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ソウル オブ ナイト  作者: 古狐さん
2章 『異世界』
15/50

番外編「2人の出会い」後編

 ハッと目が醒めると、馬車に運ばれていた。

「お、起きたかい? 少年」

 馬を引いてる男性が、声をかけてくる。

「おれ⋯⋯⋯生きてるのか⋯?」

 自分の身体を触り、生きてる事を実感する。

「そうだ!! モロとミナは!?」

 辺りを見渡すと、二人共抱き合って寝ていた。

「あの、俺たちを助けてくれたんですか?」

「ん? いやぁ、俺じゃないぞ。なかなか渋い兄ちゃんが運んできてくれたんだよ。まぁ、正確にいえば我等の()が⋯⋯⋯いや⋯お嬢様が手配してくれたんだけどな」

「そんな人がなぜ俺たちを⋯⋯⋯?」

「ん? あったことないのか? メルディス様に」

「はい⋯⋯⋯記憶にはないですが⋯⋯⋯」

「う〜む。そんなことはないと思うが、なにかしらあったと思うぞ。首に長いマフラーをして腰にぶ厚い本をかけている女の子だ」

 アッと思い出す。

「お? やっぱりあったのか。ならそれだろうな」

「そうなんですが⋯その⋯たぶんその人から物を盗んだんです」

「ほう!! やるな! 少年」

「それ以降はあっていないので、それだけで助けてもらったっていうのは⋯」

 わっはっはと、男性は笑う。

「盗んだ? わはは! それはな少年! 盗まれてあげたの間違いだ! どうせ、かなり上手い具合にいったと思ったりしただろう?」

「えぇ⋯まぁそうです。こんなに上手くいったのは初めてだったので」

「あの人から物を盗む? たぶん不可能だ。やっぱり何かやらかすつもりだろうな」

 ??? なにをいってるんだ?

「あぁ気にするな少年。とりあえず3人は助かったが、お嬢が事を終わらしてくるまでは、少年は冒険者になって動けるようになってもらう」

「それは奴隷としてですか?」

「いや、その2人を育てるんだろ? 生活も含め生きる(すべ)は身につけておいた方がいいとお嬢からの伝言だからだ」

「まぁ説教⋯喰らうかもしれんが⋯どんまい」

 男の体が縮こまったように見えた。

「説教って⋯そんなに怖いんですか?」

「ん、あぁ⋯⋯まぁ、俺は壁にめり込んだな」

 ははは⋯と思い出し笑いをする。


 着いた町はユーミルといった。

 そのままギルドの方にいくと、ギルドマスターが待っていた。

 馬を引いてた男がギルドマスターに手紙を渡し、読み終わるとこちらの方に向く。

「初めまして、ギルマスのラグルスだ。冒険者登録をして当分はクエストにでてもらうぞ」

「はぁ⋯でも、俺にはなにもやってきた経験がないです。ナイフならあるけど剣すらも持ったことがないので」

「そこらはコーチが後でくるから、安心したまえ。まずはそこらの森を走り、薬草類や鉱石などの採取だけだ」

「それなら大丈夫だとおもいます」

 その日からクエストを受け森を疾走する。

 2日後には我間優作と名乗ったコーチが現れ、剣の指導をしてもらった。

 一週間後、長いマフラーが特徴的なメルディスさんが現れた。

 コーチだった我間優作は、メルディスさんに何かを訴えかけるが通らず、筋肉に囲まれた男達に囲まれ、どこかに運ばれていった。なんでも女癖がわるいのが問題なので、強制的に修正させるとかなんとか言っていたのですがその後は怖くて聞き取れませんでした。

