首都シェラザード4
長くなっちゃいました。
「〜♪」
次の会合まではあと5日もある。
それまでにやっておくことは十分に間に合う。
机の上に置いてるゲージの中は、相変わらず透明である。
指先で水を掬い、ゲージに向かって手を払うと、小さな稲妻が走り白い犬が姿を表す。
ただしエルバに対しては、あからさまに敵対心をもった眼で、ずっと凝視しており、エルバ自身も噛まれると思って触れようとはしない。
「安心しなさい。ワンちゃん。もう少ししたらお別れだからねぇ〜」
機嫌がいいせいなのか、価値以外に興味がないのか鼻唄まじりに喋りかける。
アクアを自分のアジトの方に連れて帰ると、身体中を弄る。
やらしい手つきといえばそれまでなんだが、商品のポイントを明確にする作業を、エルバ自身が行なっていた。
本来は部下どもにやらせていたのだが、今回の商品は、高級品のレア物であり、部下に信頼がないのが伺える。
風呂を沸かしエルバと共に入る。
まず髪を洗うと、その綺麗さに素直に驚く。
あんな廃墟でロクなものもないはずなのに、髪が傷んでいるどころか、とても艶がありサラサラなのだ。
続いて首から体にかけて、泡をたてながら触ると、これも絶品なモチ肌である。
胸の形も大きい割に、垂れる事もなく重力に逆らった形をしており、触れると軽く包み込んで、押しもどすかのようなハリと共に形を崩す。
お腹、腰そして、足までも傷もシミもなく極上の逸品であった。
「⋯⋯ここまでの品とは思わなかったわ⋯⋯。あんたどっかの姫様だったりしたの?」
正直、同じ女とは思えれない程で、少し疑問に思ってしまう。
「ありがとうございます。ただ、姫とかではありません。人魚は元々自己治癒能力も高いので余程のキズじゃない限り綺麗に治るのかもしれませんが⋯⋯」
「そう、相手はすぐ決まるだろうけど、あんた自身を売る事はしないわ。とりあえず初物だけは売ることにする」
少し沈黙をする。
「はい⋯⋯わかっております」
「ならいいわ、ある程度落ち着いたら3人にも会えるようにししてあげるからしっかり頑張んなさい」
そういって風呂場を後にする。
「⋯⋯はい!」
もう、3人は死んじゃってるけどね。
希望が大きければ大きいほど、苦難も越えれるけど、その現実を知った時のアクアの顔がどんなになるか楽しみだわ。
綺麗すぎる女をドン底に落とす時がたまらなく1番面白い ーー エルバは言葉に出さず笑いを堪えながら次の事を考える。
次の日には買取が見つかった。
しかも相手は過去に人魚を買い、遊び殺した奴隷商人だった。あの時人魚の良さが、いまでも忘れられないと思い出すだけでも興奮している程であり、色々な所に声をかけたつもりだが、ブッチギリの高額を提示した。
ただし、条件として向こうが出してきたのは、一週間程アクアを味わいたいとの事で、金額が金額なだけに渋々了承した。
「いっとくけど、殺さないでね。道具の調教もなし、傷つけるのも禁止。一週間後にはキッチリ返却してよ」
「わかっておりますよ。ただ、失神などはさしてもよろしいですかな?」
「あ〜はいはい。体を傷つけない事と、殺さなければいいわ。首の痣だけは大目にみるわ。隠しやすいし」
「ありがとうございます。あの締まり具合がもう⋯⋯」
「じゃあアクアいってらっしゃい。しっかりご奉仕してくるんだよ」
話を途中で遮り、アクアを引き渡す。
「これから⋯⋯よろしくお願いします」
そういって奴隷商人とアクアは去っていく。
目の前ある置かれた大金に、エルバは口を歪ませる。
その夜、アジトに娼婦を沢山呼び、高級酒を部下に振る舞った。
「いいのですかい? こんな事をしていただいて?」
おずおずと部下が聞いてくる。
「あら? 意外? 計画も最終段階だからね。お前達もよくやってくれてるし、そのお礼も含めてよ」
そういいながら、金の入った袋が机を叩く。
「これもみんなで分けていいわよ。達成した時には、更に今以上の全てが手に入るから、その時まで頑張ってもらうわ」
エルバはそう言うと、アジトを後にする。
明日は、やっとクレア姫に会えるのだから、酒臭くはなってはいけなかったのだ。
部下達は、大いに喜んだ。
エルバがいると、やはりどこかブレーキがかかっていたからだ。
だが、今日は物だけ置いて帰っていったのだ、ブレーキがはずれ、女と戯れ、酒を飲み大いに騒いだ。
