第3話、説明を自分で読んだり見たりするのはダルいけど説明を他人から聞かされるのはもっとダルい
第三話
「それでは、演示実験を始めまーす。」
眼鏡をかけた男の先輩が言う。
……確かこの先輩だったよな?俺のことかわいいとか言ってたの……
先輩が粉塵爆発についての説明をする。
どうやら、空気中に小麦粉などの粉が大量に舞っていると少し火を付けただけで急激に燃え広がるようだ。
「じゃあ、実際にやってみます。」
小麦粉が入ったスーパーの袋からゴム管が伸びている。横には火がついたガスバーナーがある。
スーパーの袋とゴム管の間には少し隙間があり。そこに火をかけた状態でゴム管から息を吹きかけて小麦粉を吹き飛ばすことによって粉塵爆発を起こそう、と言う実験だった。
ゴム管とスーパーの袋の間に火を付けたガスバーナーをセットした瞬間に先輩がほふううううう、と息を吹きかけるとスーパーの袋が勢いよく燃えた。
「と、まあこんな感じです。」
拍手が湧き起こる。
粉塵爆発、と言うよりは粉塵燃焼、という方が適切な気もするが。初めて見る粉塵爆発に俺も密かに興奮していた。
この後俺もやらせてもらったが、実際にやってみると息の吹きかけ方が難しく、なかなか成功しなかったが、
「この袋にゴキブリを入れた状態で粉塵爆発を起こしたらゴキブリは生きてるかな?」
とサイコなことを考えながら一発で粉塵爆発を成功させていた人物もいた。
ちなみに下田の場合は息が強すぎてガスバーナーの火を吹き消していた。こわい。
あと高橋が吹いた袋とゴム管を先輩が大事そうに抱えてどこかに持っていったのが気になる。あとで俺が回収しておこう…
「ところで、さっき畑が見たいって言ってたよね。」
「あっ、はい。」
「なら行こうか、ついでに少し重要な話もある。」
「何から話そうか…」
髪の毛がモサっとした先輩が廊下を歩きながら話を切り出す。
顔立ちがいいから髪の毛を整えればすごいモテそうなのに、モサっとしたキノコみたいな髪のせいで台無しだ…
「えっと、ロボコンやりたいとか言ってたのは君?」
「あっ、はい。」
「ロボコンってロボットのパーツ買ったりとかしてお金かかるんでしょ?」
「まあ、そうですね。」
「うちでロボコンなんてやりたいって言い出したのは君が初めてだから、多分パーツとかは1から集めることになると思うんだ…そしてそのためには沢山の部費が必要になる。」
「はあ…」
生返事してしまったが、結構深刻な事態だ。
もしかしたらロボコンができなくなるかもしれない。
「でも今から説明する、部活戦争、ってのをやればその問題が多分解決する。」
「「「部活戦争?」」」
俺と高橋となんかついてきた下田の声まで重なる。
「簡単に言うと、部活同士で戦争するんだ。」
「そのまんまですね。」
「いろんな部活が、その部活の個性を生かした攻撃や戦略で戦争を仕掛けて勝つ。するといいことがある。
「いいことって?」
「部費が10000円くらい貰える。」
いい金額なんだけど、さっき大量の諭吉さんが「金欠」の文字を描いてたしそれがあれば部費は十分な気がする…
「ちなみに、さっき机に置いてあったお金は去年勝ち取った金額で今年の予算に使う物だ。全部使い道が決まってる。」
……なんだよ……まあそんなことだろうとは思ってたしいきなり新入生がウン十万もの部費を使うのは正直問題だとは思うけどね。
「つまり、その部活戦争で勝って部費を貰えばロボコンに必要な費用が集まると…」
「そう言うことだな。」
なんだか変な事になってきた、とりあえず湧いてきた疑問をぶつけてみる。
「でも、戦争って具体的にはどうやってやるんですか?」
「そうだねえ…例えば野球部ならバットを振り回してストレートを投げてきたり、吹奏楽部だったら楽器で殴ってきたり…」
想像以上にワイルドだった。
ってか楽器で殴って戦争に勝ったとしても楽器の修理代の方が高くつきそうだぞ…
「それって、危なく無いんですか?」
俺が唖然としてる間に高橋が聞いてきた。
まあ女の子がバットやら楽器で殴られるのはよくないしな、男でもよくないけど。
「大丈夫大丈夫、ちょっと待ってて。」
そう言うと先輩はおもむろにポケットから小さなバッチのような物を取り出し、学ランに付ける。
「そこの肩幅が広い君、全力で俺を殴ってみて?」
「と、突然なんでごわすか?」
いくら肩幅が広くても初対面の先輩に全力で殴るのはちょっと無理があるだろう。
「大丈夫だから、ほら、一思いにやっちゃって。」
先輩も先輩だ、下田のパンチなんか食らったら多分しばらく起き上がれないぞ。
そんな命知らずな先輩と下田のやり取りがしばらく続いたが、先に折れたのは下田だった。
「しゃあ、いくでごわすよ、ごわあああああああす!!!」
下田の強烈なパンチが先輩の胸の辺りにヒットする、そして先輩が吹っ飛ぶ。
……吹っ飛ぶ?!
そして壁に激突する先輩。ほら言わんこっちゃない。
「ふぅ、まあこんなもんか…」
しかし先輩は少しもダメージを受けた様子はない。
いやこんなもんかじゃねーよ。
これはどういうことだ?
先輩がめちゃくちゃ強いのか、それとも実は下田が見かけによらずめちゃくちゃ弱いのか。
いやでも先輩吹っ飛んでたから後者はないか…
「とまあ、こんな感じでこのバッチを制服に付けてる時は体の耐久力がぐんと上がるんだよ、他の能力も少し上がるけど。」
下田に殴られると吹っ飛ぶと言う事実と謎のバッチについての説明が頭に入る。
今後下田は怒らせないようにしよう…
「そしてこのバッチは戦争の勝敗にも関係してくる。戦争に参加している部員は、戦闘中にこのバッチを相手に奪われるとその戦闘の間はもう戦闘に参加できなくなるんだ。」
「つまり、相手の部の部員のバッチを全て奪った方が勝ちとなると言うことですか?」
「そうなるね。」
なんとなく読み込めてきた。
「それで、これから君たちには少しその辺の事を体験して貰おうと思う。」
そこまではなかなか読み込めないぞオイ。
「まあ畑に行くついでだ。」
俺達は畑を案内されるついでに洗礼を受けるのか…