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結局2、3時間しか寝れなかった。
このまま横になっているのも退屈なので、携帯と財布だけ持って外へと出た。
日中はあれほどまでにけたたましく騒ぐセミの鳴き声も、まだ聞こえない。
すでに明るくなっているものの街からは人の気配いは感じない。
公園や学校で遊ぶ子供もの声も、通勤客で賑わう最寄りの駅も、いつもなら座ることも出来ない電車の中も。
ひっそりと静まり返っている街には私だけなのではないか、なんて妄想してみたり。
まだまだ暑い夏。
お盆で帰省ラッシュはとっくに終わり、Uターンラッシュが始まっているころに私は世間の流れに逆らって田舎に向かっている。
夏の朝は好きだ。
日中に比べればそこそこ涼しく、辺りは明るいのに人影はなく静か。
喧噪に包まれたいつもの街とは違い、その非日常的な感覚は今の自分と似ていて時間が流れていないかのように感じる。
だが、今見える電車からの風景はどんどんと流れていく。
先ほどまでの私の思いとは相反するようで、当たり前のことだがやはり時間は流れていた。
乗り継ぎをして2時間以上電車に揺られていれば、目に入ってくる景色もさすがに変わってくる。
人工的な建造物群の灰色の世界は次第に薄れていき、空の青色と木々の緑色が作るコントラスト。田舎の風景。
祖父母の家は東京から二時間以上電車に揺られ、そこからさらにバスで一時間ほどの場所にある。
少し行けば北には山があり、南に行けば海がある。
コンビニやスーパーは無く、あるのは駄菓子屋くらいだ。
正に、田舎の中の田舎と言ったところだ。
祖父は亡くなっていて、祖母は叔母の住む近くの老人ホームで生活しているためにこの家は今はほとんど誰も訪れない。