第2話、人はかわいいものを見るとうぇへへってなる
入学式が済み、この学校の部活についての説明とプレゼンである部活オリエンテーションが始まった。
様々な部活がおもしろおかしく自分たちの部活を紹介していく。
そんな中で気になる部活が一つ見つかった。
「えー、僕たち科学部は、自分たちがやりたいことを見つけてそれを実行して行く部活です。」
どうやらこの科学部は自分たちで科学に関連したやりたいことを自由にやっていく部活らしい。
と言うことはらロボコンができる可能性があるかもしれない。
ロボコンだって科学に関連しているだろうし。
今日から仮入部もできるみたいで、新入生の興味を引くために実験もやるらしい。
どうやら高橋さん以外にもこの学校に通う理由ができそうだ。
部活動オリエンテーションが終わり、教室に戻ってきた。
まだ先生が来ないし折角なので高橋さんとの交流を試みる。
「部活動オリエンテーションがあったけど高橋さんは入りたい部活とかあった?」
「あの、科学部ってあったよね?そこならもしかしたら園芸ができるかも知れないし、今日見てみようと思っているんだけど…」
高橋さんの話す言葉から敬語がなくなっている、打ち解けてくれたのかな?
「俺もロボコンができそうだから科学部に入ろうと思ってたんだ!偶然だけど同じだね!」
「なら、一緒に科学部に行ってみる?」
俺は明日死ぬのだろうか…入学初日にして美少女からのお誘いを受けている。
「ならワシも付いていきたいでごわす」
「うわああああああああああ!!」
突然前の肩幅が広い人が振り向いてきたので思わず叫んでしまった。
ヤバい…明日と言わずに今すぐ死ぬ!
ってかごわすってなんだよごわすって。
「失礼、ワシの名前は下田刃三郎と申す。刃に三郎と書いてじんざぶろうと読む、よろしくお願いするでごわす。」
「お、俺は杉田紫音。」
「私は高橋花音です。」
「それで、お二方は科学部へ仮入部に行くと申したでごわすが?」
「あーうんそうだけど。」
「それならぜひワシもご一緒したいが、よろしいでごわすが?」
「うん、まあいいけど…」
こうして、三人で仮入部に行くことになった。
自己紹介やらホームルームやらも終わり、俺たちは科学部の仮入部にやってきた。
「部室って、ここかな…」
俺たちの教室がある建物とは違う建物の4階の廊下の奥に部活動オリエンテーションで紹介されていた科学部の部室があった。
「入ってみましょう。」
高橋さんがそう言うなら入ってみよう
「すみませーん」
「おっ、新入部員が来たぞ!」
「うおっ、あの子めっちゃかわいいぞ!」
「ほんとだ!とんでもない美少女だ!」
「いやそうじゃなくてその右のひょろっとした男の子。」
「お前性別と状況考えろ、折角の新入部員が逃げるぞ!」
科学部に入って1分も経たないうちに不穏な発言が聞こえたが、朝とんでもない美少女である高橋さんに話しかけたことによって多少の物事には動じないメンタルを得た俺は部室の奥へと進んでいく。
しかし、個性的な部室だ…
学校の理科室でよく見かけるような4〜5人は席に着くことができる机が6台並んでいる。
その上はどれも様々な物で散らかっていた。
フラスコや試験管などの実験器具やらまな板や鍋やフライパンなどの調理器具やらが散乱している机や、パソコンと無数のプリントが散らかってる机に、なぜか麻雀の雀卓が置いてある机、何か生き物を飼っているのか、中が緑色になった水槽が置いてある机もある。
極め付けは、たくさんの一万円札が並べられ、「金欠」という文字を描いていた机だ。
ぱっと見30万円はありそうだ、「金欠」という文字は1ミリもふさわしくない。プッチンプリンが数千個買えそうな金額だぞ。
「いやあ、すまない。一応新入部員が来る前に片付けはしたんだけどね。」
これで片付けたのかよッ!ってツッコミはとりあえず心の中に仕舞う。仮入部開始から数分で先輩に容赦ないツッコミを浴びせるほどの度胸はなかった。
