2
幼馴染だった。だからいつも一緒にいた。だけど特別仲が良いというわけでもなかった。寧ろ私は彼女といるのが嫌いだった。
「なおちゃんはね、あたしの一番の親友なの!」
小さい頃などは梨沙子は折に触れて人にそういって回ったものだったが、年が上がるとともにそれもなくなった。
適当に男と付き合いすぐ別れを繰り返す彼女は私にとっては宇宙人だった。それでも何も知らないような無垢な笑顔で話しかけてくる彼女にいつからかそっけない態度しかとれなくなった。
それでも一緒にいたから、ずっとこれからも一緒にいるのだろうと思っていた。物事に明確な始まりなんてないけれど、もし変化の始まりと呼べるときがあるとすれば、それはそんなこと意識もしなかった春のこと。
「あのね、あたしね、本気で好きな人ができたみたい……」
咲いたばかりの桜の花みたいに笑いながら彼女は私にそう秘密を打ち明けた。胸の中心に墨を垂らされたような心地がした。黒いシミはじわりじわりと広がっていく。
「ふうん。……今までのは本気じゃなかったの」
「えっと、ううん……そういうわけじゃないけど、本当の自分に気づいたっていうか……」
彼女は可愛らしい顔立ちをしていた。そしていつだって大抵彼氏がいた。けれど、こんなことは、聞いたことがなかった。好きな人なんてできる気がしない、といつも言っていた。
「相手は?」
黒いしみはさらに全身に広がって今にも口からこぼれていきそうだった。どうして自分はこんなに梨沙子に対していらだっているのか。わからなかった。とにかく、思うままに彼女の笑顔を散らしたかった。
「え、えっとねえ……うーんひみつ!」
こんな顔を私は知らなかった。私の気持ちも知らず、彼女は笑う。甘い花の香りさえするような気がした。酔っているような、現実味の無い不快感が襲う。死ねばいいのに、心の中でつぶやいた。