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父が城の中にはいり王と話し合いにいく。
私たちはいつも通り中庭で雑談をする。
話が盛り上がった頃に、プレゼントを渡す準備に入る。
「そういえば、クレアに渡すものがあるのよ」
「なになに? 前に言っていた珍しいもの?」
「ふふ、そうそう。やっと見つけたのよ」
そういうと、何も入っていないゲージを机に置く。
「なにもはいってないわよ?」
「焦らないで、今すぐ見せるから」
グラスの水を手にかけてゲージの方にふりかける。
「わぁぁぁぁ!」
姫の眼が輝き、釘付けになる。
「すごいすごい! こんなのもいるんだ!」
「でしょう? 手に入れるの大変だったんだから」
「ありがとうエルバ! 触ってみていい?」
聞きながらも、ゲージに手をかけて開ける。
「噛みつくかもしれないから、気をつけて」
その心配は必要なく、姫に抱っこされると、顔や首などをスリスリする。
「あはは、くすぐったいよ!」
お互いに気に入ったのか確かめ合うようにじゃれ合う。
ーー このクソ犬。私の時とは、反応がぜんぜん違うじゃない。
一瞬、殺気をもらす。
その殺気に、犬はコッチに振り向いて警戒をする。
「本当にありがとうね。すんごい可愛いから気に入っちゃった!」
そういってゲージの中に犬をもどす。
「けど、王様とかの許可は大丈夫かしら? 少なくとも得体の知らないペットを飼う事になるんだし」
「大丈夫よ。お父様なら説得するから!」
そのまま和気あいあいと雑談して盛り上がり、日が傾きはじめた頃、そろそろ父がもどる時間帯になった。
「クレアちょっといい?」
そういいながら立ち上がり手招きする。
「なぁに? エルバ? 急に立ち上がってどうしたの?」
そういいながら近寄ってくる。
パァン!!
頬を叩かれた音が真っ赤な空に響く。
「私の為に死になさい。クレア!」
そのまま姫を押し倒し、マウントポジションまで持っていくと首を絞める。
「や・やめて⋯⋯エルバ、どう⋯しちゃったの?」
首にかけられた手を持つがビクともしない。
「そろそろ、じゃれ合いも終わりにしたいのよね」
どんどん首を絞める。
その様子に衛兵達が駆けつける。
「クレア、いままでありがとう」
突然、首を絞めるのをやめる。
「ごほっごほ⋯⋯」
顔を逸らしむせるが、エルバの手によって正面を向かされる。
「その身体⋯⋯頂戴ね」
眼をキッチリ合わすと、その瞳に吸い込まれる感覚に陥る。
「コンバート(精神変換)」
エルバは、そう唱えた。
衛兵達が直ぐに駆けつけ、エルバが取り押さえられる。
「いたい! 何をしてるの? 私ではなくてあちらを⋯⋯」
目の前に苦しそうにしている私がいた。
「ゴホッごほ⋯⋯そんな、信じてたのに⋯⋯エルバどうして⋯⋯」
そういいながら、姫は気絶した。
「え?」
自分の手を見ると、いつもの私とは違い、少し大きくゴワゴワしていた。顔を触る。髪を触る。
「あ⋯⋯ぁぁ、私がエルバに? どうなってるのこれ⋯⋯エルバ! 答えて! 答えてよ!」
そういいながらも、姫に掴みかかろうとしたが衛兵に取り押さえられる。
「離しなさい! あれは、わたしなのです!」
「なにをいってるんだ! 貴様は! 姫の楽しみをぶち壊し、挙げ句の果てに殺そうとまでするとは!!」
頭にガツンと痛みが入り、意識がなくなった。
・・・
・・
・
気づくと牢屋にいた。
生まれて初めて見る牢屋は、とても薄暗くてとても寒かった。
「私⋯⋯どうなったの?」
「目覚めたのかい? エルバ?」
「その声はアンドロスおじさま?」
「なにをいってるんだ? 私が父だろう?」
「いいえ! そうではないんです! エルバが私になってるんです」
「あぁぁ⋯⋯なにを言ってるんだ。やはり姫の言葉が正しかったのか⋯⋯」
「エルバが、なんていったのですか!?」
「あの日、いつも通りにお前を連れて帰ろうとしたら、衛兵に囲まれて事情を聞いたんだ。王も私も、そんな事はないと何かの間違いだと思い、姫の回復をまったんだ。そして、目を覚ました姫の首にはスカーフが巻かれており、エルバが急に「私が姫よ」と狂言を吐いて殺しにきたといっておられた」
