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出会い 2

 "陽だまり庵"は、うちの学校から歩いて15分程の所にあるお店だ。昼はカフェスタイルだが、夜はレストランになってお酒も出る。

 夕方までのカフェの時間は、私達学生でも入りやすい雰囲気と超良心的なお値段。

 だから学校終わりは美味しいケーキ、土日とかはお洒落なランチを目当てに、マナちゃんとよく行く私達のとっておきのお店だ。

 このお店、いつ行ってもお客さんでいっぱいなんだけど、実は特に夜の部が女性に大人気なのだ。

 理由はいたって簡単。

 お店の店員さん達がビックリするくらいのイケメン揃いで、夜には店員さん目当てな気合の入ったOLさんがウジャウジャいるらしい……

 夜に行ったことのない私達が、何でそんなことを知っているかといえば、陽だまり庵でバイトをしている兄に聞いたから。

 私の兄――澤木春樹は、大学生になると陽だまり庵でバイトを始めた。

 最初は友達に頼まれて、数日代理に働くヘルプだったらしい。けど、さすがはお兄ちゃん。

 陽だまり庵の店長――マコさんに気に入られて、ヘルプ期間が終わるなり正式採用されたのだ。

 この間マコさんに教えてもらったけど、お兄ちゃんてば店員さんの中でもお客さんの人気が上位らしい。それも当然だと私が何度も頷くくらい、見た目も中身もとてもかっこいい、優しい自慢の兄だ。



 放課後になるなり、私達は膳は急げと陽だまり庵に向かった。カフェテラスもあるけど、私達はいつも店内で食べているから、空いてるといいねと話しながらお店のドアを開く。

 先にマナちゃんが店内に入っていくと、中からマコさんの穏やかな声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ」

「お久しぶりで〜す。マコさん、今日のオススメなんですか〜?」

「こんにちは」


 私もマナちゃんに続いて店内に入ると、マコさんがカウンターから声をかけてくれた。そしていつものようににっこり笑いながら、私達を席に案内するためにカウンターからでてきてくれる。

 白いシャツに黒いパンツ。それに腰に着けている長めの黒いエプロンは、このお店のユニフォームだ。いつも思うけど、この格好ってスタイルがよくなきゃ似合わない気がする。

 お兄ちゃんは勿論、マコさんもすらっとしていて手足が長いから、とても綺麗なシルエットになる。柔らかそうな金茶色の髪に、いつも微笑んでいる中性的で綺麗な顔。うん。マコさん目当ての常連さんが多いって話も頷ける。


「今日なら新作のケーキですかね。勿論チーズケーキもありますよ。ふふ、ちょうど一週間ぶりかな? 2人とも元気でしたか?」

「ハイっ」

「マコさん、今日お兄ちゃんシフト入ってますか?」

「ええ、今裏で休憩してますよ。声をかけましょうか?」

「あ、いえ、いいんですっ。あの、休憩させてあげてください」


 私の言葉で気を利かせてくれたマコさんの言葉に、私は慌てて手を振って止めた。せっかく休憩しているのに、特に理由もなくそれを邪魔しちゃお兄ちゃんに悪い。


「そうですか?」

「はい。ちょっと気になっただけなので」


 店内をキョロキョロと見回していたマナちゃんの袖を引っ張りつつ、マコさんに着いて行って席につく。

 マコさんから差し出されたメニューには、私の期待通りに季節限定の文字がある。思わず上がった私の口角に気付いたのか、マコさんが新作ケーキの説明をしてくれた。

 マコさんが話してくれる二つある新作ケーキがどっちも美味しそうで、私は決められずにうんうん悩んでしまう。そんな私に、マコさんが「タルトには雪菜ちゃんが好きなライチも乗ってますよ」と助け舟を出してくれた。


「じゃあ私、フルーツタルトをケーキセットで。ミルクティーにしてください」

「私はチーズケーキとアイスコーヒー」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」


 優雅という言葉が似合う足取りでカウンターに戻るマコさんの後ろ姿を、ハァと息を吐きつつうっとり見つめるマナちゃん。


「今日も素敵すぎるわ〜、目の栄養大量摂取〜♪」


 ルンルンの彼女だが、別にマコさんの事をそういう意味で好きな訳ではないらしい。

 このお店にくるようになった最初の頃。私はきっとマナちゃんはマコさんを好きなんだと勝手に誤解して、経験不足者なりに協力をしようとしたんだけど……そんな私をマナちゃんが笑い飛ばしたのだ。

 マナちゃん曰く。


「やだなぁ、ユキってば。イケメンは観賞用って決まってるでしょっ。モテモテの彼氏なんて持ったら、色々面倒な事が起こるに決まってるじゃん。ただでさえ私は可愛いからね〜、自分以外で面倒背負い込むなんて、雪菜以外ごめんだわ」


 心底嫌そうに顔を歪めた美少女の、最後の言葉が嬉しくて……。誰にも言ってないけど、この時の事を思い出すたびに幸せな気持ちになれる。でも、その場に一緒にいたお兄ちゃんは、私たちを交互に見ると、なんでか深い深いため息をついていた。

 マナちゃんの趣味であるイケメン鑑賞に、このお店は最適らしい。

 美人で優しいマコさんを筆頭に、個性派なイケメンさんたちのオンパレード。

 初めてここにきた時なんて、マナちゃんは上がりすぎたテンションに後押しされて、マコさんに「採用条件顔ですかっ!」と聞いていた。その質問に、マコさんは苦笑しつつ「たまたまこうなっただけ」と答えていたけど……

 類は友を呼ぶっていうのは、こういうことなのかと思ったものだ。


 私がわくわくとケーキを待っていると、マナちゃんがそういえばと、不思議そうに首を傾けて聞いてきた。


「雪菜、最近春樹さんと顔合わせてないの?」

「お兄ちゃん来年から就職する会社での研修や、大学も忙しいみたいで……

 バイトも今まで通り入ってるし、家には寝に帰る感じかな。大変そうだから私もバイト増やすって言ったんだけど、お金に困ってるんじゃなくて、陽だまり庵は趣味のようなものだからって。就職するギリギリまで、ここで働きたいんだって」

「趣味……もしかして春樹さん、ここでしか女にもてないのかも……イタッ」


 悪い顔でニヤニヤ笑った(それでも可愛いのは凄い)マナちゃんの後頭部を、スパンッと平手で叩いた精悍な美丈夫。その彼の片手には、私達が注文したケーキと飲み物を乗せたトレーがあった。


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