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二話投稿してます。

お手数ですが、一度バックをお願いします。

 突然ですが、最近の私は幸せすぎると思います。


 皇雅さんとお付き合いを始めて、もうすぐ三ヶ月がたつ。

 皇雅さんは毎週のように私を色んな場所に連れて行ってくれる。映画や遊園地。水族館や動物園。車で行ける有名所は、ほぼ制覇したんじゃなかろうか。

 たい焼きの美味しさを知った皇雅さんは、私も知らなかった名店を探してくれて、二人で手を繋いでお店に並ぶ――

 そんなことがすごく楽しい。


 社会人の皇雅さんと茜が知り合うこともないし、邪魔されることはない。


 そんな浮かれている日々を過ごしていたある日、学校で山田君に声をかけられた。

 山田君とは別れてからまともに会話をしていない。休み時間は茜が会いにきていたし、共通の友達も少ないから。


 学食でお昼を食べ終わって、廊下を歩いていると、後ろから「澤木」と呼ばれた。

 振り向いた先には、少しだけ気まずそうにしている山田君が、一人で立っている。


「山田君?」

「ごめん、ちょっとだけ話できる?」

「う――」

「出来ない!!」


 どうしたんだろうと思いながらも頷いた私の隣。私の言葉にかぶせて言い切ったマナちゃんは、私を背中で隠すように前に出る。


「俺は澤木に聞い――」

「だから無理!!」

「野原は関係ないだろっ」

「あるね!」

「何でだよ」


 最初はマナちゃんの勢いにのまれていた山田君が、段々不機嫌になってマナちゃんと言い合い始めた。これはまずい。

 後ろから何度もマナちゃんを呼んでいるのに一向に振り向いてくれないから、マナちゃんの腕を掴んで軽く引っ張ってみる。さすがに振り払われることはないけど、マナちゃんは止まってくれない。ええ~っ、もうどうしよう……

 弱りきった私の肩に、ポンと軽く手が置かれた。視線を向けた先の彼女は、私に方目を瞑って見せると、二人の間に体を割り込ませる。


 彼女。朱崎美也(あかざき みや)ちゃんは、三ヶ月前に私のクラスに転入してきた女の子だ。背中まである長い黒髪をいつも二つに縛っていて、その髪型と大きな黒縁眼鏡の影響か、パッと見とても大人しそうに見える。

 よく見ると眼鏡越しにも分かる整った顔に、マナちゃんより少し高い身長の彼女は、お勉強ができる子だ。特に数学は、マナちゃんと二人でよく教えてもらっている。美也ちゃんに対して、私の勝手なイメージを伝えるなら、委員長とか図書委員とかやっていそうな子。

 そんな美也ちゃんは運動だけ苦手らしい。それを教えてもらった私は、そこだけはお仲間だと美也ちゃんの手を握った。

 そんな彼女は、席が隣になったマナちゃんと、それはもう気が合ったみたい。マナちゃんつながりで、今では私とも仲良くしてくれる。


 その美也ちゃんが、にっこり笑って一言。


「うるさい」


 マナちゃんたちに比べたら小さな声量なのに、その声はとてもよく響いた。マナちゃんや山田君は、彼女の声にピタッと喧嘩をやめる。

 美也ちゃんは、マナちゃんたちに交互に視線を向けて、可愛い声で続ける。


「廊下の真ん中で揉めんじゃねえよ。そんなに注目集めたきゃ、裸にでもなって校庭で踊ってろ」


 にっこり微笑みながら言われた言葉に、マナちゃんたちは腰を引きながら謝った。二人の謝罪に一度大きく頷いた彼女は、私に向かって「で、ユッキーはどうしたいの?」と可愛らしく首を傾げる。

 声をかけられたことで、呆気に取られて呆けていた体が動き、私は山田君に視線を向けた。


「話って何?」

「ここじゃちょっと……」

「私達に聞かれて困るような話をするつもり?」

「だから野原は黙ってろよっ」

「おいコラ、また揉める気か?」


 腕を組んで山田君を見下ろすように背を反らすマナちゃんと、そんなマナちゃんに苛立っているような山田君を止めたのは、またしても美也ちゃんの一言。

 取り合えずマナちゃんを美也ちゃんに預けてしまうことにして、私は山田君に「いいよ」と返事をした。

 心配そうに私を見るマナちゃんに、大丈夫だよと笑いかけてから、ホッとした様に表情を緩めた山田君について行く。



 山田君が足を止めたのは、学食から少し離れた階段下だった。この上には音楽室や科学室なんかの特別教室があるから、あまり人がいない。


 こんなとこで何の話するんだろ?


 取り敢えず黙って立っていると、口を開いた山田君がまず言ったのは、美也ちゃんのことだった。


「あんまり話したことなかったけど、朱崎って……なんかイメージと違うのな」

「そうかも。でも凄くいい子だよ」

「あんな大人しそうなのに、よく野原と一緒にいるのが不思議だったんだけど……なんか納得した」


 ……んー、どう反応すればいいのか困るなぁ。


 私たちと仲がよくなったから、美也ちゃんは山田君とあまり接点がなかったんだろう。私は山田君の反応に苦笑を漏らしながら、「それで話って何?」と促した。

 とっても言い辛い内容なのか、山田君は小声で話し出す。


「あのさ。茜って……俺の前にも彼氏いたのかな?」

「え?」


 何で今更そんなことを聞いてくるのか分からなくて、私が首を傾げて聞き返すと、彼は視線を彷徨わせながら続けた。


「こんなこと澤木に聞くなって言われるかもしれないけど、俺、どうしても気になってることがあって……」

「気になるって、茜の元彼が?」

「やっぱりいたのか?」


 はっきりしたことは知らないけど、少なくとも山田君の前に二人はいたはずだ。他にいたかは知らない。私がそう答えようかどうしようか悩んでいると、ジッと私の様子を窺っていた山田君が、何かに納得したように一人で頷きだした。


「俺さ……実は茜が浮気してるのかもって疑ってたんだ」

「んん?」

「でも俺の前にもいたなら、ちっちゃい嘘ついただけかもしれないよな。うん。ありがとう澤木。俺すっきりしたわ」


 ……私は全然しませんが。


 いったい山田君は私に何を聞きたかったんだろう? よしっと気合を入れた彼は、笑顔で「ありがとな。それだけ聞きたかったんだ」と片手を上げ、足取り軽く去っていった。


 なんなの~~~~!?

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