「そんな事はいわれておりません! 首を絞められ緩められたときに、「その身体を頂戴ね」といわれたんです!」
「なら、姫の首の跡は! もし、入れ替わる事が出来るなら、その身体を傷つける事はないだろう! お前は一体なんてことをしてくれたんだ」
「そ・そんな⋯⋯しんじてください」
上の方から階段を降りる音が響いてくる。
「姫! このような場所に、姫様が来るような事は!」
「大丈夫です。事の真相をハッキリとさせておかないと、皆のものまで混乱がきます」
「ですが!」
「お父様も忙しいのです。なら、姫である私がやらなければ誰がするというの?」
階段を降りてくる。
「エルバ⋯⋯」
私が目の前にいる ーー それだけで悪い夢を見ているようで吐き気がする程の眩暈がする。
こちらにに見向きもせずに、アンドロスの方にいく。
「おじさまに、聞きたい事があって参りました」
そういって書類を渡す。
「⋯⋯なんだ! これは! こんな物は私は知りませぬ!」
「そうはいっても、奴隷区のおじさまの館から見つけて参りました。これについて王が話をしたいとの事でご同行お願いしますね」
「ありえん! こんな事が! ワシはしっかりと務めてきたはず⋯⋯」
衛兵に両腕を掴まれて歩こうとするが、自分の娘を見ると、
「ま・まさか、お前なのか! エルバ! 勝手に奴隷商人みたいな事をしていたのはお前なのか!」
その目にはハッキリと怒りが込められていた。
「わ・わたくしは⋯⋯しりません⋯」
初めて向けられた、その目に怖気つく。
そのままおじさまが上に連行されていくと、クレア姫とエルバだけが取り残される。
「エルバ! あなた、一体なにをしたの?!」
「なぁに? エルバ。今の私は、誰もが憧れるクレア姫よ」
「あ・あなたっ、一体⋯⋯何を企んでるの?」
今までの人生で怒った事がない姫が初めて顔を歪ます。
「いいわぁ! その絶望の顔! 身体の芯から疼いちゃう」
そういうと自分の身体を弄る。
「やめて! 私の身体に、おかしいことしないで! かえしてよ!」
「大丈夫? 貴女はもうこの身体には戻れないわよ? 貴女より、この身体すっごい使ってあげるから安心して」
ニンマリと笑う。
「あ、そうそう。この駄犬返すわ。どうも本心で懐いてたっぽいのよね。姿じゃなくて残念だわ、心から嫌われちゃってたのよねぇ」
白かったはずの犬を牢屋の中に投げた。
「なんて事を⋯⋯」
元白い犬を掬いあげて口を耳に近づけるとヒュー⋯⋯ヒューっと微かに息をしている。
「私が可愛がってあげようとしたんだけど、噛まれちゃったからお仕置きしたのよ。まぁ、死んだら食べてあげたら? そこじゃあ、いい食事も出ないだろうしね。おっと、やる事たくさんあるからこれで失礼するわ。次に会うときは死刑のときかな?」
「じゃあね」とだけ言い、上に戻っていった。
「あ⋯ぁぁ⋯⋯まって! この子だけは助けてあげて! まだ小さいのよ!」
言葉は無視され、再び静観が訪れる。
徐々に温もりが失われつつある子犬を、胸に抱いて静かに佇んだ。
次の日には子犬は冷たくなっていた。
それからの記憶は酷く曖昧であった。
出された食事も粗末な物であり、精神的なショックが大きすぎた為、食事もしっかりと、とることはできなかった。
おじさまが戻ってきたら、罵倒と怒りと愚痴を散々聞かされた。
問題だった奴隷の裏事情は全てエルバがしていたみたいだった。
身体は痩せ、肌もボロボロ、髪ボサボサになった頃、もう一度姫が現れた。
「エルバとアンドロスおじさま。この度の奴隷の管理に対する傲慢な仕方については有罪になりました。然るべき対応として公開処刑を行います」
その一言だけを言って上に戻ろうとするが、エルバの方をみる。
「エルバ⋯⋯こんなに痩せてしまって、精神的にも辛かったのでしょう。けれど、もうすぐ解放されるから安心してね」
元友人として悲しそうに言ってるようだったが、その顔は満面な笑みだった。
衛兵達は、罪人にもお優しい姫を見て感銘を受けているようで、それも快感になっていた。
ただ、それでもエルバからの反応はもうない。
その反応に不服だったのか、やっぱり所詮はお姫様だったからなのか、簡単に心が潰れた姿を見て興味を完全になくした。
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ーー王の寝室ーー
