どんな本でも表紙は可愛い
────上谷は絶句していた。
先ほど勢いよく「まかせろ!」なんて言って家に入ったのはいいもののその先の部屋で家族が泣いているのが見つかってしまったのだ。
ノリがいいのだか、呆れた方々なのだか。考えるのを止め、ただただ絶句する。
────しかし幸いにもベッドの下の方は見つかっていない。と言っても今にも動き出しそうな家族の横を音を出さずに通り、エロ本をバレずにとるのは至難の業。
カンガエル?ナニソレオイシイノ?───と言わんばかりになるがままに動くのは、透明化歴数年のベテラン臭も感じさせるものである。
────。
まず結果として、『彼は死んだ…』。
あと1歩ではあったのだが、部屋を出る直前に浮いているエロ本を目撃されてしまった。1度それを置いてどうにか使用としたが、それは遠く、母親の腕の中に優しく包まれてしまった。洒落にならないとか言ってた『筐がエロ本』がしっかりと成立してしまったのだ。
「…」
もう言葉もない。全てが無駄になってしまったのだ。水の泡というのか、骨折り損のくたびれもうけというのか、とにかく言葉が出ない。気力が出ない。結果的に何も出なくなってしまった。
「すみませんでした。」の一言を最期に物分りのいい彼が黙り込んでしまった。
全くどうしたものか。どうせなら、「全く別の事考えてて返事できませんでした。」的なちょっとした勘違いオチなんかを期待したいのだが、そんな気配は3cm足りとも感じられないのだ。
「そこを…左です…」
小声でそう言うと、彼は先程の仕返しか前に歩く。
「そっちじゃないですよ!?」
方を掴み、顔をみると、何やら耳から線が…『イヤホン』
「?、!?」
彼は妙に驚いたような顔でこちらを見つめ、カナルイヤホンを耳から外す。
「あのぉ…左です…」
「あっ、すみません。聞こえなくて、ていうか、本は持ってこれましたか?アレあげますよ!」
────と。勘違いオチである。しかも貰えるとなれば無くても良い。ありがたい。
「ありがとうございます!僕あれ気になっていたんですよ!」
一応気になってはいたが、心が痛む────。
傷んだ心をさておき、彼らはまたもや走り出す。