10
次の日は正直学校に来るのが憂鬱だった。
でも来てみれば、何も気にすることはなかったかな? というほどいつも通り。
違うことといえば朝から山田君と全く話してないことくらい。
それについて休み時間に、何人かクラスメートにケンカした? と聞かれたけど、マナちゃんがにっこり笑って「なに?」というだけで、みんなそれ以上何も聞かずに周りからいなくなった。
美少女には何か特殊能力でもあるのだろうか……?
マナちゃんに敗れた人がそのまま山田君の方に行って、何だか向こうに人集りができてる。
「マナちゃん、普通に別れたって言えばいいんじゃない?」
「言うにしたってあいつが言えばいいのよ。もうユキはあいつに関わることないんだからほっときな」
マナちゃんはそういうけど、人集りがどんどん増えていくとどうしても気になってしまう。
まぁ、私もあまりいろいろ聞かれたりとかは嫌だから…
うん、山田君頑張って。
そんな山田君の方を見ながら、マナちゃんが凄く嫌なものを見るような顔をしている。
「それにどうせ昼休みになれば嫌でも周りじゅうが何があったかわかるわよ」
「どうして?」
「どうしてかねぇ〜、とりあえず今日は学食で食べよ」
「でも私今日お弁当あるよ?」
「持ってけばいいよ、私はスペAにしよ〜」
「いつも思うけどその体のどこに入るの……」
思わずマナちゃんのお腹のあたりを見てしまう。
スペAことスペシャルA定食は安い! 多い! が売りで、男子の一番人気のメニューだ。育ち盛りの食欲を満たしすぎるほど満たしてくれる。
私は一度チャレンジして半分も食べれなかった、それをマナちゃんは完食し、たまにデザートにプリンも食べている。
中学の時は給食が足りないといつもブツブツ言ってたのが懐かしい。
食べる量が全然違うのに、何で私はキューピースタイルで、マナちゃんはダイナマイトボディなのか……切ない。
「どこに入るって、ここ以外どこよ」
ケラケラ笑いながらお腹をパンパン叩いている。
そのお腹に入っていくから不思議なんだよ。
マナちゃんのスペAへの愛を聞いているうちにチャイムがなった。さてマナちゃん、お昼までもうちょっと頑張ろう。
お昼のチャイムがなるとマナちゃんの行動は早かった。
お財布を持って早く早くと急かされる。
待って、腕を揺さぶられるとお弁当も揺れてしまうからっ。
お弁当とお財布を鞄から出してるとマナちゃんから舌打ちが聞こえてきた。
ええっ、そんなにお腹空いてたの?!
「もう来やがった、あいつ授業出てるの?」
「え?」
舌打ちに驚いて顔をあげると、マナちゃんは私を見ていなかった。
視線を追うと入り口にはなるほど……茜だ。
茜は二年の教室だなんて気にしてないのか堂々と入ってくると山田君の前に来た。
「茜? どうしたんだ?」
不思議そうな山田君の感じから約束していたわけではなさそうだ、そんな彼の机にトートバックを置くと、首を少し傾けて茜自慢の笑顔を向ける。
「隆君に食べてもらおうと思ってお弁当作ってきたんだぁ、一緒に食べよぉ」
甘えたように語尾を伸ばして笑う茜を、私達と山田君以外のクラスメート全員が驚いた顔で見た。
その後私の方をチラチラ見てくる。
ヤダなぁ、こんな時同じクラスは困るな……。
うん、みんななんか言いたそうにこっちを見てる。
もしかしてマナちゃんはこうなると気づいてたのかな?
あり得る…マナちゃん茜のことにやたら敏感だし。
山田君も周りの目が気になるのかちょっと焦ったように立ち上がった。
「茜、俺弁当持ってきてるんだ。だから悪いけど…」
「そんなぁ、茜5時に起きて隆君のために頑張ってつくったんだよぉ?! ちょっとでもいいから食べて欲しいよ〜」
「アー、うん、ありがとう。じゃあ弁当はもらうから茜は自分の友達と食べな?」
「何で〜?! 一緒じゃなきゃ嫌だよっ!」
クラスメートと一緒になってそんな2人のやり取りをボーッと見ていたら、マナちゃんに腕を掴まれ教室を出た。
何にも言わずに私の腕を掴んで学食へ突き進むマナちゃんに聞いてみる。
「マナちゃんひょっとして茜が来るって気づいてた?」
「あの性格ドブスの考えそうなことなんて想像つくわよ。いっつもいっつもワンパターンなんだよね、頭悪いったらない」
「あ〜、そうだよね、よく考えれば予測できることだったのに……ごめんね」
「ユキが気にすることなんて何もないっ」
うん……でもごめんね。
せっかく茜がくる前に教室から出そうとしてくれていたのに、私がもたもたしてたから……
怒りのためにガニ股で突き進んで行く親友の背中に、声にすると怒りを加熱させるだけのようなので、心の中でもう一度謝った。