「とりあえず、仮入部に来た子はここの紙に名前とクラス書いてって。」
俺たちは仮入部の手続きを済ませる。
「ある程度人数が集まったら、実験始めるから座って待って。」
「なんか聞きたいことあったらどんどん質問してくれ。」
そう言うなら先輩のご好意に甘えて聞きたいことを聞いてみる。
「あの、この部活って科学に関連した事ならなんでも自由にできるんですよね?」
「うん、まあそうだけど。」
「なら、この部活でロボコンをやる事ってできますか?」
「うーん、多分大丈夫なんじゃないかな?」
「正直最近は科学に関係ないことばっかやってるし。」
「この前も部室でバドミントンして試験管割ったし。」
なんて自由な部活なんだ…自由の代償として備品が壊れたようだが。
「そうなんですか、ならこの部活に入ろうかなと思います。」
先輩の不穏な発言を営業スマイルと入部宣言でやり過ごす。
「やったぞ!新入部員第一号だ!!」
先輩方が喜んでいるが少しリアクションが取りづらいので話題を高橋の方に移す。
「ところで、高橋さん。なんか園芸やりたいとか言ってたけど聞いてみたら?」
「うん、そうだね。あのー、先輩?確かこの部活には畑があるって聞いたんですけど園芸もできますか?」
そう言えば部活オリエンテーションの時に科学部には畑があって野菜を育てて調理して食べてるって話してたな。
「園芸かあ…うん、まあできないことはないけど食えない物を育てるってのは農耕民族の理念に反すると言うか…」
「いや別にいいじゃん園芸、これも大丈夫だと思うよ。」
「なら後で畑を見せて欲しいんですが…」
「いいよ、とりあえず実験の後で。」
とりあえず高橋の方は大丈夫そうだ。
「あの、ワシも聞きたいでごわすが…」
下田も便乗してきた。
「ワシはこの部活で金魚などの生き物を飼いたいのだが、大丈夫でごわすか?」
金魚か…下田が金魚を睨んだら脱糞させたりできそうだな…
「あー。それならあそこの水槽で飼ってるよ。」
「見てみたいでごわす。」
「残りの君たちも見てみる?」
失礼なことを考えてる間に話が進んでいた。
「そうですね。」
とりあえずノリに身を任せることにしよう。
「すみませーん。」
俺たちが金魚を見ていると人が入って来た。
「仮入部に来たんですけど…」
男の声と女の声が交互に聞こえる。
とりあえず仮入部の手続きを終え、彼らは先輩に質問する。
「ここなら科学に関連したことなら何してもいいって聞いたんですけど…」
俺たちと同じような質問をする。
心の中で、それっぽいことなら大体大丈夫だぞ〜。と伝えておく。
「ゴキブリの研究ってできますかね。」
訂正。それっぽいことでも部員にとって生理的に無理なことはやってはいけない。やめてください。
「うん、ゴキブリって可愛いよね、触覚がゆさゆさしてるとことか。」
俺や高橋や下田ですら固まってるのに先輩も先輩で乗り気なようだ。
ゴキブリを可愛いと思わなければ来年この部活で先輩ヅラすることはできないのか…
「じゃあ、この部活に入ろうと思います。」
ロボコンができるとわかった時の俺と同じくらいの速さで入部を決めたゴキブリの彼。
唖然としてる間に近い将来あの黒光りする生き物との出会いが確定してしまった。
「あの、杉田君…私やっぱ園芸やめようかな…」
高橋が怯えた顔を見せながら言ってくる。
怯えた高橋もかわいいな、うぇへへへ。じゃなくてこのままだと部活に入らずして退部の危機だ。
「ワシも金魚を飼うだけなら家でもできるし、やめておこうかな…」
下田も怯えた顔を見せながら言ってくる。
怯えた下田も…いやかわいくはないな、うぇへへへ。
ってかゴキブリに物怖じしなさそうな肩幅してるんだからゴキブリくらいで挫けないで頂きたい。
そうこうしているうちに何人か仮入部に来た一年生がやってきた。
「それじゃあ、ある程度人数が集まったし、実験するよ。今日の実験は粉塵爆発だ。」
あともう少し前置き部分は続きそうです。