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こちらから声をかけたのに彼女の容姿に見とれてしまい、私は言葉を発することを忘れていた。
彼女は何か言いたげに口を動かしているが声にはなっておらず、その時に私もやっと我に返った。
「さっきからずっとアイス見てるから何してるのかなって思っただけ。」
「あ・・・こういうアイス食べたことないからどんな味がするのかなって思って。」
「え!?アイス食べたことないの?」
「ソフトクリームならあるけど、ここに入っているようなアイスは食べたことないかな・・・。」
「へー珍しいねー。買って食べてみたら?美味しいよ?」
「・・・お金持ってないから。」
「お小遣いは?」
「私の家、お小遣い無いの。欲しいものがあったら親に言えば買ってもらえるから。」
「ふーん。ならさっき小遣い貰ったから一緒に食べよう。買ってあげる。」
「えっ!?いや悪いよ・・・。」
「別にいいよ。ちょうどアイス食べたかったからさ。」
「で・・・でも。」
「いいから、何が食べたいの?選ばないと適当に決めるよ?」
「えぇっ!?じゃ、じゃあ・・・これが・・・。」
駄菓子屋の前にある公民館の縁側で、私達二人は並んでアイスを食べた。
彼女はモナカのアイスを食べて『美味しい』と何度も言っていた。
食べながらお喋りした。
この頃の男子なんて、女の子と手を繋ぐどころか話えおするのも恥じらうくらいの年齢。
当の私も、学校ではその部類の男子に含まれる一員だった。
それなのに、まだ会って間もないその女の子と話すのは不思議と緊張することも恥ずかしくもなかった。
新しく建った綺麗な家がその女の子家だということを聞いたのは、私がちょうどアイスを食べ終えた時だった。。
あの家は、両親が長期休暇などで利用する別荘だと教えてくれた。
元々東京住んでいて昨日の夜に着いたばかりだということ。
仕事で忙しかった両親はまだ寝ているらしく一人で家の近くを散策していた。
初めて見た駄菓子屋で、食べたことのないアイスを見ていたところちょうど私が声をかけたところだった。
彼女の雰囲気は同じ年齢のはずなのに、私の通う学校にいる同級生の女の子達とはどこか違った。
可愛らしい外見だけではなく彼女の作る話、仕草、空間が好きでいつしか・・・いやすぐに彼女を守りたいと感じさせた。
今思えば何から彼女を守るのか。野良犬から?変なおじさん?はたまたガキ大将?
でも彼女と初めて会ってすぐに打ち解けてから、それから飽きることなく毎日遊ぶようになった。
今まで一人で遊んでいた私だったから、誰かと一緒というのは新鮮で時間の流れがいつもより早く感じた。
その流れの中で私は彼女に対する思いが大きくなっていくのがわかった。
出会ったあの日。海水浴に野山を探検。盆踊りに花火大会。
たった一か月ほどの休みで私の夏の思い出は、たぶん今までも、そしてこれから死ぬまでもの間でも一番多くの思い出を作った夏になったであろう。