「初めましてかな? ビル君」

「は・はい。この度は助けていただいてありがとうございます。そして盗みをしてごめんなさい」

「よろしい。これからは盗みをしないようにね。あと年上だからって畏まらなくていいよ」

「は・はい!」

「とりあえず薬草や鉱石の採取のスピードは合格ね。剣の修行は初めてだからしょうがないとするけど、今日から私がみっちり教えてあげるからよろしくね」

 そういって彼女はニッコリと笑った。


 ⋯その日からの出来事は思い出したくなかった。

 スパルタ? 猛特訓? そんなもの比にならなかった。

 毎日、死にかけるまで動かされ剣術から短剣なども叩き込まれていく。

 スライムを俺の体に装着させると、少々の傷はたちまち治っていく。それもまた加速に原因となり筋肉がパンクしても回復、気絶しようとしても回復の日々が続いた。

 夕食はメルディスさんが作ってくれる。

 周りの男達も欲しがっていたのだが一蹴されてお預けにされて、モロとミナと俺はガムシャラに食べた。

 残りは男達に行き渡るのだが、量が少ない為に毎回争いがおきていた。

 2人が寝かしつけた後は、俺とメルディスさんは別の部屋にいき、部屋に蝋燭をたて瞑想する。


 そういう日が毎日続くと、当然慣れてくる。

「よし、基本はこんなもんかな」

 メルディスさんから合格をもらった ーー のだが、さらなる地獄の幕開けであった。

 メルディスの側にいるフェンリルに跨るとそのまま疾走する。

「振り落とされないようにね」

「むちゃですよ!!」

 天地が関係なく走っている。逆さになったり横に走ったりと、目がグルグル周り直ぐに落ちる。

 フワっと香りがいいものに包まれたと思ったら、メルディスさんの胸のなかでした。

「がんばれ!」

 そういって、再びフェンリルの元に投げられる。

 天国⋯地獄⋯天国⋯地獄⋯天国⋯地獄⋯⋯

 繰り返す内に脳が身体が眼が慣れてくる。

 いつも見た景色とは違った、綺麗に流れていく景色にやっと追いついた。

「じゃあ最後は⋯」

 まだありました⋯

 ここで瞑想をしていた理由を知ることになる。

 風打ち【跳】【打】【弾】を教わる。

 元より俺には魔力の素質があったらしく、それの洗練と増強するために瞑想だったという。

 メルディスさんの教えが続き、形が作れるようになったら、突然終了と言われた。

「よし! これで終了かな」

「はい? 今なんておっしゃったんですか?」

「終わりっていったんだよ。お疲れ様! あとは自分でなんとかしていいよ」

「え? え?」

 いきなり終了宣言される。

「メルディスさん! あの⋯なんか中途半端じゃないでしょうか?」

「そう? もう女の(・・・)1人ぐらい守れる程度にはできてるから、あとは自分で心技体を鍛えていけばいいよ。あ⋯けど、そういうなら最後に試験を与えようかな?」

 なんか墓穴を掘ったというか、言わされた感じがする。

「ユーミル(ココ)から最果ての村まで、森を疾走していきなさい」

「はぁ? それだけなんですか?」

「そうだよ。ただし時間は1時間半ね」

 無理でしょ。

 そう心でツッコミを入れたかった。

「私だけなら1時間だし遊びでいいなら30分ぐらいだから少しおまけして1時間半でがんばれ!」

「望み通り最後の試練よ。君自身がその手に守りたい者を守るためには、絶対量を越えないといけないからね。とりあえず【跳】を一日中使えるようにがんばることね」

 メルディスさんは次の日からは別の事で忙しくなっているらしく、会えなくなっていった。

 俺は最後の試練をクリアーするために毎日、最果ての町に疾走している。


 ーー数ヶ月後ーー

 最果ての村にようやく辿り着けるようになった。

 いつも通り疾走していると、遠くから「た〜す〜け〜て〜〜」と声がした。

 方向を変えそちらに走り出す。

 大きい猪に女の子(村人)が追いかけられていた。

「あーん! もう! 薬草求めてきたら、少し深い所まできてちゃった」

 いまにも追いつかれそうなぐらいの距離であった。

「まだ結婚もしてないのにしにたくないよー!」

 瞬時に風打ち【跳】で彼女の近くまで跳び、彼女をトンっと横に押し出し、猪の突撃を全身で受け吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされた時に、同時に【弾】で自分の持っていた剣を投擲していた。

