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それからしばらくすると、彼女の口癖は「人魚姫になりたい」になった。

「人魚姫ってバッドエンドじゃなかった?」

私がそう聞くと、彼女は首をゆっくり傾けた。人魚姫。アンデルセンの有名な童話。小さい頃読んだ記憶がある。子供向け童話だというのにその結末は悲しい。人間の王子に恋をして、足のかわりに声を失い、最後には泡になって消えてしまう。それも王子様に想いを告げることもなく。到底、なりたいとはおもえなかった。

「そうだよー。でもなりたい」

「なんで?」

「告白して、ダメだったら泡になって消えれるじゃん」

「人魚姫は思いも告げられてないけどね」

私は梨沙子が冗談を言っているのだと思って笑った。メルヘンな思考が梨沙子らしくない。梨沙子も笑った。淡い笑み。それこそ泡になって消えてしまいそうだった。

「それでもいいの」

遠くに入道雲が見えた。夏が来る。彼女があまりにもさみしそうだったので、私は思わずらしくもないことを口にしていた。

「……あんたなら、大抵の男とは付き合えるでしょ」

「それでも、あたしの好きな人はあたしのこと好きにならないよ」

「なにそれ」

「その人、あたしのこと嫌いなんだと思う」

私は梨沙子のことが嫌いだけど、梨沙子のことを嫌う男なんて滅多にいなかった。

「気のせいなんじゃない」

「あはは、そうだといいな」

それに嫌いな私でさえ彼女が落ち込んでいると慰めたくなるのだ。さっきよりすこし明るく笑う彼女にほっとした。

「まあ、ソイツがあんたのこと傷つけたりしたら、あたしが仕返ししてあげるよ」  

「えっ」

 驚いたような顔をする梨沙子をみて少しだけ私も顔をしかめた。普段は絶対にこんなこと言わないのに。

「なおちゃんは優しいよね」

ようやくいつものようにからりと彼女は笑った。

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