第9話、うまいご飯を作るには高級な素材を使うのが一番手っ取り早い
テニス部との部活戦争に勝った科学部は、部費1万円の使い道について少し話し合っていた。
部長曰く、2年生はもう十分な部費があるので今回勝ち取った1万円は1年生が自由に使っていいらしい。
今回は戦争に参加した俺と高橋で半分ずつ山分けすることにした。
「これだけ部費があればしばらく問題なく活動できるから、次勝った時は私に振り分けることは考えなくていいよ。」
と高橋が言ってくれた。まあ5千円もあればあのサイズの畑で園芸やるには十分だろうしな。
「さて、できた、みんな、飯ができたぞー、1年生も遠慮しないで食ってくれ!」
野村先輩が収穫した野菜を使って何か料理を作っていた。
先輩がフライパンから何か炒めたものを大皿に盛り付ける。盛り付けられた料理を見てみると、そこにはキャベツの炒め物と千切りキャベツが…
「キャベツの味噌汁もあるぞー!」
先輩が机の下の収納スペースからコップを取り出して味噌汁を淹れる。
どこまでもキャベツ、オンリーキャベツだ。
「いただきまーす!」
先輩達がもしゃもしゃとキャベツを食べ始める。
「おお、うまいぞ!」
「そりゃあ採れたてだからな!」
野村先輩が嬉しそうに笑う。
「1年生も遠慮せずに食っていいぞ!」
野村先輩がそこまで言うなら食べてみよう。
「うまい。」
「おいしい!」
素材の味しかしないが、キャベツ自体がとても甘い。高橋も笑顔を見せている。
「良質な食材をイマイチに調理、結果的にうまい。これが科学部メシのモットーだ。」
野村先輩がなんか残念なことを言ってるが、美味しく料理を頂いているので「あはは…」と愛想笑いだけは返しておこう。
こうして、本入部してから最初の部活はロボコン関連での進捗は部費以外ではほとんどなかったが、まあまあ楽しく過ごすことができた。
次の日、教室に入り自分の席に着く。
昨日は1年生にとっては初めての部活戦争だったのでクラスではその話題で騒がしくなっていた。
隣を見ると、高橋の隣に女子が集まっている。
「高橋さん聞いたよー、昨日の科学部の部活戦争で大活躍したんだって!」
確かに科学部の童貞の股間を全て反応させる大活躍をしてたな…
まあ確かに昨日は高橋の技能がながったら危ないところだったが。
「いや、そんなんじゃないよ〜。先輩達がすごくってね。」
高橋が照れながら謙遜している。
朝から幸せな気持ちになっていると
「よっ!紫音聞いたぞ!お前昨日の部活戦争で科学部のピンチを救ったんだってよ!」
隣のチャラい茶髪が馴れ馴れしく名前で呼んでくる。まあ俺もまだ名前を覚えてないからチャラにしておこう。
「いや、そんなんじゃねーし、先輩達がすごくってさー。」
俺も謙遜しておく。まあ実際高橋に比べて俺はほとんど活躍しないままやられちゃったしな。多分昨日実際に戦った時間は3分にも満たないだろう。
「いやー、ウチの先輩が相手の技能の正体を突き止めてくれたからやっと勝ったと思ったんだけどねー、まさか紫音に一杯食わされるとは思わなかったよ。」
茶髪の前にいる眼鏡が言ってくる。後で知ったのだがコイツはテニス部だったらしい。
ただテニス部はまだ高橋の技能と昨日俺たちがピンチになった理由を正確に把握してないようだった。
「まあその後俺が紫音のバッチを奪ったんだけどね。」
あー、そう言えばそうだった。なんか揉みくちゃにされてよく覚えてないが、俺のバッチを奪ってドヤ顔を浮かべてたヤツがいたなー、なんか見たことあると思ったら…
どうでもいいが、クラスでの俺の呼び方は紫音で定着しつつある。まあ杉田なんて平凡な名字だしな…
「おーい、HR始めるぞー、席に着けー。」
先生が入って来た。この学校での1日が始まる。
「今日の相手は陸上部です。」
今朝陸上部から宣戦布告が来たらしい。部活開始前に宣戦布告された場合は放課後30分後に戦争が始まる。
「今回も昨日と同じメンバーで、行きます。ただ、今回の戦場は校庭のサブグラウンドです。1年生のみなさんは気をつけて下さい。」
「「はい!」」
ただ、俺も昨日のようにちょこっとだけ戦ってやられる気はない。
昨日見つけた課題を解決するするために昨日のよるアレやコレやと頑張ったのだ。あとは部活戦争が始まるまでの残りの30分で仕上げれば俺は今度こそ高橋を守ることができる!
