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「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「カフェモカをMサイズで」
「カフェモカをMサイズで480円です。
ご一緒にサイドメニューはいかがですか?」
お客さんの対応をしながら、ついつい今日のことを思い出してしまう。
やっぱりというか……学食から教室に戻るとみんなの視線がもの言いたげに突き刺さってきた。
それを無視していれば誰も私には何も言ってこないんだけど、遠巻きにこちらを見ながら話されてると、どうしても私達の事を話してるんじゃないかと勘ぐってしまって……嫌になる。
マナちゃんは、しばらくすれば皆も落ち着くだろうから気にしなければいいというけど、なかなか難しい……
しばらくっていつまでかなぁ……
仕事に集中しなきゃいけないとは思うけど、今日はどうしても雑念が多くなってしまってる。
そんな感じで仕事をしていたら、今日一緒のシフトに入っている社員さんに集中できていないと軽く注意をされてしまった……
私がバイトしているのはコーヒーのテイクアウトショップだ。
高校入学とほぼ同時に始めたこのバイトはもう一年以上やっている。始めたころは失敗ばかりで周りに迷惑ばっかりかけていたけど、集中できてないなんて注意されたことなかったのに……これじゃいけないな。
今はバイト中!ちゃんと切り替えなきゃっ!
そのあとはいつも通り接客していたら、お店の扉の開く音と一緒にビックリする人が入店してきた。
「makoさん?!」
「あれ? 雪菜ちゃん?」
新しく入ってきたお客さんは、makoさんと昨日陽だまり庵にいたイケメンさんだった。
あの私と目が合った後目をそらしてくれなかった人だ。
驚いている私のレジへ2人そろってやってくる。
あの…イケメンさんは隣の社員さんのほうへ行ってもいいんですよ?
ばらけたほうが早く商品をもらえますよ~
ちょっと逃げ腰な私に気づいてなさそうに2人ともにっこり笑って話しかけてくる。
「雪菜ちゃんは商売敵だったんですね?」
「いやいや、陽だまり庵とはいろいろ違いますよ~。
場所だって駅をはさんで反対にあるじゃないですか、でもmakoさんがこっちに来るのは珍しいんじゃないですか?」
「今日はたまたまこの近くに用がありましてね。
ちょっとのどが渇いたのでコーヒーでも飲もうかという話になったんですよ」
「そうなんですか。
なんにしますか?」
「僕はブレンドを、皇雅さんはどうしますか?」
makoさんは昨日と違い最初から柔らかい表情をしているイケメンさんのほうを向いて聞く。
私もイケメンさんのほうを向くと、またまた視線がバッチリ合う。
あの…私ではなくメニューを見てください……
「そうだな…君のお勧めは何かな?」
「え~…と、甘いものがお好きならキャラメルマキアートとか、ショコラフレーバーのものとか人気です。
makoさんの頼まれたブレンドと、エスプレッソも男性には人気かと…」
「君が一番好きなのは?」
「わ、私ですか?」
商品の説明をしていてもメニューを見てくれないイケメンさんは、私と目を合わせたまま目じりを下げ微笑んだ。
ちょ、ちょっとその笑顔は強烈です!
こんなイケメンさんにそんな風に微笑まれるなんて初めてなんですっ!
顔に熱が集まってくるのがわかる。絶対に今私顔赤いですよねっ?!
「わ、たしはっ、キャラメルマキアートが一番好きですっ」
「そう、ならそれにしよう」
「皇雅さん…それは皇雅さんにはずいぶん甘い飲み物ですけど……」
「かまわない」
「……そうですか。
では雪菜ちゃん、ブレンドとキャラメルマキアートを両方ホットでお願いします。
ああ、サイズはMで」
なんだか「そうですか」っていう時、makoさんのにっこり笑顔の後ろになんだか黒いオーラが見えたような……
うん、気のせいだ、見間違いだね、私霊感ないしね。
「ブレンドとキャラメルマキアートをホットのMサイズですね。
ご一緒にサイドメニューはいかがですか?」
「いただこう」
決まり文句を言うと、すぐさまイケメンさんがこたえた。
「何にされますか?」
「君の好きなものを」
さっきと同じことを言われた……
何、なんなんですか?!イケメンさんっ!
私のことからかってます?!
昨日マジマジ見て騒いだことを根に持ってるんですか?!
対応に困ってあわあわしていたら、makoさんが助け船をだしてくれた。
「まぁ、気にされずに。
皇雅さんはこのてのお店には入ったことがないので、何をと聞かれてもわからないから雪菜ちゃんの意見をきいているんですよ」
「そう…ですか」
「ええ、そうですよね?皇雅さん」
「いや、ニューヨークやパリではたまに数馬と行く…」
「ですので雪菜ちゃんのいつも食べているものを出してください。
甘いお菓子で全然かまいませんよ」
makoさん今イケメンさん否定してましたよね?
無視ですか?!
そしてなぜ私のお勧めは甘いものだと……
確かに私の一番好きなのはシュガードーナッツですけど。
でもこのイケメンさんにシュガードーナッツは勧めずらい、この顔でドーナッツを食べる姿が想像できないし。
ここは無難にサンドイッチかベーグルにしとこうか……
「誠の言うように君の好きなものを教えてくれ」
私の考えが伝わったのかイケメンさんまでそんなことを言う。
「では…シュガードーナッツもどうですか…?」
「いただこう」
なんだか嬉しそうに見えるイケメンさん。
ホントになんなんだろう……