 剣は猪の頭に突き刺さっているが、まだ死んでおらず女の子を狙う。

「私⋯美味しくありませんーー!」


「やべ⋯意外にしぶとい」

 そのまま跳び、女の子の前にいくと猪に【打】った。

 グルンと目が白目になりそのまま倒れた。


 女の子は男の子を見る。

 自分と同じぐらいの年齢だった。

 ただ、私を庇って直撃を受けたせいで左腕から血が出ていた。

「あ⋯あの、腕怪我しています」

「あぁ、大丈夫。こんなのほっといたら治るよ」

「いけません!! ちょっとまって。私、回復が得意なんです」

 そういうと、男の子の腕に手をかざす。

 あっという間に腕が治る。

 真剣な女の子の顔に、男の子は少し照れる。

 その様子も含め自分もかなり近づいていた事に気づきお互いが照れる。

「えぇっと。すごいね。こんな風にすぐ治すのは初めてだよ」

「いえ。そんな事はないです⋯ただ、回復の魔法教えてくれた人が毎日薬草をあつめてポーション作りなさい。そうすれば、その内王子様が⋯ゴニョゴニョ⋯」

「?? そうなんだ⋯あ〜その、いきなしでゴメンけど、もしよかったらパートナーになってくれないか?」

 その言葉に女の子が笑う。

「あ! いいや、ごめん⋯。なんか初めてあった気がしないんだ。あぁ、この言葉も誰にでも言ってるわけじゃないよ! 何言ってるんだろおれは⋯」

 紅潮し俯く。

「ごめん。そういうわけじゃないの。お互い自己紹介もまだだしなんか可笑しくって」

「ごめん。俺の名前はビルだよ。ユーミルの町にモロとミナの2人を養って生きてるんだ。3人共奴隷扱いされてたけど、偶然助けてもらえたんだ。いまは冒険者としての修行中かな。なので一緒に冒険するパートナーがほしかったんだ! よければ君の名前も教えてもらえるかな?」

「改めまして、助けて頂いてありがとうございました。私の名前はアクアです。私も奴隷として攫われたんだけど、偶然助けて頂いたんです。両親は助からなかったけど、その人が最果ての村まで連れてきてくれて宿屋の女将さんが今は母親代わりになってくれてます」

「なんか⋯」


「似てるね。俺たち」

「似てるね。私たち」

 お互いが顔を見て笑う。


 たとえ幻覚と催眠からはじまった出会いであれど、お互いの記憶がなくてもどこかで通じ合っているものであり、この2人はこの後、一緒に冒険していく事になる。

 再びビルとモロとミナとアクアの4人が一緒に暮らしていくまで、そう長い時間はかからなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 暗闇の森を疾走する白い狼がいた。

