伝わらない熱視線 1
私達のケーキが半分になるまで一緒にいたお兄ちゃんだが、休憩は終わりと仕事に戻っていった。
私と一緒にその背中にヒラヒラ手を振っていたマナちゃんが、大きな眼をキラキラさせて、グイッと顔を近づけてくる。
なにごとっ!?
「ユキっ、ユキっ、カウンターにいる人たち見た?!」
「え? お店に入った時にチラッと背中は見たけど……」
「ヤバイ、ヤヴァ~イよあれはっ!」
「ま、マナちゃん、落ち着いて」
マナちゃんが私の肩を両手でガッシと掴み、その興奮から激しく揺する。
マナちゃん、私頭がもげそうです……
あ、せっかくのケーキもでてきそう……ウプっ……
「いや〜っ、なにあれ私の美形ランキング歴代1位だわ〜!」
「そ、そっか、良かったね、マナちゃん。でもちょっと、落ち着いて」
「あっ、ゴメン雪菜っ。大丈夫?」
ようやく私のもげそうな頭に気づいてくれたマナちゃんは、我に返ってくれると私の肩から手を放した。
よかった……せっかくのケーキをちゃんと消化できそうだ。
しかしマナちゃんのこの興奮ぶり……そんなにイケメンさんなのだろうか……?
私はちょっとの好奇心を我慢できずに、カウンターをチラ見する。
感想は一言。
何だあの人。
カウンターに座っていたのは、テレビでも見たことがないほど整った顔をした人だった。
茶色掛かった髪に健康的な肌。ビシッとスーツを着こなし、カウンターの下にある足はかなり長そうだ。薄い唇と切れ長の眼。そしてすっと通った鼻筋。完璧に左右対称に配置されている顔のパーツ……。
なにより、なんていうか溢れるオーラが半端ないです。
その彼の横に座っている人も、マコさんに並ぶイケメンさん。英国王子様みたいなマコさんとは対象的に、その人は純日本男子で硬派なイメージだ。
マコさんも硬派な人も、街で見かけたら二度見してしまう位のイケメンさんだ。
でもあのオーラバリバリの人はちょっと別格すぎる。私、初めて知ったけど……人間てあまりにも整った顔をしていると、こんなに怖く感じるのか……。
いや、待った。これはあのイケメンさんの無表情にも問題がありそうだ。
カウンターのイケメンさん二人組みを観察した結果。
私のあの人への第一印象は【すごいイケメンさん。でも怖い】で落ち着くことになった。
「ねっ、すごい美形だよねっ! いや〜、前々から陽だまり庵て美形の巣だと思っていたけど、お客まで美形なんてっ。これはあれね、此処は"美形ホイホイ"ってことなんだわ」
「そんなゴ◯ブリホイホイじゃないんだから」
興奮収まらないマナちゃんはさておき、今私はとてもドキドキしている。
その理由はラブな方ではなく、ヤヴァイの方で。
何故なら……私はその無表情なイケメンさんとバッチリ!! と目が合っているからだ。
うん、そりゃあジロジロ見ていたこっちが悪いし、もしかしたらこの騒ぎも聞こえているかもしれない。
でも、でもね。こう……知らない人間と目が合ったらさ、そらさない?
私はそらす、それはもう勢い良くっ。
なのに今はそらせないのだ。ものすっごくそらしたいのに、体がいう事をきいてくれない……なぜ……
この状況を例えるなら、今目を逸らすと頭からガブリとやられてしまいそうというか……。逸らした瞬間に何かが動いちゃいそうな……
いや、何がといわれたら困るんだけど。
そんな私とイケメンさんの状態に気付いたマナちゃんが、目をキラキラさせて体をテーブルの上へ乗り出した。
「ナニナニっ、ユキったら美形と見つめ合っちゃって〜。ラブの予感? キャ〜っ」
私の涙目に気付いていないマナちゃんは大興奮だ。うん、違うからね。
あっ、漸くこの心境を表す言葉が分かった! これは……あれだっ、蛇に睨まれた蛙!
この言葉をよもや体験するとは思ってなかったけど、実際それが一番近い。
……いやホント。お願いですからそちらから目を逸らしてください……