俺はバッチを制服に取り付ける。さいきん分かったのだが、バッチには肉体をタフにするだけでなく技能の発動を制御する機能もある。
つまり、バッチを付けないと技能が使えないのだ。
俺はカバンから荷物を取り出す。
「技能、機械工。」
俺は戦いの支度を始めた。
部活戦争の勝利条件は2つある。
1つは、制限時間である1時間を過ぎたところで、残った部員の数/最初に戦争に参加していた部員の数が多くなること。
2つ目は、部長がバッチを奪われることだ。
科学部では部長が後方支援に回っているのには部長を守るためと言う目的があった。
今回の戦いの舞台は小さめのグラウンドだ。
そのため、昨日のようなじゃがいも結界は使えない。
しかし、相手は陸上部。砲丸投げの砲丸やら槍投げの槍やらが飛んでくることが予想される。
そのため、今回の俺の役目は部長と高橋の護衛だ。
前回と違って今度は近接戦闘用の武器も用意してある。
今度こそは活躍してみせる!
「それでは、部活戦争を開始します。」
グラウンドの奥から陸上部の集団が走ってこちらに向かってくる。
「陸上部は機動力に優れています。相手の横や背後に回りこんでタックルを仕掛けてきます。今回は乱戦になるでしょう。杉田くん、その辺りもよろしくお願いします。」
そんな部長の言葉を思い出す。後ろからの攻撃には十分気をつけよう。
「技能、理科準備室。」
部長が次々に部員に武器と言うか部活のおもしろおかしな備品を渡す。
俺には昨日のプラモデルと、人間の腕くらいのサイズの金属製の機械を受け取る。
「技能、命令」
俺が機械に触ると、機械が縦にグワッと開く。そして俺はその空間に腕を入れる。
俺の腕に金属製のガラクタが装着された。
無理やりくっつけた鉄板がところどころ飛び出し、鱗のようになっている。
「行くぞ、多機能型20ミリ単装砲!」
気合を入れながら俺はガシャガシャ言う右手を持ち上げる。
俺が技能によって右手の機械に命令すると、右手の手の甲の部分が飛び出してターンテーブルと小さな砲塔が出てくる。
「ファイヤー!」
俺は砲塔から部長に生成してもらった弾丸を前方から迫ってくる陸上部に撃ち出す。陸上部の何人かに命中し、すっ転んだ。
更に俺はプラモデルの戦闘機に命令を組み込んでいく。前線で出張る先輩を支援するためだ。適当に奥の方へ飛んで行ってから機銃掃射や爆撃をしてもらうように命令する。
陸上部からも攻撃が、と言うか砲丸や円盤や槍が飛んできた。
俺は部長から眼鏡のようなものを受け取ってかける。そしてポケットからスマートフォンを出し、右手に機械工を使って埋め込む。
眼鏡越しに宙を舞う槍や円盤を見ると、槍や円盤が四角い光で囲まれている。
右腕の砲塔を撃つと、ターンテーブルが動いた感覚と共にアバウトに狙いをつけただけで空を飛ぶ槍に命中した。
戦争開始前に作ったもう一つの武装だ。
スマートフォンのカメラや演算能力を使い、右手の砲塔の残弾数などのデータを表示したり右手の砲塔の照準装置等の機能を持った眼鏡を作っておいた。
これによって、銃を扱った経験のない俺でも正確な射撃ができるのだ。
こうして相手の飛び道具を相殺することもできる。
右手にはまだまだ機能が隠されている。
今回は活躍できる予感を覚えながら俺は黙々と右手の砲塔を撃ち続けた。