エルバが牢屋に入り数日後。
王はこの奴隷区の事をできる限り調べていた。
いままで信頼してた者が、奴隷扱いをして殺害などをしていた事を未だ信じられずにいた。
それ程までにアンドロスを信用していたが、娘が次々と証拠を持ってきた。
奴隷を奴隷として扱わない事がこの国が誇れる筈なのに許せないといって積極的に調べはじめたのだ。
正しいのかもしれないが、やはりアンドロスが裏切る事をするはずがないと葛藤する。
その夜、寝静まっていると、テラスに人の気配がして眼が覚める。
月明かりに照らされて、お面をした女の子が立っていた。
ガバっと起き上がり、衛兵を呼ぼうとするが口を指先で抑えられ、もう1つの手で自分の口にもっていき静かにと伝えてくる。
一瞬でここまで音もなく瞬時に移動したのだ。
「申し訳ありませんが、お話をしにきました。ですから黙って聞いて頂けるとたすかります」
観念してコクンと頷く。
「して、何用か? 暗殺者であったならば、もう事はすんでるはずだろうしな」
「初めまして王様。私は異世界から来ました宵宮 枝葉といいます。以後お見知りを」
「宵宮枝葉だと? あの初代勇者が語っていた人物なのか?」
「はい。合ってると思います。今回は、こちらの名前で紹介しましたが、この世界の名はメルディスです。宵宮の名前を出した方がすぐに交渉できるとおもいましたので、特殊な場合以外はメルディスとお呼びください」
「まぁ、普通なら宵宮枝葉の名はださないだろうな。本人かも判断しかねる。して交渉とはなんのだ?」
「今、この王城内と奴隷区でいざこざが起こっている件ですが、私が関わりますのでご了承してほしいのです」
「なぜその事をしっているのだ? どこまでしっているのだ?」
「最初は奴隷のほうだけ調べていたんですが、ここまで繋がっていましたので。どこまでの質問は貴方達よりの誰よりもしってますよ」
「なら説明を⋯⋯」
「お断りします。正直にいえば、余計な事はしなくていいです。ただ、私が求める事は公開処刑の時に衛兵などは会場にいさしてほしくないんです」
「それはなぜだ?」
「全てを解決するからですよ。ついでに実験なども含めてですね。戦闘の可能性もあるので衛兵などはいれてほしくないだけです」
「それを信用しろというのか? たったいま出会った其方を」
「ん〜それもそうなんですが ーー 」
お面を取り外し、素顔を見せる。
「私を鑑定してみてはどうですか? お面も勇者の言ってる物か調べて貰っても結構ですよ」
月明かりも照らされており、彼女の微笑みはとても神秘的で美しかった。
(可愛い声をしているとおもったが⋯⋯素顔もとても可愛く、そして美しい ーー いや妖艶さも感じる。
「いや構わぬ。要する我はこのまま道化を演じろっということであろう。そして衛兵を呼ばなければ迷惑にもならないと」
「そうですね。迷惑ではないですが余計な被害がでそうなので」
「初対面の者に、ハッキリ言われるとはな。しかも一国の王である儂相手に」
「私にとっては、一国の王といえどなんら変わりない、人間の内の1人しか感じてませんよ。もっとふさわしい人がいるかもしれませんし、貴方が最高なのかもしれませんが、そこらは運命なのでしょうね」
「お主が王になってみたらどうなのだ? 儂なんかより上手く回すのではないか?」
「ふふっ。そうかもしれませんが、興味すらわきません。さて、そろそろおいとまさしていただきますね」
ゆっくりとベットから後退すると、いつの間にか傍らには白い大きな狼がいた。
「迎えにきたの? 気にしなくてもいいのに」
そういうと宵宮枝葉はこちらを向き、この問題が解決した後に、再びお伺いするかもしれませんとだけ言うと、小さな稲妻が彼女の周囲を走ると同時に姿が消えていった。
時間にしてみれば十分にもならない時間だったのだろう。
鑑定してみてもよかったが ーー しても意味がないのだろう。
大袈裟になっていった勇者の話と誰もがおもっていただろうが、こうして本人を目の当たりにすると実感する。
人であるが人では無いような不思議な女の子であったと。
エッチ部分はこれぐらいなら問題ないよね。
どこまでがアウトの線引きかかいてみないとわからないのでとりあえずはこんな感じですorz
エルバの能力の解説は次回にでも




