩間違えて入れば確実に自爆で死んでいたのだ。


【勝者ラグニス】

「さて続いての試合は少し整備した後に開催します。今暫くお待ちださい」



 白髭のドワーフは、街をでて森を歩いていた。

「老人をこんな風に使わないでほしいものじゃよ」

「悪いな。爺さん。で、彼女はどうだった?」

「そんな事いわんでも分かっておるじゃろう?」

 ドワーフの顔は喜びで溢れていた。

「完全にお前さんの力は隔離され、尚且つその力を使役出来るLVにはなっておる。正直に心ではずっと一緒にいたくなったから退散するのも一苦労だったわい」

「そうか。なら、鐘のタイミングは間違ってはなさそうだな」

「当たり前じゃわい! こちらに来た時に本当はすぐさま呼びたかった程だったわい」

「ならいい。わざわざすまなかったな」

「なぁに、きにしなさんな。お前さんも昔と比べると完全に丸くなったよのぅ」

 声の主はもうその場にいなかった。

「ふぅ。次こそはうまくいくといいのぅ。チェルノよ」

 先程まで使っていた名前を還すとドワーフも森林の中に溶け込むように消えていった。

チェルノに関しては、補足説明してもいいかな。

枝葉が元の姿になれば、ちょっとずつ明かしていけばいいかな。


更新時のツイッターで一回だけ流してませんが、チマチマと見てくれる方がいてくれて有難うございます₍•͈ᴗ•͈.₎


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