伝わらない熱視線 2
結果から言えば、イケメンさんと私のガッツリはまっていた視線は、その後すぐに外れた。
私がそらしたからだ。
どこからその勇気が出たかというと……
何故かイケメンさんが微笑ったのだっ。
無表情がデフォルメだと勝手に思っていたイケメンさんが、その切れ長の眼を和らげて微笑んだのだ!
その瞬間、私は思わず力一杯目をそらしていた。
でもすぐに私は後悔した。
逸らすにしてもこう……フェードアウト的にさりげなくやらなければならないのに、ビックリしすぎて風を切るほど勢い良く逸らしてしまった。
イケメンさんは今度こそ怒っただろうか?
いやいやそんな、目をそらしただけでいい大人が怒らないでしょう。
うん。
きっと。
多分。
……でもちょっとだけ確認しよう。そうしよう。
向こうももうこっちを見ていないだろうし。
そう、今度こそチラッと……
お、怒ってる〜! なんで〜?
イケメンさんはまだこっちを見ていた。
眉間に深~いシワを寄せて……うぅ。
確かに騒いだうえにジロジロ見たのはこっちだ。私達が全面的に悪い。だけどイケメンさん大人でしょ〜?!
そこは大人の余裕でスルーしてよっ。いえ、してください。
冷や汗ダラダラな私の目の前では、更にテンションを上げていくマナちゃん。
「あの人絶対に雪菜に興味津々だよっ。アッツイ視線を送ってるもんっ」
違うよマナちゃん。あれは熱い視線じゃない。凍える視線だよ。
「新しい恋のチャンスだねっ」
いや、私もう恋愛懲り懲りです……
そして気づいてマナちゃんっ、イケメンさんの眉間のシワをっ!
ほっとくとマナちゃんのテンションがどこまで上がっていくかわからない。だから私は声は控えめに、しかし手は力強くマナちゃんの袖を引っ張った。
「マナちゃんあんまり騒いだらお店の迷惑だよ。あの人がこっちを見てるのは私達が騒いだせいだと思うし」
「え〜」
「マナちゃんだって、よく知らない人にジロジロ見られて怒ってるじゃない。それと一緒だよ」
「ん〜? いやあれは違うでしょ」
「一緒だよ、こっちが静かになればあの人ももうこっちを気にしないって」
「そうかなぁ〜、あの人すごいユキの事見てるじゃん。絶対ユキが気になるんだって」
「ナイナイナイナイナイ、マナちゃんならまだしも私にそれはない」
「なんで、そんなことわかんないじゃん。いつも言ってるけどユキは可愛いよ」
マナちゃんが本気で言ってくれているのはわかるし、嬉しい。だけどマナちゃん、一度眼科に行っておいでよ。
可愛いというのは……眉間を寄せて唇を尖らせていても変わらない、その愛らしさを持つ君にこそ相応しい言葉なのだよ。
私だってマナちゃんが大好きだけど、マナちゃんは絶対親バカならぬ友バカだ。それをちゃんと知っている私は、彼女の言葉を真に受けることはない。私は自分をよく知っているのだ。
「ありがとう、マナちゃんも可愛いよ」
「知ってる。ユキ話をそらそうとしてるでしょ。何でよ、いいじゃん別に。今すぐ付き合うとかじゃないんだし、せっかく新しい恋の予感が向こうから来てるんだから、お知り合いになっちゃえばいいんだよ」
あくまでイケメンさんが私に興味がある前提で話していくマナちゃん。
とりあえずそれはもう放っておこう。
どうせもう会うこともない人だ。それより今は、マナちゃんにしっかり伝えておきたいことがある。
私は心持ちお腹に力を込めてマナちゃんに伝えた。
「マナちゃん、私は付き合うとかそういうのはもういいんだ。これからも好きな人はできるかもしれないけど、それで終わり。告白することもないし、機会があっても付き合うことはしない」
「は? え、何で?」
私の言葉を聞いたマナちゃんは、キョトンと目を丸くして私を見た。その後すぐに私がそう決めた理由に思い当たったのだろう。どんどん目をつりあげていく。
「茜と山田のせいねっ! あんな奴ら気にすることなんてないよっ。ユキがいるのに茜なんかに心変わりするなんて、あんな男、茜に弄ばれて捨てられるに決まってる。山田なんてユキが捨ててやったんだくらいの気持ちでいいんだよっ!」
「ま、マナちゃん落ち着いて」
興奮して声が段々と大きくなっていくが、ここはお店の中なのだ。マコさんはもちろんイケメンさん達もいる。
……何よりお兄ちゃんには絶対にこの事を知られたくない。
私の気持ちが伝わったんだろう、マナちゃんは気持ちを落ち着かせるように軽く息をはいた。