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わかっていたがやはりあの子ではなかった。
私を呼んだ女性はあの子のお母さんだった。
言われてみれば確かに、あの時の雰囲気も面影も残っていた。
もう一人いた女性は思い出の子の親戚で、その子供を私が勘違いしたようだった。
だが、お母さんは『本当に似てるよね』と同意して笑ってくれた。
見れば見るほど似ていて、亡くなったっていうより寝ていたんじゃないか・・・なんてそんなことあるわけないのに。
「ねえ、××君。・・・○○のこと好きだったんだよね。」
「・・・はい。」
お母さんは立ち上がると、すでに太陽の沈んだ遠くの空を眺めた。
「もう20年も経つのに私も夫も未だに思い出すのよ。
・・・でも、私たち家族以外に思い出してくれる人がいるなんて・・・あの子は幸せね。」
私のいる位置からは背中しか見えないが、泣いているようにも見えた。
そして、お母さんは歩きだし停めてあった車に行ったかと思ったらすぐにこちらに帰ってきた。
私に向けて差し出したその手には、可愛らしい手紙があった。
「これ・・・あの子からあなたに向けた手紙なの。」
お母さんの言葉を解析するはずだったがのに私の三流の情報処理能力しかない頭は、許容量を完全にオーバーしてフリーズしてしまった。
お母さんの手にある手紙を見たまま時が止まった。
「○○に頼まれたの。渡してほしいって。」
「でもなんで今頃になって・・・。」
私の率直な気持ちが、処理が追いつかず口からそのまま飛び出していった。
私の気持ちは20年前に伝えた。
だが、その答えは二度と聞くことが出来ないと思っていた。
そう自分に言い聞かせた。自分自身を納得させた。
それなのに実際にはあの子は手紙なんか用意していた。
「あの子はね、××君のこと・・・ううん。
中を見てくれればわかるわ。あの子の形見だからって開け読んでしまったけど、これはあなたの物だからもらってちょうだい。」
私が手を出しあぐんでいると、グイッと私の手を掴み手の上に手紙を載せた。
「・・・せめてもの罪滅ぼしだから・・・。」