 背には女の子を背負っている。

 首都シェラザードを越えユーミルの町も通りすぎ最果ての村まで走った。


 宿屋の扉をコンコンと鳴らす。

「だれだい? こんな時間に⋯」

 扉を開けるが、誰もいない。

「あれ? 聞き違いだったのかねぇ⋯」

 パリパリと電気が通ると白い狼がいた。

「おや⋯あんたは、その背の女の子は? あぁ、そうかい⋯なら入りな」

 部屋に入ると、女将さんが女の子を下ろし挟んであった手紙を読み始めた。

「なるほどねぇ、詳しい事はまた今度会った時に聞くとして、とりあえずこの(アクア)を預かればいいんだね」

 ウォンと鳴く。

「にしても、あんたの成長ぶりもすごいもんだね。あの頃が嘘のようだよ。近いうちに顔を出すようにいっといてくれよ」

 そう告げると、ウォンと答え出ていった。


 アクアが目を覚ます。

 見知らぬ天井に見知らぬ場所に身構える。

 体は恐怖から震えいまにも泣き出しそうである。

「大丈夫よ。ここは何も怖くない。私の知り合いがね、貴女を助けて連れてきたのよ。とりあえず、温かい飲み物でも飲んで落ち着いてちょうだい」

 女の子は、おずおずと警戒しながらも飲み物をゆっくりと飲み始めると警戒が緩んだせいかお腹の音が鳴る。

「あはは! ちょっとまってな。なにかつくってあげるから」

 食べ物を食べると途端に睡魔に襲われたように女の子が眠った。


 ーー次の日ーー

 朝食をたべている時に女の子が喋りかけてきた。

「き⋯昨日はありがとうございました。食事も美味しかったです。それと申し遅れてごめんなさい。私の名前はアクアと申します」

「あぁ、いいよいいよ。私はこの宿屋を経営してる女将だよ。お礼は貴女をたすけてくれたメルディスちゃんに言ってやんな」

「は⋯はい。私これからどうなるんでしょうか?」

「それはアクアちゃん次第じゃないのかねぇ? この宿屋でずっと居たいというならいてもいいし外の世界を見たいというなら出ればいいし」

「外⋯はもういいです⋯」

 ポロポロと泣き出す。

「お母⋯さんとお⋯父さんと、私で旅行してたのに⋯道中で襲われたの⋯あんな思いはもういや⋯です」

 泣き止むまで、ぎゅっと抱きしめる。


 アクアは両親をなくした事に心が傷ついていたので、私が義理の母親代わりになった。

 夜は宿屋の手伝いもしてくれて本当に良い子だったのだが、夜よくうなされていた。

 そして調理場で作業するときに事故が起こった。

 アクアは無事だったのだが庇った私がヘマをしてしまい大火傷をしてしまう。

 泣いてるアクアが目の前にきて、大火傷の部分を治してくれたのだ。

 その事を、女の(メルディス)がきたときに話すと

「やっぱり潜在回復は可能なのね」

 潜在回復というのは、固有の回復で人魚の特性でもあるという。

 その事のいきさつを聞く。

 人魚ではなくなってるが、その時の特性は生きているという。

 メルディスがアクアと話をする。

「あの⋯⋯助けて頂いてありがとうございます」

「あーーうん。いいよ。その事は偶然と必然が混ざり合ったようなものだしね。それよりもアクアはこれからどうするの? 女将さんと一緒にここで暮らすの?」

「それでもいいなら⋯そうしたいです。駄目でしょうか? 外は怖いです⋯」

「駄目ってことはないけど、中だから安全ってわけじゃないよ。ちょっと外に出よっか?」

 そういって外に出る。

「フェンリルちょっとお願いできる?」

 目の前に突然白い狼が現れる。

「この子⋯知ってる気がします」

「ここまで運んでくれたのはフェンリルだからね。それはいいとして乗って乗って」

 失礼して犬に跨る。

「よし、じゃあ出発」

「え? どこ⋯に、きゃぁぁぁ!」

 余りの速さに狼にしがみつく。

 村を出て街道ではなく、森を疾走する。

「慣れてきたなら、しっかりと目を開けてみてごらん」

 流れるような景色、見慣れた風景がまったくの別物に変わっていく。

「す・すごい!」 

 ここらで1番高い木の上にたつ。

 足が竦んで産まれたての子鹿のように上手く立てない。

 白い狼が補助してくれてやっと立てる。

 目を開けるとそこにはとてつもなく広い世界があった。

「綺麗でしょ? 辛いことも楽しい事も、全ては人が生きていく内のスパイスみたいなモノだよ。私もね、生まれた時の記憶ないんだよね。親代わりになった魔術師は悪だったよ。私を魔術の道具しか見てなかったしね。ただ怖いからと言って自分の可能性を塞ぐのは違うと思うの」

「それはそうだけど⋯私はそんなに強くありません」

「そりゃそうでしょ。1人の力なんてたかが知れてるもん。私も2人の支えがなかったら死んでただろうしね」

「怖くはないんですか?」

「怖いかぁ⋯怖いよりも可能性を無くす方がよっぽど嫌かな。けど、死んだ人に事を忘れろとかではないからね?」

「私⋯執着しすぎてたんですかね?」

「それも1つの考えだろうけど、いつかは殻を破らないとね」

「はい⋯ちょっとずつ変わっていこうと思います」

「よろしい。まだ若いんだし素敵な恋もしないとね」

「恋ですか! それはまだ早い気がします」

「どうかな? 運命は突然にくるものよ。案外、森で追われているところを助けて(・・・)くる王子様が現れるかもよ?」

「それは大変です! 恋に落ちちゃうかもしれません!」

 あははっと笑う。

「じゃあ⋯気持ち良く落ちようか?」

「ふぇ? えぇぇぇぇぇぇぇ!」

 その木から真っ逆さに落ちた。

 

 少し(かなり)怖かったけど、スリルという冒険をした私はその日から少しづつ変わっていった。

 私の能力の事も教えてくれて、人を助ける事ができるならと回復系統の勉強もしていく。

 薬草関係も勉強をして抽出した薬を宿屋で販売しはじめるとなんでも治りが早いと売れ筋は上々だった。

 あとで聞いた話だと、ずっと回復薬などを触っているから特性も追加されていくのだという。


 ーー数ヶ月後ーー

 森で薬草を採取してると大きな猪に追いかけられました。

 一生懸命逃げても逃げきれそうになかったのだけど⋯こんな時なんだけど⋯あの時の言葉を思い出し、心が踊ってしまってます。


 ー王子様が助けてくれるかもねー


 乙女というのは難儀なものです。

 ただ⋯その言葉は現実のものとなり、同い年のビルと名乗る男の子が助けてくれました。


 この時には、もう分かってたかもしれません。


 私も外に出る時が来たのだと。

まだまだ書きたいことあったんだけど、まぁいつかまたこの続きかこうとおもいます。


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