いくら禁じてもネクロフィリアにはなれる気がしない
世界観わかります?
「まずは自己紹介だ。とりあえず僕の名前だけ───僕の名前は 蒔田橙 だ。」
「海藤颯太です。」
安定の自己紹介である。
「まずだ、前提として性癖が完全に変わると特殊な能力を得ることができる、ということを頭に入れてもらいたい。」
「…え?」
蒔田の言葉に海藤は唖然とした。一切現実味の無い話に全くついていけないのである。
「特殊能力の種類は能力保有者の分だけある。似ていても少しずつ違う。」
「…」
「そして、君がここに来た理由だが4年前の゛高山製鉄所大量殺人事件゛を覚えているかい?」
「はい。」
────高山製鉄所大量殺人事件。死者67名、重軽傷者135名を出した、世紀の大事件である。作業員1人が突然暴れだし、それを止めに来た従業員、警察関係者を斬殺し、最終的に犯人が射殺された。
「あれは、表向きには犯人は薬物中毒者ということになっているが真実は違う。あれこそカマイタチのような特殊能力を手にいれた能力保有者が何らかの理由で暴走したのが原因だ。事実、生存者の何人かは犯人が触れずに人を切っていたという証言がある。」
「な、なるほど…」
内容が突然すぎて言葉を聞くことに精一杯だった。
「そして、その事を政府も把握した。それが3年前の事だ。そして、また同じような暴動を恐れ、対策室を設けた。これと同時期にこの現象の理由を突き止めた。」
「…」
合いの手を入れる余裕もない。
「きっと、性癖が変わるって所に疑問を持ち始めた頃だろう。実は、性癖ってやつは、普通は変わるんじゃなくて増えてる。」
「…」
マジか…である。
「話は戻るが原因を突き止めた対策室『武装警察組織』──通称『武警』は特殊能力の保有者を秘密裏に捕獲、抹殺、人体実験を始めた。」
「…」
信じられない───いや、信じたくない。
「そして、身の危険を感じた特殊能力保有者達は身を隠し何人かが集まった。だが、武警もバカじゃなかった。突然の行方不明者の案件を特殊能力保有者絡みの案件として取り扱うことにより行方不明者の半数の確保及び抹殺を成功させた。」
「…」
聞きたくなかった事実である。『世の中、知らない方がいいことがある』というのは本当なのだと実感する。
「結果、特殊能力保有者は大きく2つの勢力にわかれた。一方は我々が所属する『モーゲンザナ』。そして、もう一方は『 ドンクレナット 』。前者は特殊能力保有者を分割し、全国に散らばらせ、社会に浸透させている。後者は自身の存在自体を隠し、隠密行動を遵守する集団。この2つの勢力と武警、計3つの勢力ができた。」
「…」
やっと理解が追いついてきた。
「ここで、話を今に戻そう。今話した状況の中で困ったことに、『人に触れると人の性癖を変えてしまう』という自爆能力を持つ人が出現し始めてしまった。」
彼はそう言って、目を細め、絶対零度並の冷たさを帯びた視線で上谷に視線を向けた。
「い、いや、仕方ないじゃないですか!?経緯を話したばっかりですよ!?」
「いやー、でもなー、お前がヘマするから彼がここまで来たんじゃないかーぁ?」
「そんな事言われても困りますって!」
「でもなー…」
…辺りは静まり返る
「ゴホン、話を戻そう。恐らく勘づいているだろうがその通り、こいつ、上谷がその迷惑能力の保有者だ。」
「────…」
マジか…である。いつかの「僕に触れたか」という質問はそういう事だったのかと。今更知った全否定したい既成事実を嘆く。
「ここに来た理由は分かったかい?」
分かりたくもないが知らないふりをしてこれからどうにかなる自身もない。
「はい。」
素直に、率直に、しっかりと『はい』
「それでだ、先程も言ったように特殊能力は何種類もある。まあ、簡単に部類すると2つ。これは僕が勝手に分けているだけだが、自身に影響する能力か、他人に影響する能力か。僕の場合は前者の方だが、実戦にも使える。それに対してあいつの能力は相手に思いっきり影響する能力、つまり後者だ。まあ、もう一つの方は自身に影響するんだがな…」
「なるほど。そういえばその、能力?っていうのはどう識別するんですか?」
ご尤もな質問だ。そんなもの自分でわからない。
「その能力を使えば分かる。」
単純明快な答えに唖然とする。使うって言ったってどうすればいいのかなどわからない。
質問の結果得られたものは決して『答』などではなく、更なる不安と『問』だけだった。
「まあそれは別のところd────…」
蒔田の話を遮り、ベストの男が
「どうやら話の続きは先延ばしになりそうだ────」
と一言。
瞬間全員の目つきが変わる────。
分からなかったらすみません